障がいや病気などの理由で長期間の安定した就労が難しい場合、就労継続支援B型を利用するのは1つの選択肢となります。
しかし、就労継続支援B型の利用が初めての場合は、様々な不安を抱えてしまうこともありますよね。その中には、貰えるお金に関わる不安も含まれていることだろうと思います。
この記事にたどり着いたあなたは、
「就労継続支援B型で高い工賃を貰うためのポイントはあるのだろうか?」
このような疑問をお持ちではありませんか?
- 就労継続支援B型の工賃の全国平均額や計算方法
- 高い工賃を貰える就労継続支援B型の事例
- 実際に高い工賃を貰うにはどうすればいいのか?
について解説していきます。
この記事を読むことで、工賃についての疑問を解決して、あなたに合った就労継続支援B型の事業所に出会うための一助としていただければ幸いです。
就労継続支援B型の「工賃」とは?全国の平均額について
工賃とは、雇用契約を結ばずに行った生産活動に対して払われるお金のことです。就労継続支援B型では事業所と利用者の間に雇用契約を結ばないため、利用者が受け取るお金は「工賃」と呼ばれています。
一方で、雇用契約を結んでいる従業員が受け取るお金のことは「給料」と呼ばれます。そのため、給料は最低賃金が保証されているのに対し、工賃は最低賃金が保証されていないという違いがあるため、一般的に「工賃は給料よりも安い」という特徴があるのです。
全国には約2万件の就労継続支援B型の事業所があり、令和4年度の工賃の全国平均は「月額17,031円」で、これを時給に換算すると「243円」という結果になっています。
工賃については事業所ごとにバラつきがあるほか、同じ事業所内でも担当する作業によって差が出る場合があります。また、就労継続支援B型では利用者の体調を優先して出勤日数や勤務時間の調整している方が多く、貰える工賃の金額は人によって千差万別です。
以下では、「工賃」について深掘りしていきましょう。
就労継続支援B型の工賃はなぜ低いのか?
就労継続支援B型の利用者の多くは、最低賃金の1/4程度の工賃しか得られていないのは先述の通りです。
このように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、雇用契約を結ばない就労継続支援B型には、「労働基準法」や「最低賃金法」などの労働関係の法令が適用されていない事情があります。
就労継続支援B型では、障がいや病気により一般企業での就労が困難な方を対象に、
このような目的で運営されています。
そのため、就労継続支援B型で提供できる生産活動はハンデがある方でもこなせる内容である必要があり、どうしても単価の低い簡単な作業が多くなりやすいのです。
事業所には行政から支給される給付金がありますが、この給付金を利用者の工賃の支払いに使ってはいけない法律があります。このような法律は、給付金目当てで利用者を囲い込む悪質な事業所を作らせないために制定されています。
つまり、原則として利用者の生産活動によって得られた利益から工賃が支払われるため、工賃を高くするには生産活動の利益を追求する必要があるのです。そのため、「お金を払いたくないから安い工賃を設定しているのでは?」と誤解されてしまうことがありますが、事業所が特別儲かっているわけではなく、やむを得ない事情があるのです。
就労継続支援B型の平均工賃月額の決め方【計算例あり】
就労継続支援B型の利用者が受け取る工賃の金額は、事業所ごとに作成されている「工賃規定」によって決められます。工賃規定では、工賃額の決定方法の他にも支払日や支払い方法についての具体的な内容が定められています。
また、就労継続支援B型の事業者指定を受けるには、平均工賃月額を3000円を下回ってはいけない法律があります。
実は、厚生労働省により就労継続支援B型の平均工賃月額の計算方法が改定され、令和6年4月1日から新しい計算方法が施行されることとなりました。
新しい平均工賃月額の計算方法は、
となっており、従来の計算方法では利用日数が少ない利用者を多く抱える事業所ほど、平均工賃月額が低くなるという問題点を改善することができるのです。
例えば、
という就労継続支援B型の事業所で平均工賃月額を計算すると、
このようになるのです。
もっとも、平均工賃月額はあくまでも目安であるため事業所の生産活動の実績を判断するポイントにはなりますが、「実際に貰える工賃」ではない点に注意が必要です。
貰える工賃額については事業所ごとに、
など採用している計算方法が異なる場合があります。
貰える工賃額について気になる点がある時は、あなた自身がどれくらいの頻度で就労継続支援B型を利用したいかなどを踏まえた上で、事業所に問い合わせるのがよいでしょう。
就労継続支援B型の工賃格差について
厚生労働省が集計している就労継続支援B型事業所の平均工賃月額のデータを見ると、平成18年では「12,222円」、令和4年では「17,031円」となっており、貰える工賃額は全体的に上昇しています。一方で、貰える工賃額については地域や事業所ごとに大きな格差が存在するのが現状です。
令和4年の平均工賃月額を都道府県別のランキングで見ると、1位は徳島県で「22.361円」となっており、東京は34位で「16,320円」、最下位は大阪府の「13,681円」となっています。また、平成30年のデータでは、平均工賃月額が上位25%の事業所では「28,377円」、下位25%の事業所では「6,328円」となっており、事業所間でも4倍以上の工賃格差が見られています。
就労継続支援B型には、「働く場所」であると共に「障害福祉サービスを受ける場所」でもあります。工賃を高くしたいと考えると、福祉面や経営面でのかじ取りがさらに難しくなる点が、多くの事業所の悩みの種となっているようです。
工賃が高い就労継続支援B型事業所のデメリットに気を付けよう
多くの方がこのように考えるのは当然のことだと思います。生きていく上でお金は大切なものですし、何よりも高い工賃を貰うことで「お金を稼ぐ喜び」や「通所するモチベーションの維持」に繋がることもあるでしょう。
ですが、先述している通り工賃は就労継続支援B型の利用者の生産活動によって得られる利益から支払われるものです。そのため、工賃が高い事業所では以下のようなデメリットが発生する可能性があることも意識しておきましょう。
これらの要因が重なることで、「工賃は高くても通うのが辛い……」等といった状況に陥ってしまうと、あなたにとって精神的にも肉体的にも大きな負担となってしまいます。
こうならないためにも、
以上のような視点を踏まえた上で、貰える工賃について検討をすると良いでしょう。
それでは、ここから先の記事で実際に工賃が高い就労継続支援B型の事例や、高い工賃を貰うポイントについて解説していきます。
工賃が高い就労継続支援B型事業所を覗いてみよう
従来の就労継続支援B型では、生産活動は部品の仕分けや商品の梱包といった軽作業が中心でした。ですが、現在では「接客」「調理スタッフ」「IT・プログラミング」など、利用者のスキルアップによって将来の自立に繋がりやすい作業を扱う事業所も増加しています。このような作業は作業単価が高い傾向があり、利用者のスキルアップに応じて工賃もアップしやすい傾向があります。
以下では、障害福祉サービスと高い工賃の提供を両立している個性的な3つの就労継続支援B型事業所を紹介していきます。
- 〜世界の植物と昆虫のお店〜 アペロ・ヒューレ
- ユメグミ
- 麵屋時風
順に解説いたします。
〜世界の植物と昆虫のお店〜 アペロ・ヒューレ
愛知県名古屋市にある就労継続支援B型事業所の「アペロ・ヒューレ」は、サボテンや多肉植物などの希少な植物や、ヘラクレスオオカブトやウーパールーパーなどの世界の生き物を飼育して販売する事業を展開しています。その他にも、「PC入力」「ウェブショップ運営」「調理」「木工制作」など20種類以上の作業を取り扱っており、利用者の得意なこと・好きなことから仕事を始められる環境になっています。
アペロ・ヒューレの工賃は、令和6年2月時点で「時給1,030円」となっており、「最低賃金を下回らない工賃の実現」というコンセプトで運営されているのが特徴的です。もちろん、1日短時間の利用から仕事に慣れたい方やたくさん稼ぎたい方など様々なニーズにも対応しており、アペロ・ヒューレでは月15万円以上の工賃を得ることも可能です。
アペロ・ヒューレは「一般社団法人・日本社会福祉協議機構」の事業拡大の一環として運営されています。アペロ・ヒューレのような事業所は「次世代型就労支援」とも呼ばれており、社会の中に障がい者のスキルやパフォーマンスを生かせる「働き方」「環境」を作り出す活動に力を入れています。
就労継続支援B型という枠組みにとらわれず、障がい者に対する「支援」「介護」などの福祉サービスに「工賃向上による収入源の確保」という視点を加えて、利用者の生活の自立を目指しているのがアペロ・ヒューレという事業所です。
就労継続支援B型事業所[アペロ・ヒューレ]/名古屋相生店 | JWCO日本福祉協議機構
JWCO日本福祉協議機構
ユメグミ
大阪府大阪市にある就労継続支援B型事業所の「ユメグミ」は、「ホームページ作成」「動画編集」「名刺やチラシのデザイン」などの作業を請け負いながら、事業所内でマグカップやTシャツをデザインして販売する事業を展開しています。「株式会社ラボアート」という老舗Web制作会社によって運営されているため、実践的なデザインやプログラミングスキルを身に付けながら作業に臨める環境となっています。
ユメグミは令和3年にオープンした事業所ですが、オープン直後から工賃は順調に上がり続けています。令和6年時点でのユメグミの工賃は、スキルに応じて変化しますが平均時給で「約500円」となっており、将来的には平均工賃月額10万円超えを目指して運営されているようです。
「デザインやWeb制作のスキルを身に付けたい」「在宅で働けるスキルが欲しい」といったニーズに答えながら、利用者のペースに合わせて自立をサポートしているのがユメグミという事業所です。
麵屋時風
東京都足立区にある就労継続支援B型事業所の「麵屋時風」は、「弁当の販売」「ラーメン屋の営業」という事業を展開しており、「調理」「接客」「軽作業」「清掃」などの作業を取り扱っています。
麵屋時風は、「ラーメンと福祉」を組み合わせた全国的にも珍しい事業所となっており、地元新聞で取り上げられたこともあります。そのため、地元では「就労支援のお店」「スープがおいしい本格的なラーメン屋」として知られているようです。
令和4年度の麵屋時風の平均工賃月額は「69,400円」となっており、通所のための交通費も支給されるため安定した収入を得ることができます。昼食には無料でまかないを食べられるという、飲食店ならではの利用者サービスがあるのもうれしいポイントではないでしょうか?
また、麵屋時風は「精神疾患」「引きこもり」「生活保護受給中」などの理由によって社会との接点を失ってしまった方を受け入れる体制も整えています。飲食店の仕事に興味がある方だけでなく、社会復帰に向けて一歩を踏み出したいと考えている多くの方をサポートしているのが麵屋時風という事業所です。
就労継続支援B型で高い工賃を貰うための3つのポイント
工賃の計算に時給制や日給制を採用している就労継続支援B型事業所では、利用時間や利用日数を増やせば貰える工賃も増えます。ですが、これはあまりにも当たり前のことですよね。
それに加えて、就労継続支援B型では利用時間が2時間~4時間程度に設定されていることが一般的です。あなた自身の体調面や通院などの事情も考慮すると、利用時間や利用日数を増やして高い工賃を貰うという方法は現実的ではないこともあるでしょう。
そのため、以下では「工賃が高い就労継続支援B型事業所の特徴」という部分に注目して解説していきます。
ポイントとしては、大きく3つ存在します。
- 事業所が掲げている目標や工賃に対する意識に注目する
- 単価が高い作業を取り入れている事業所を探してみる
- 工賃の額のみでは測れないポイントに注目する
順に解説いたします。
事業所が掲げている目標や工賃に対する意識に注目する
就労継続支援B型では、「居場所づくり」に重点を置いてレクリエーションなどの活動に取り組む事業所もあれば、「就労支援」に重点を置いて生産活動の中で福祉支援を提供している事業所もあります。そのため、後者の事業所の方が貰える工賃は高くなる傾向が見られます。
また、就労継続支援B型は平均工賃月額が3,000円を超えていれば低工賃でも運営できるシステムであるため、事業所の施設長や職員が工賃アップに積極的ではないケースもあるようです。
これは私の個人的な考えになりますが、工賃を上げにくい背景には「障がい者は健常者よりも仕事ができないのが当然」という意識が少なからず関わっているように見えます。実際に、社会福祉の現場では「障がい者が作るものは安くないと売れない」という意識が、「障がい者であれば安く仕事を依頼できる」という悪循環を生み出していると指摘されることがあります。
障がい者の仕事に対して偏見や先入観を持たず生産活動の価値を正当に評価して、それに見合った適正な価格で流通させるという考え方を「ウェルフェアトレード」と言います。そのため、事業所ごとのウェルフェアトレードに対する考え方に注目するのも、高い工賃を貰う上での1つのポイントとなるでしょう。
単価が高い作業を取り入れている事業所を探してみる
就労継続支援B型の平均工賃月額は、作業内容によっても大きな差が見られます。令和3年度に厚生労働省が発表した、作業内容ごとの平均工賃月額は以下の通りです。
作業内容 | 平均工賃月額 |
---|---|
クリーニング | 25,761円 |
パン製造 | 14,509円 |
農業・園芸 | 14,025円 |
郵便物の仕分け・発送 | 12,178円 |
繊維・皮革製品 | 11,362円 |
作業内容別で見るとクリーニング作業の工賃は高い一方で、軽作業系は全体的に工賃が低い傾向が見られます。しかし、これらはあくまでも傾向です。軽作業系であっても歩合給で工賃を支払っている事業所では、スキルアップによって作業効率が上がれば相対的に工賃も向上していきます。
また、「自社のサービスや製品の提供をしている」「施設外就労ができる」といった事業所では、高い工賃を貰いやすい傾向があります。
工賃の額のみでは測れないポイントにも注目する
就労継続支援B型によっては、「食事の提供」「送迎サービス」「グループホーム」など、利用者の生活面や経済面の負担を軽減するサービスを受けられる場合があります。
全国の就労継続支援B型では、約70%の事業所が「1食あたり無料~300円程度」で食事の提供を行っています。
また、就労継続支援B型では原則として通所のための交通費の支給がありません。そのため、交通費についてはお住いの地方自治体が設けている制度や障害者割引を利用して通所することになりますが、自己負担分が発生するのは避けられないでしょう。そこで、無料の送迎サービスを実施している事業所を利用すれば交通費が抑えられるため、相対的に貰える工賃が増えることにも繋がります。
そして、事業所で身に付けられるスキルの価値に注目することもできます。
例えば、あなたがプログラミングを学びたいと思った時、プログラミングスクールを半年利用すると40万円以上の費用がかかると言われています。一方で、IT系の作業を扱う事業所に通所する場合は、工賃を貰いながらプログラミングを学べるという環境が手に入りますよね。
実際に貰える工賃以外にも、就労継続支援B型だからこそ得られるサービスをお金に換算してみると、事業所ごとの様々な魅力を発見できるかもしれません。勿論、それだけではなく、あなたにとって合っている仕事かを確認することも必要です。そのための方法の1つとして、実際に事業所を見学をしてみるのも良いでしょう。
事業所の見学については、以下の記事でも詳しく解説しております。
まとめ
- 就労継続支援B型では、事業所と利用者の間に雇用契約を結ばないため最低賃金などは保証されておらず、利用者が受け取るお金のことを「工賃」と呼んでいる
- 全国にある就労継続支援B型の工賃平均月額は令和4年度で「17,031円」となっており、平均工賃月額の計算方法なども見直される中で利用者が貰える工賃は上昇傾向にある
- まだまだ少数ではあるが、利用者の生活の自立を促す目的で工賃アップに取り組んで、最低賃金以上の工賃を支給できるように努めている事業所もある
- 高い工賃を得たい場合は、事業所の「ウェルフェアトレード」の意識や扱う作業の単価、施設外就労の有無などのポイントに注目するのがよい
今回の記事では、就労継続支援B型の「工賃はいくら貰えるのか?」という点を中心に、「工賃が高い事業所の事例」や「高い工賃を貰うためのポイント」について紹介しました。
あなたの抱えていた「工賃への疑問」は解消されましたか?
就労継続支援B型を選ぶ場合、工賃の高さのみで選ぶのではなく、事業所の雰囲気や作業内容とのマッチングなど注目すべきポイントは様々あります。この記事が、就労継続支援B型を利用して新しい一歩を踏み出そうとしているあなたの一助となれたなら幸いです。
就労継続支援については、以下の記事でも詳しく解説しております。