世の中には、うつ病をはじめとした精神疾患を抱えつつも、日々仕事をこなしている人たちがいます。そのうち、一人暮らしをしている方の中に、経済的に厳しい方もいるかもしれません。あなたは、
「生活保護を受けるための条件がわからない…」
こういった悩みや不安はありませんか?
うつ病で一人暮らしの方は、条件を満たせば生活保護の受給が可能です。また、生活保護の他にも、受けることができる支援は数多く存在し、それぞれ特徴や条件も異なります。
そこで、
- うつ病で一人暮らしの方が生活保護を受けるための条件
- うつ病の方が生活保護を受けるメリットとデメリット
- 生活保護申請の流れ
- 生活保護打ち切りのケース
- 生活保護以外の経済的支援
- 生活保護以外の就労支援
について解説していきます。
この記事があなたの不安や疑問解消に繋がれば幸いです。
生活保護とは

生活保護とは、生活に困っている方に対して最低限の生活費を支給し、生活の保障と自立に向けたさまざまな支援を行う制度のことです。一人暮らしの生活保護受給者の金額目安として、10万から13万円程度です。
生活費や住宅扶助があると、一人暮らしでも安心して暮らすことが可能となります。また、医療扶助では医療費が実質無料になるため、うつ病の治療にも専念が期待できます。
生活保護費の内訳を、一部抜粋してご紹介いたします。
| 生活保護費の内訳 | 生活保護の内容 |
|---|---|
| 生活扶助 | 日常生活に必要な費用(食費・光熱費など)を 基準額に応じた金額の支給 |
| 住宅扶助 | 家賃を定められた範囲内で実費支給 |
| 医療扶助 | 医療費負担(本人の負担なし) |
| 介護扶助 | 介護サービスの費用負担(本人の負担なし) |
| 生業扶助 | 就労に必要な知識やスキルの修得等にかかる費用を 定められた範囲内で実費支給 |
うつ病で一人暮らしの方が生活保護を受けるための3つの条件

そういった不安や疑問を抱いている方も多いかと思います。ここでは、うつ病で一人暮らしをしている方が、生活保護を受けるための条件を3つ紹介していきます。
- 貯金・財産がない
- うつ病で働けない
- 頼れる親族がいない
順に解説いたします。
貯金・財産がない
生活保護を受けるためには、「貯金・財産がない」という条件があります。これは「預貯金・財産などは生活費に充てましょう」というものです。
生活保護は、原則として申請時点で生活困窮に陥っている方を保護する制度です。そのため、うつ病で働けない状態であっても、貯金(約10万円以上)や財産(不動産・車・株など)がある場合は受給できない可能性が高くなります。
ただし、
- 地方在住で車がなければ生活できない
- 不動産の売却が難しい
などの事情があれば所持を認められる場合もあるため、生活に困窮する前に市役所で相談しておくことが大切です。
うつ病で働けない
うつ病の症状が重く、仕事ができない場合は生活保護を申請することが可能です。ただし、「うつ病で働けない」という理由だけで、生活保護が受けられるとは限りません。
例えば、
- 傷病手当金(社会保険に加入していた方が対象)
- 失業保険(雇用保険に加入していた方が対象)
- 障害年金
などの制度を活用できる場合は、そちらを優先的に活用する必要があるため、自身の状況を確認することが大切です。もっとも、「これらの制度の支給額が生活保護の基準額に満たない」などの場合は、生活保護を併用できるため安心してください。
頼れる親族がいない
「頼れる親族がいない」ことも、生活保護を受けるための条件です。ここで言う「頼れる親族」とは、計税的援助(扶養)が可能な親族のことを指しています。
ですが、頼れる親族がいたとしても、
- 親族に経済的援助をする意思がない
- 親族から虐待やDVを受けている
など援助を期待できない場合は、生活保護を受けられます。
生活保護を申請すると、福祉事務所から親族に「扶養できないか?」という連絡が行われる場合があります。ですが、この連絡は親族の意思を確認するものであり、扶養を強制させるものではありません。そのため、生活保護を申請する場合は、事前に親族にも相談しておくと安心できるでしょう。
うつ病の方が生活保護を受けるメリット

生活保護は、生活困窮者にお金を支給するだけの制度ではありません。
以下では、生活保護の大きなメリットについて解説します。
最低限の生活が保障され、治療に専念できる
生活保護を受給することによって、生活費や家賃などが扶助されるため、最低限の生活の維持が可能になります。経済的な不安が解消されるため、精神的な安心にも繋がります。
また、生活保護の受給者は、通院や薬の処方にかかる利用費が無料になります。国民健康保険料の支払いも免除されるため、経済的な負担を気にせず治療に専念できるのは、うつ病の方にとって大きなメリットとなるでしょう。
就労支援が受けられる
生活保護を受給することによって、社会復帰に向けた就労支援も受けられます。
具体的には、
- ハローワークと連携した職業訓練の受講
- 就労移行支援の利用
などの支援が利用可能で、あなた自身のペースで働くための準備を進められます。
うつ病の方のハローワークのご利用に関しては、以下の記事でも詳しく解説しております。
うつ病の方が生活保護を受けるデメリット

生活保護にはメリットがある一方で、デメリットもあります。
以下では、代表的な2つのデメリットを確認しておきましょう。
持てる資産の制限
生活保護は生活困窮者を支える制度であるため、持てる資産には一定の制限があります。
例えば、
- 株などの有価証券の保有ができない
- 個人年金保険などの貯蓄型保険に加入できない
- 高級ブランド品の購入や所持ができない
- クレジットカードの利用は「一括払い」のみ利用可能となるケースが多い
(リボ払い、分割払い、キャッシングなどは借金とみなされるため原則禁止)
などの制限があります。これらに違反すると、ケースワーカーからの指導や生活保護の打ち切りなどの事態に発展する場合があるため注意しましょう。
一方で、「生活に必要な貯金・資産(スマホ・パソコンなど)」「娯楽品(ゲーム機など)」は所持が認められています。「この資産は持っていても大丈夫?」と疑問がある時は、あなた自身で判断せずにケースワーカーなどに相談することが大切です。
ケースワーカーとの訪問調査がある
生活保護を受給している間は、年に数回程度、福祉事務所のケースワーカーによる訪問調査が実施されます。これは、生活状況を確認して適切な支援を続けるために必要な手続きです。
うつ病の方の中には、「人と会うのが億劫」「生活状況を見られたくない」などの理由から、ケースワーカーの訪問を負担に感じる方もいるかもしれません。しかし、正当な理由なく訪問調査を拒否すると、生活保護が打ち切りになる可能性があります。
訪問調査の負担が大きい場合は、ケースワーカーに事情を説明すると配慮を得られる場合も多いため、事前に相談することが大切です。
生活保護の申請の流れを4ステップで解説!

生活保護の申請の流れは以下の通りです。
- 福祉事務所に相談する
- 生活状況や金銭状況・扶養調査などが行われる
- 審査結果通知
- 受給開始
ここでは、4つのステップについて解説していきます。
生活保護の申請をする場合は、お住まいの地域を管轄する福祉事務所生活保護担当者に相談するところから始まります。ここでは、「経済状況」や「仕事の有無」などの聞き込みが行われます。
- 生活保護を申請する意思を明確に伝えた場合
- 福祉事務所が生活保護の申請が必要と判断したい場合
これらの場合は、その場で申請書を受け取れます。担当者の指示に従いながら申請書を記入して、提出しましょう。
家庭訪問では、以下のような項目の調査が実施されます。
- 生活状況等を把握するための実地調査(家庭訪問等)
- 預貯金、保険、不動産等の資産調査
- 扶養義務者による扶養(仕送り等の援助)の可否調査
- 年金等の社会保障給付、就労収入の調査
- 就労の可能性の調査
調査はあくまでも「生活保護の条件を満たしているか?」の確認のために実施されるものです。「不正受給が疑われているの?」「怒られるのでは?」などの心配はないのでご安心ください。
うつ病でも生活保護が打ち切りになるケースとは?

以下では、生活保護が打ち切りになる代表的なケースを4つ紹介しています。1つずつ確認していきましょう。
不正受給が発覚した
当然ではありますが、不正受給をすると生活保護は打ち切られます。
実際に打ち切りになるケースで多いのが、「内職やギャンブルで得た収入を申告しなかった」というものです。他にも。「収入の虚偽申告」「申告していない財産がある」などの場合は不正受給とみなされるため、収入や財産の状況は速やかに福祉事務所へ申告をしましょう。
安定した収入が見込める場合
「就職した」「年金受給を開始した」などの事情で継続的な収入があり、保護費を上回る収入が続く場合は、生活保護は段階的に打ち切られます。ですが、「収入を得たらすぐに打ち切り」ということは無いのでご安心ください。
数か月間の経過観察を踏まえて、「安定した生活が送れる」と確認されてから判断されることが一般的です。
連絡がつかなくなった
生活保護の受給中は、定期的にどのような生活を送っているかを申告する必要があります。生活状況がわからないと受給は打ち切りとなるため注意しましょう。長期間の外泊や入院によって留守にする場合は、事前に連絡しておくと安心です。
病院の定期検診・治療を受けない
うつ病などの病気により生活保護を受給している場合は、定期的な通院が必要になります。
「治療が面倒」などの理由で通院していない場合は、「生活保護の受給を続けても改善の余地がない」と判断されて、打ち切りの原因にもなるため注意しましょう。
うつ病の方が利用できる生活保護以外の経済的支援

ここまで生活保護の受給条件やメリット、デメリットなどを見てきました。
「自分は生活保護を受けられそうにない。でも一人で暮らしていくのは不安だ」という方もいるかと思いますが、生活保護以外にも様々な経済的な支援制度があります。
- 傷病手当金
病気やけがで会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に健康保険から支給される手当金。主に休職中の方を対象としており、最大で1年半、給与の3分の2の金額を受け取れる。 - 失業保険
雇用保険の被保険者の方が離職した場合に支給される手当金。再就職までの期間の生活を支える制度で、在職中の給与の60%〜80%の金額を受け取れる。 - 自立支援医療制度
うつ病をはじめとする精神疾患の治療を行う方の、医療費の自己負担額を軽減できる制度。通常3割負担となる医療費が、1割負担にまで軽減される。 - 障害年金
病気やけがによって生活や仕事などに制限が生じた場合に、20歳以上の方が受け取れる年金。受け取るには年金の納付状況などの条件が設けられているが、受給できれば長期的な生活の安定が見込める。 - 心身障害者医療費助成制度
精神又は身体に重度の障がいがある方の医療費の一部、または全額を助成する支援制度。自治体が主導で行っている支援であるため、お住まいの地域によって制度の有無や内容が異なるが、医療費の負担軽減が期待できる。 - 生活福祉資金貸付制度
低所得者、高齢者、障がい者などが安定した生活を送れるよう、都道府県の社会福祉協議会が資金の貸し付けと必要な相談・支援を行う制度。生活保護一歩手前のセーフティネットとして位置付けられている。
また、以上の制度は「障がいの状態」「収入の条件」「社会保険・年金の加入状況」などにより、利用できるかどうかが異なります。制度の有無や内容についても自治体ごとに異なる場合があるため、まずはお住まいの市役所に相談するのがオススメです。
失業保険と自立支援医療制度については、以下の記事でも詳しく解説しております。
生活保護と併用できる就労支援

生活保護を受けて治療が進み生活が安定してくると、少しずつ自立に向けて動き出したいと思う方もいらっしゃるでしょう。
以下では、
「働くスキルを身につけたい」
このように考えている方に向けて、生活保護と併用できる就労支援を2つご紹介します。
就労移行支援
就労移行支援とは、障がいや難病のある方が、就職に向けて必要な知識やスキルを身につけるための就労支援サービスです。
この支援を利用することで、
- 社会生活の中で健康管理をする能力が身に付く
- 社会復帰までの流れや働くイメージが明確になる
- ビジネスマナーやパソコンスキルの習得など、職業訓練が受けられる
などのメリットがあります。
就労移行支援を利用しても収入は得られませんが、生活保護と併用しながら働く準備を整えたい方にはおすすめの就労支援です。
就労継続支援
就労継続支援とは、障がいや難病のあり一般企業で働くことが困難な方に、働く場所を提供する就労支援サービスです。就労を通したスキルアップを目的としており、作業によって給与・工賃が発生します。
就労継続支援には、雇用契約を結ぶ「A型事業所」と雇用契約を結ばない「B型事業所」の2つがあります。
A型事業所
最低賃金が保障されているため、「月額8万円」程度の給与が得られます。ただし、安定した収入を得られるため、生活保護との併用は不可能なことが一般的です。
それでも、生活保護から次のステップに進みたいという方にとってはおすすめの就労支援なので、A型事業所の利用を検討する場合は、ケースワーカーなどに相談することが大切です。
B型事業所
雇用契約を結ばないため、得られるお金は各事業所が定める工賃によって変わります。
令和4年度の工賃平均は「時給243円」となっているため、生活保護と併用しやすい就労支援です。また、1人暮らしの生活保護受給者は、「月8000円」までの収入は控除対象となっています。
申告をすれば、8000円までは自由に収入を得られるため、ケースワーカーと相談しながら利用を検討すると良いでしょう。
メリットとポイント
就労継続支援は、生活保護を受けながらでも社会との繋がりを保てるため、働くことにブランクのある方には特におすすめの就労支援です。「生活保護と併用できるか?」については障がいの状況などによっても異なるため、福祉事務所・ケースワーカー・ハローワークなどと相談しながら話を進めていきましょう。
就労継続支援と生活保護については、以下の記事でも解説しております。
まとめ
- 生活保護とは、生活困窮者を対象に最低限度の生活を保障する制度のこと
- うつ病の人が生活保護を受けるには「預貯金や資産がない」「うつ病により働けない」「頼れる親族がいない」という条件を満たす必要がある
- うつ病の人が生活保護を受けると「経済的負担」が軽減され、治療や経済支援等を受けやすくなるメリットがある一方、資産制限や面談などが負担になりやすいデメリットがある
- うつ病であっても「不正受給の発覚」「最低生活費を超える収入が見込めた」「音信不通」「病院での治療等を受けない」などにより生活保護が打ち切られるケースがある
- 生活保護以外にも「傷病手当金」「失業保険」「障害年金」などの様々な経済的支援や、社会復帰に向けた就労支援サービスが利用できる
この記事では、「うつ病の方が生活保護を受けるにはどうしたらいいか?」を解説してきました。
「うつ病で働けなくなり、誰にも頼れない」といった場合は生活保護を受けられる可能性があります。生活保護の申請は国民の権利であり、誰しもが必要とする可能性のあるものです。
「うつ病で利用したら怒られるのでは?」
このような不安は全て誤解です。生活に困窮する前に、ためらわずに自治体に相談してみてください。
この記事が、あなたの助けになれば幸いです。


