事務職は一般的に、ADHD(注意欠如・多動症)の方にはあまり向いていない仕事だと言われていますが、あなたはその理由を知っていますか?

「事務職で働いているけれど、仕事が上手くいかないのはADHDが原因なの?」
上記のような悩みや疑問を抱えてしまう方は珍しくありません。淡々としたイメージのある事務職と、落ち着きのない印象のADHD。確かに合っていないイメージがありますよね。
しかし、事務職の経験がある方は体感しているかもしれませんが、本当の理由はもう少し根深いところにあります。
- ADHDに事務職は向いていないといわれる根本的理由
- ADHDなら事務職は避けたほうがいいのか?
- ADHDでも事務職でうまく働ける苦手対策法4選
- 1人では難しいと感じたら医師や支援機関に相談
これらについて解説していきます。
ADHDに事務職は向いていない?
ADHDには、
- 不注意性
話を集中して聞き続けることができない、細かいミスが多い など - 多動性
落ち着きがない、じっとしていられない など - 衝動性
○○したいと思ったことを熟考せず行ってしまう、癇癪を抑えられない など
といった3つの特性があり、確かに事務職に向いていないといわれる要素があります。
特に不注意性と多動性は、正確性や継続性を求められる事務作業において不利に働きやすい特性です。
- 集中が持続せずミスをする、ミスの反省をする前に次の行動に移ってしまいミスを重ねる
- 物を忘れたり失くしたりする
- 物事の優先順位がうまくつけられず予定通りに業務を進められない
- 落ち着きがない、大事な話を聞き逃してしまう
などの問題が生じる可能性があります。
しかし、これらは表面的な問題でしかありません。
ADHDに事務職が向いていないといわれる根本の理由は、「事務職のマルチタスクの多さ」と「ADHDのマルチタスクの苦手さ」という2つの要素がミスマッチを起こす点にあります。
この項目で詳しく解説していきます。
事務作業はマルチタスクが多い
事務職と聞いて、まず淡々としたデスクワークをイメージする方は少なくないでしょう。
確かに事務作業の1つ1つは簡単なものが多く単純ですが、だからこそ「仕事の正確さ」を求められるという、ADHDの方にとってプレッシャーになるかもしれない作業の連続です。
しかし実際の職場では、ほとんどの場合それだけでなく、下記のように仕事を同時並行で進めることが求められます。
- 書類作成をしながら電話対応の待機
- 同僚の進捗を確認しつつデータ入力、折を見てヘルプに入る
- 仕事中に雑務を頼まれる
など
会社にもよりますが、人手が少ないほど事務職への要求は多岐に渡る傾向があります。コミュニケーション力を求められる機会も少なくありません。
このマルチタスクの多い業務内容がADHDとの相性の悪さを決定づけています。
ADHDはマルチタスクが苦手
ADHDは「物事の優先順位が決められない」「計画を立てられない」などの特性からマルチタスクが苦手です。
シングルタスクをこなす時はそれほど問題になりませんが、要求される作業が複数になったときにはどうしてもそれらが明瞭に表れやすくなります。
ADHDの方が事務職でマルチタスクに失敗した例
下記は、ADHDの方が事務職でマルチタスクに失敗した例です。2つ抜粋して紹介します。
- 今日中の書類作成中に電話応対の機会がくる
- 応対することで新たにタスクが発生
- 書類作成が途中であることを忘れてしまう…
(例1)
- 上司に「所定の書類を届けること」と「前日任せた作業の進捗報告」を指示された
- すでに仲のいい同僚から仕事を任されており、恩もあるのでそちらを優先
- 結果上司に書類は届けられたものの、指示された作業は進まず進捗報告はその場しのぎに…
(例2)
このようなケースが事務職では頻発します。
加えて、コミュニケーション能力が求められる来客・電話対応などの業務では、「会話内容を正確に把握すること」「失礼のない対応」などを意識しなければならず、ADHDの方にとっては大きな負担になりかねません。
もちろん職場によって程度は異なりますが、業務が複雑になりがちな事務職はADHDの方が失敗をしやすい仕事と言えます。事前にこれらのことを把握し対策をしていないと、つらいと感じてしまうかもしれません。
ADHDなら事務職を避けた方が良い?
先述の通り、ADHDの方に事務職が向いていない可能性はあるでしょう。
しかし、「事務職ができない」と決めつけるのではなく、一度挑戦してみることも大切です。
ADHDでも事務職は可能です。
- ADHDの「集中できれば活発で作業が速い」という特性は事務職で強みになる
- 事務職は門戸が広いため、切り捨ててしまうと選択肢が大幅に狭まる
などの理由から、ADHDの方に事務職がすすめられることも少なくありません。
適職と出会うために大切なのは視野を広げることです。事務職を苦手と感じているあなたでも、「事務職で直面しやすい苦手要素」をはっきりとさせて苦手に適した対策を行えれば、問題なく働けるようになります。
「特別苦手意識があって避けたい」という気持ちがない限り、簡単に諦めてしまわず対策を心がけてみましょう。
ADHDでも事務職でうまく働ける!苦手対策4選
ADHDの事務職に関する苦手対策について
「どんな方法があるか知りたい!」
という方もいらっしゃるでしょう。
この項目では4つの対策法をご紹介します。ぜひご活用ください。
「落ち着いて」「最後まで話を聞き」「流れを復唱する」
ADHDの方の場合、話を整理して聞けていない場合があります。事務職のマルチタスクに対応するためには、指示をきちんと把握することが大切です。
そのため、「うまく話を聞けていないかも」と思った方は指示を受けた際、
- まず落ち着ける状況を整える
- 話を最後まで聞く
- 聞いたら流れを復唱し、「〜でよろしいでしょうか?」と確認する
これら3つのステップを意識してみましょう。
自分の受け取った指示が明確になり、間違いが起こりにくくなります。
チェックリストを活用する
「タスクが割り込むと前の仕事を忘れてしまう」
というADHDの方が、事務職で働くときに最もオススメなのがチェックリストの活用です。
- 仕事が舞い込んだらとりあえず書き出しておく
- 片付いていない仕事が複数ある場合は優先順位をつける
- 終わった仕事は消す
こうすることでリストを確認すればいつでも自分が今すべき仕事を把握できますし、どうすればいいかわからない場合でも簡単に上司などに判断を仰げます。
書類は「いる」「いらない」「わからない」の3つの箱で整理する
事務職は書類を扱う機会が多い仕事です。あなたは「メモや書類が散らかってうまく片付けられない」という悩みを抱えていませんか?
もしお困りでしたら、下記の方法をお試しください。
- A4用紙が入る箱を3つ用意し、それぞれに「いる」「いらない」「わからない」と名前をつける
- 書類を必要に応じて分別
- 「いる」はファイリングして保管、「いらない」はシュレッダー、「わからない」はスキャンしてPC内に保管したのちシュレッダーで処理
スキャンはスマートフォンのアプリでも可能です。PC内保管の際にも日付を振るだけでなく、同様に3つ程度の重要度で分けても良いでしょう。最初は大変かもしれませんが、習慣付けてしまえば書類の整理が楽になります。必要な書類を探すのに手間取ったり、紛失してしまったりすることが減るのでオススメです。
職場にも配慮を求める
職場にもよりますが、「自身はADHDでこういった特性・傾向があります」と伝えられていると、必要な配慮が受けられる場合があります。
- どうしても落ち着く環境がないと仕事に支障が出る → デスクにパーテーションを設置
- 通院のある日にはどうしても休まなければいけない → シフトを調整して優先的に休ませてもらう
など
事務職に限らず、障がいのある方が働く上で求めたい配慮について整理しておくことは大切です。会社が対応可能かどうか事前に調べておき、もし可能であれば診断書の提出を考えましょう。長く働ける可能性が上がります。
1人では難しいと感じたら、医師や支援機関に相談を!
事務職で働くとしても、何か対策を始めるとしても、1人では難しいことも多いでしょう。そういったときは迷わず医師や支援機関に相談してください。必ずあなたの助けになってくれます。
この項目ではADHDの方が仕事で困った際に助けになってくれる支援機関を紹介します。
発達障がい者支援センター
発達障がいのある方への支援を総合的に行う目的で全国各地に設立された機関です。地域の関係機関と連携しているので、さまざまな相談に応じてもらえます。
詳細は下記の記事で解説しています。
精神保健福祉センター
精神保健の向上と精神障害者の福祉を充実させる目的で各都道府県及び政令指定都市に設置されている機関です。こちらは発達障がいだけでなくアルコール依存症などの相談にも対応しています。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
障がい者の職業生活における自立を図る目的で全国に設置されている機関です。数多くの就労に関わる支援機関と連携しており、相談することで就業と生活両面での適切な支援を受けることができます。
詳細は、下記の記事で解説しています。
就労移行支援事業所
障がいのある方に対して就労へ向けた訓練や適性にあった職場探し、就職後の職場定着を支援してもらえる機関です。相談することで就職して定着するまでの具体的な計画の設定や、就活に向けた実践的な訓練を受けることができます。
就労移行支援については、下記の記事で解説しています。
ハローワーク
厚生労働省が運営する、公共の総合的雇用サービス機関です。障がいのある方が利用できる専門窓口も存在しており、相談することで職業紹介や雇用支援の案内をしてもらえます。
さまざまな支援機関と相談窓口が存在しますので、お住まいの近くにどういった機関があるかをしっかりと確認し、必要になった際には目的に合った支援機関を頼ってみましょう。
なお、機関を利用する際には診断書が必要とされる場合が多く、医師への相談は必要不可欠です。心身の変化に気づくためにも、相談できる先を見つけておくことは大切でしょう。
困ったときだけでなく、定期的に通院して悩みや困りごとを共有しておきましょう。
まとめ|ADHDに事務職が向いていない理由と対策
- ADHDには事務仕事上で不利に働く特性があり、とくに「事務職のマルチタスクの多さ」と「ADHDはマルチタスクが苦手」という点から向いていないと言われやすい。
- ADHDは事務職に向いていないかもしれないが、苦手は対策可能なので「できない」と決めつけて完全に避けてしまうのはオススメできない。
- ADHDでも事務職でうまく働ける対策法として「落ち着いて、最後まで話を聞き、復唱する」「チェックリストを活用」「いる、いらない、わからないの3つの箱を用意」「職場に配慮を求める」などがある。
- 1人では対策が難しいと感じたら迷わず医師や支援機関に相談を。
ADHDの方が事務職に向いていないといわれる理由と、それでもうまく働くための方法について解説しました。
この記事があなたの助けになることを願います。