双極性障がいの症状にお悩みの方やご家族のみなさんは、特に危険と言われている「混合状態」をご存知でしょうか。
混合状態とは、躁状態とうつ状態が同時に表れる状態です。抑うつ状態にもかかわらずイライラして突発的に自傷行為をしてしまうなど、躁状態、うつ状態のみの時より危険であるとされています。
「混合状態をどうやって過ごせばいいのかわからない…」
あなたも、このようなお悩みをお持ちではありませんか？
つらさを和らげるためにも、混合状態の症状や傾向を知り、双極性障がいとの上手い付き合い方を探っていきましょう。
- 双極性障がいにおける混合状態とは
- 双極性障がいにおける混合状態のリスク
- 双極性障がいにおける混合状態の過ごし方
- 各種相談先および支援制度
について解説していきます。
双極性障がいにおける混合状態とは？
双極性障がいにおける混合状態とは、躁状態とうつ状態が同時に表れる状態を指します。
- すべて－（マイナス）：うつ状態
- すべて＋（プラス）：躁状態
- それ以外（＋－混合）：混合状態
「気分」「思考」「行動」のうち
例えば、「気分」「思考」「行動」という3つの要素全てがマイナス状態での場合うつ状態、逆に全てがプラス状態である場合は躁状態であるといえます。
一方で混合状態は、こうした各要素それぞれにマイナス状態とプラス状態が混在する状況です。
そのため「うつ状態なのに色々考えてしまい、じっとしていられない」「躁状態であるにも関わらず、不安が強く涙が出る」など、混合状態ゆえの不安定さによる衝動的な行動を起こしやすい、危険な時期であるといわれています。
混合状態の症状
双極性障がいでの混合型では、下記のような症状がみられます。
【躁病（軽躁病）エピソードにおける混合型の症状】
- 不快または抑うつ気分が顕著である
- 喜びや興味の著しい減退
- 精神運動抑制※がほぼ毎日ある
（※思考や決断力の停滞、思考の遅延、緩慢な動作など） - 気力の減退や疲労感がある
- 不適切な罪責感※や無価値感がある
（※物事がうまくいかないのは自分のせいだと思うなど） - 自殺念慮、自殺企図など、死についての反復思考（死・自殺について繰り返し考える）がある
【うつ病エピソードにおける混合型の症状】
- 開放的で高揚した気分
- 自尊心の肥大あるいは誇大妄想※
（※自分は特別であるという妄想的思考：自分には超能力がある、など） - 多弁で喋り続けたい衝動や気分
- 観念奔逸※
（※思考の進みが早く、思い付きは多いが目的から逸れている状態：次々と考えが浮かぶが話がまとまらない、会話の途中で何度も話題が飛ぶなど） - 目標指向性の活動の増加（仕事、家事、趣味などを必要以上に頑張り過ぎる）
- 結果を考えず興味のある活動（高価な買い物、ギャンブル、性的無分別、リスクの高いビジネスなど）に夢中になる
- 睡眠欲求の減少（3時間眠っただけでよく休めたと感じるなど）
どんなとき混合状態になりやすいのか
双極性障がいでの混合状態は、「躁状態からうつ状態へ変わる時（うつ転）」または「うつ状態から躁状態へ変わる時（躁転）」など、状態が切り替わるタイミングに発生しやすい傾向があります。他にも、うつ状態における抗うつ薬の投与がきっかけで発症する場合もあります。
本人や周りの方が要注意の状態であると意識できるので、可能であればこうしたタイミングを共有しておくと良いでしょう。
双極性障がいにおける混合状態のリスク
双極性障がいの混合状態は、「気分」「思考」「行動」という3つの要素がバラバラの方向に向いていることが特徴です。特に混合状態の、うつ状態においては希死念慮（死にたい気持ち）が強くなる傾向があります。
そこで行動が躁状態になってしまうと、「死んで楽になりたい」「もう終わりにしたい」といったその時の感情に任せた行動に出てしまうため、自殺企図（自殺の意図をもって自らの身体に損傷を加える行為）のリスクが高まります。
自殺企図の発生率は、混合状態では通常気分状態の120倍以上とされており、うつ病エピソード中での約60倍と比べても明らかに高いことが分かっています。また、双極性障がい全体での自殺率も一般人口の20～30倍と非常に高いため、リスクが上がる混合状態においては周囲も特に気を付ける必要があります。
自殺企図の可能性が高く、緊急性を認めるときは、
- すぐに医療機関を受診
- 家族や周りでの見守りを徹底
- 自殺リスクが落ち着くまで入院加療（入院しての治療）
など周りの方々による至急のサポートが必要となるでしょう。
双極性障がいにおける混合状態の過ごし方
双極性障がいに限った話ではありませんが、精神的な病気はストレスが発症のきっかけとなる場合が多いです。
双極性障がいの混合状態では、健康的な規則正しい生活を維持し、ストレスを溜めないことが最も大切になります。その上で、それぞれの状態に合った適切な薬物療法と、よく病気を理解して向き合う精神療法を続けていきましょう。
規則正しい生活を維持する
双極性障がいの治療における全ての基本は、混合状態に限らず、健康的な規則正しい生活を送り、ストレスを溜めないことです。
具体的には、下記のようなことを心がけると良いでしょう。
- 適度な運動
- 健康的な食事
- ストレスを溜めない
- 早寝早起き
- 寝る前のスマホやテレビを控える
- 禁煙
- アルコールやカフェインを控える
- 交代勤務や夜勤、残業などの回避
- 一定の生活リズム維持
特に生活リズムの乱れは、症状が悪化する原因となりやすいです。そのため、睡眠や食事などの生活パターンの安定化が重要になります。十分な睡眠をとり、規則正しい生活を維持するよう努めましょう。
適切な治療を受ける
双極性障がいの治療においては、薬物療法が基本になります。主に気分安定薬や抗精神病薬が使用されますが、症状によって適切な薬剤は変わります。眠れないなどの症状がある場合、睡眠導入剤が用いられる場合もあります。あまり気にならない症状だとしても、主治医には診察時点までの状況をできるだけ詳しく伝えましょう。
なお、双極性障がいは再発しやすいため、たとえ症状が落ち着いたとしても勝手に服薬を止めてはいけません。
また、自らが疾患を知ることで、症状への思考や対処法を自分自身でコントロールできるようにするための「心理社会的療法」も重要です。薬物療法と組み合わせることで、より高い効果が期待できます。
双極性障がいの方が利用できる支援
双極性障がいの症状で生活に困った時にも、問題を相談できるサービスや支援制度はたくさんあります。
双極性障がいを知り、その症状と向き合っていくためにも、これらのサービスを活用して病気を受け入れながら前向きに進んで行きましょう。
相談できるサービス
この項目では、困ったときに問題を相談できる施設やサービス、互助会などを紹介します。
保健所・保健センター
保健所および保健センターは各都道府県、政令指定都市に設置されており、地域住民の健康保持や増進を目的とする事業を行っています。精神保健全般に関することを相談できます。受診についての相談も可能で、適切な医療機関を紹介してもらうことも可能です。
保健所管轄区域案内｜厚生労働省
市町村保健センター｜厚生労働省
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、精神保健福祉法に基づいて各都道府県に設置されています。精神疾患がある方の社会復帰や自立支援のためのプログラムの利用、専門医による精神保健福祉に関する相談などが可能です。
また、センターによっては後述する家族会の運営などを行っている場合もあります。詳しくはHPや問い合わせ等で確認しましょう。
家族会
家族会は精神疾患を抱えている方の身内による集まりで、同じ悩みを語り合い、互いに支え合う会です。悩みを語り合うだけでなく、相互交流を行ったり、情報交換をしたりなどの相互支援や、学び合い、社会に対しての働きかけなどが行われている場でもあります。病院からの「病院家族会」や、地域における「地域家族会」、他にも有志が結成した会などさまざまな規模の家族会が存在します。
精神保健福祉センターや保健所などで具体的な情報を提供しています。
こころの耳
「こころの耳」は厚生労働省の運営する、働く方のメンタルヘルスをサポートする総合サイトです。働く方だけでなく企業・職場側にも有益な情報を網羅しており、各種相談窓口やメンタルヘルス対策、eラーニングなど豊富なコンテンツがあります。
「こころの耳」の相談窓口として、電話・SNS・メールでの相談が可能なほか、相談内容ごとに相談窓口がまとめられています。
地域障がい者職業センター
地域障がい者職業センターは全国の都道府県に設置されており、職業リハビリテーションやジョブコーチ支援、リワーク支援などを行っています。ハローワークや障がい者就業・生活支援センターなどとの連携による、地域の関係機関との対応も可能です。
地域障がい者職業センターについて詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてお読みください。
精神科訪問看護
精神科訪問看護では、看護師・精神保健福祉士・作業療法士などの有資格者が、精神疾患や心のケアが必要な方の自宅に訪問して、日常生活の援助やケアを行います。精神疾患がある当事者とその家族がサービスの対象になります。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所では、就職を希望している障がいがある方を対象として、就職や職場定着に向けたサポートを行っています。通所型の就労福祉サービスです。
就職に必要な知識やスキルを学べるだけでなく、社会生活を送るうえで必要な健康管理や、履歴書の添削・面接練習などの就職活動の支援、就職後の職場定着支援支援などのサポートを受けられます。
就労移行支援事業所の選び方については、下記の記事で解説しています。
ハローワーク
ハローワークには、障がいがある方向けの専門窓口が設置されており、就職に関する相談対応や求人紹介などを行っています。窓口では、障がいに理解のある専門の相談員が対応するため、障がいに配慮したうえで、就職に関するさまざまな支援が受けられます。
利用できる支援制度
この項目では、症状が原因で収入が安定しないなど、生活に関しての困りごとで役立つ支援制度をご紹介します。
障がい年金
障がい年金は、障がいや病気によって生活や仕事などが制限されるようになった時に受け取ることができる年金です。仕事などに制限がある生活を支えるために支給されます。
障がい年金には「障がい基礎年金」と「障がい厚生年金」があります。病気やけがによる初診日に国民年金の加入者であれば「障がい基礎年金」、厚生年金の加入者であれば障がい基礎年金にプラスして「障がい厚生年金」が支給されます。
受給には一定の要件が必要となります。詳しくは、年金事務所や市町村役場、ソーシャルワーカーなどに相談してみると良いでしょう。
自立支援医療制度
自立支援委長制度は、心身の障がいの治療にかかる医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。
精神疾患や発達障がいなどの通院にかかる医療費や薬代などの自己負担額は通常、公的医療保険を使用した場合3割負担となりますが、自立支援医療制度が適用されると自己負担額が1割に軽減されます。通院による医療費だけでなく、デイケアや訪問看護なども対象となります。
医療費の軽減が受けられるのは、「指定自立支援医療機関（病院・診療所、薬局、訪問看護ステーション）」で、受給者証に記載されたものに限られます。通院での服薬治療が中心となる双極性障がいの方にとっては、医療費の負担を減らせる制度です。
自立支援医療制度については、下記の記事でも解説しています。
精神障がい者保健福祉手帳
精神障がい者保健福祉手帳は、一定程度の精神障がいの状態にあることを認定するもので、精神障がい者の自立と社会参加の促進を図るための制度です。
手帳を持っていることで、下記のようなサービスが受けられます。
- 公共料金等の割引
・NHK受信料の減免
・税金控除・減免 - 所得税、住民税の控除
・相続税控除
・自動車税・自動車取得税の軽減（1級のみ） など
また、地域・事業者によっては下記のようなサービスが行われている場合もあります。
- 公共料金等の割引
・鉄道、バスなどの運賃割引
・携帯電話料金割引
・上下水道料金の割引
・心身障がい者医療費助成 など - 手当の支給など
・福祉手当
・通所交通費の助成 など
精神障がい者保健福祉手帳については、下記の記事で解説しています。
傷病手当金
傷病手当金は、健康保険加入者の病気休業中における、被保険者とその家族の生活を保障するための制度です。仕事を休み始めた日から連続した3日経過後の、4日目から支給対象となります。
ただし、先述した「障がい厚生年金」や「障がい手当金」を受けることになった場合は支給されない点に注意が必要です。
病気やケガで会社を休んだとき（傷病手当金）｜全国健康保険協会（協会けんぽ）
生活保護法による指定医療機関
指定医療機関とは、生活保護法による医療扶助を行うための医療を担当する機関です。生活保護は病気などで生活に困った時に、不足する生活費を補うことで最低限度の生活を保障するための援助制度です。
生活保護の受給中、保険の範囲の治療については、生活保護法の指定医療機関において無料で受診することができます。
まとめ｜双極性障がいの混合状態と過ごし方
- 双極性障がいの「混合状態」とは、うつ状態と躁状態が同時に存在している状態。特有の不安定さにより衝動的な行動を起こしやすくなるため、特に危険な時期とされる。
- 混合状態は、うつ状態と躁状態が切り替わるタイミングで起こりやすい。自殺のリスクが高まることも分かっているため、周囲のサポートが必要不可欠。
- 混合状態で辛い時は、医師の指示に従って適切な治療を受けた上で、健康的な食事をして十分に睡眠をとるなど規則正しい生活を意識し、ストレスを溜めないことが重要。
- 双極性障がいによって困りごとがある場合、保健所や精神保健福祉センターなどの機関へ相談できるほか、メールなどで相談が可能な窓口も。生活に困った場合、医療費の自己負担軽減や年金受給などの支援が利用できる場合がある。困ったら相談しよう。
双極性障がいの混合状態の症状や過ごし方について解説しました。
双極性障がいの治療において最も重要なのは、1人で抱え込まないことです。混合状態で「つらい」と感じた際は、家族や支援機関など信頼できる相手にすぐ相談しましょう。
この記事が少しでもお役に立てていましたら幸いです。
