報連相とは「報告」「連絡」「相談」の頭文字3つをまとめたものです。社会人には必須のビジネススキルだと各所で言われていますよね。
しかし、発達障がいの方はこの報連相が苦手という方が少なくありません。

「いざ話そうとしても内容がうまくまとめられない」
この記事を開いたあなたも、このような悩みを抱えていませんか?
報連相は複数人で仕事を行う場合にとても重要です。うまくできないと仕事に支障が出て困ってしまうかもしれません。
- 報連相が大事な理由
- 発達障害の方が報連相を苦手とする理由
- 発達障害の特性ごとに悩みの解決のためにできる工夫
- 報連相が苦手な発達障害の方にオススメの支援機関
これらについて解説していきます。
報連相が大事な3つの理由
報連相の柱である「報告」「連絡」「相談」には、それぞれ仕事で欠かせない理由があります。
まずは、改めて報連相がなぜ大事なのか、整理していきましょう。
「報告」 進捗管理・ミスの防止
報告とは、進捗管理やミスの防止を目的として、上司や依頼主に業務の途中経過や結果を知らせることです。上司や依頼主は報告があれば現状を把握して適切な対応を取れますが、報告がなければ現状を把握できず、対応ができないためにトラブルが発生する原因になります。
特に、
- 「仕事をどう進めていくか」や「ミスがないか」がわからないとき
- クレームの対応や予期せぬトラブルに見舞われたとき
などの状況へ適切に対処するためには報告が欠かせません。
「連絡」 情報共有
連絡とは、業務に関わる情報や注意点などを関係者に共有することです。
業務に必要な情報を周知することで、
- 安全を確保できる
- ミスを減らせる
- 業務を効率化できる
などのメリットがあります。
連絡が上手くできていなければ適切な情報が周知されず、会社全体が混乱してしまうことがあるため、働く上で連絡はとても重要です。
「相談」 問題解決手段
相談とは、直面した問題や課題について、他の方に意見や助言を求めて解決を図ることです。自分が判断に迷った時に上司や先輩、同僚などに相談することで、問題の早期発見や解決につながることがあります。
不明点や不安を抱えたまま仕事を続けてもうまくいきません。事前に相談が必要な仕事を自己判断で行うと大きな失敗をしてしまうこともあります。
発達障がいだと報連相ができない理由は?
発達障がいとは、生まれつきの脳の特性によって生活のさまざまな場面で困りごとが生じる障がいの総称です。そのため、発達障害の特性によっては報連相が苦手な場合があります。
発達障がいとして定義されている障がいの特性は主に下記の3つです。
- ASD(自閉スペクトラム症)
思考と想像に偏りがあり、考えを言語化したり曖昧な指示を理解したりすることが苦手 - ADHD(注意欠如・多動症)
不注意性・多動性・衝動性の3つの特性が目立ちやすい - LD(学習障害)
「読む」「書く」「計算する」のいずれかの学習が困難
「どういった特性か」「どの程度傾向があるか」は個人差があり、障がいの特性は1人1つとは限らず、複数抱えている方もいます。
この項目では、発達障がいの方が報連相を苦手としやすい理由を見ていきましょう。
ASD(自閉スペクトラム症)の方が報連相を苦手とする理由
思考や行動に対するこだわりが強く、人間関係やコミュニケーションを苦手としやすいのがASDの特徴です。
また、曖昧な指示や臨機応変な対応を苦手としており、それが報連相に次のような影響を与える場合があります。
- 話しかけるタイミングがわからず、報連相を行えない
- まとめて報連相をしようと後回しして、要点をまとめられなくなる
- 没頭している現在の作業を優先してしまい、報連相を忘れてしまう
- 仕事や上司、部下、同僚によって伝える内容をうまく調整できない、誰に報連相するかで迷う
- 小さな矛盾点に執着してしまい報連相の内容が偏る
など
ADHD(注意欠如・多動症)の方が報連相を苦手とする理由
不注意性・多動性・衝動性の3つによって、発言や行動に問題が表れやすいのがADHDの特徴です。
考えが整理されないまま物事を進めてしまう傾向にあり、それが報連相に次のような影響を与える場合があります。
- 報連相をしようと考えていても、次の仕事を始めた瞬間に忘れてしまう
- ケアレスミスが多いため怒られやすく、怒られないためにミスを隠してしまう
- 報連相を行う最中にほかのことが気になって、大事な内容が抜けてしまう
- つい感情的になって、報連相の内容に問題が出る
など
LD(学習障害)の方が報連相を苦手とする理由
「読む」「書く」「計算する」などの学習に必要な基礎能力に困難さが1つ、あるいは複数あるのがLDの特徴です。
人に何かを伝える際も、その手段によっては極端に苦手と感じる場合があり、それが報連相に次のような影響を与える場合があります。
- 伝える内容がまとまらず、支離滅裂になる
- 「項と頂」、「bとd」など似た形の文字を混同しやすく、メール作成などで誤字脱字が多い
- グラフや図形などの情報を理解しにくく、どう伝えればいいか困ってしまう
- 報連相そのものに時間がかかりすぎる
など
発達障がいで報連相が苦手な方にオススメの工夫
報連相がうまくできるようになると仕事が円滑に進められるようになり、良好な人間関係の形成にも役立ちます。仕事に余裕ができて楽しく感じられるようになるかもしれません。
この項目では、発達障がいの種類ごとに報連相の場面でよくあるトラブルに対する解決策をまとめました。
「報連相が苦手」という悩みを解決するためには、「報連相のどこがどう苦手なのか」を整理することが大切です。この視点を悩みの解決に活用してみましょう。
ASDの方にオススメの工夫
ASDの方が報連相に対して苦手意識を抱きやすいのは、「いつ・誰に・どの情報を伝えるべきか?」という目的設定が曖昧なことが多いからです。そのため、目的設定をできる限り具体化し、対応方法をはっきりさせましょう。
ASDの特性として、予定の変更には弱いものの、決まった予定はよく守れるという傾向があります。下記は解決策の例です。参考にしてみると良いでしょう。
苦手な理由 | 解決策 |
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話しかけるタイミングがわからない |
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作業に没頭して報連相を忘れる |
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相手によって報連相の内容を調整できない、 報連相する相手に迷う |
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報連相の内容が偏る |
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ADHDの方にオススメの工夫
ADHDの方が報連相を苦手としやすい理由としては、考えを整理する前に行動してしまう点が最も大きいでしょう。
話す内容や行動する順番がその場その場で変わってしまうと、相手へ伝えることも自分が理解することも難しくなります。そのため、対策としてメモなどを活用し、行動する前に考えを整理する習慣をつけましょう。ADHDの行動が先行するという短所は、情報の整理を優先することで人より活発に行動できるという長所に変えることができます。
下記は解決策の例です。参考にしてみると良いでしょう。
苦手な理由 | 解決策 |
---|---|
次の仕事が入るなど、 状況の変化によって報連相を忘れる |
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ケアレスミスが多いことで上司に 怒られることを恐れ、報連相を怠る |
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報連相を行う最中に集中が切れて 内容が抜け漏れる |
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つい感情的になって報連相に問題が出る |
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ADHDの中でも衝動性・多動性の特性が強い方は感情のコントロールが苦手な傾向があります。感情をコントロールするスキルとして「アンガーマネジメント」があります。感情のコントロールが難しいと感じている方は、下記の記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。
LDの方にオススメの工夫
LDの方が報連相を苦手とする原因として大きいのは、状況によって苦手な伝達方法を用いる必要性が出てくるからでしょう。読み書きが苦手な方がメールでの報告を求められたり、口頭による読み上げが難しい方が対面での報連相を求められたりすると、どうしても負担になってしまいます。
そのため対策として、事前に周囲と相談して手段を限定しておく方法をとってみてはいかがでしょうか。
無理に苦手な手段を使うのではなく、負担が少ない方法で報連相を行えるように心がけると良いでしょう。
下記は解決策の例です。周りに協力を求めることになってしまいますが、あなたの視点が仕事に良い影響を与えるかもしれません。参考にしてみましょう。
苦手な理由 | 解決策 |
---|---|
伝える際内容が支離滅裂になる |
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似た形の文字を混同して間違った情報を 覚える、伝える |
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グラフや図形などが理解できず、 情報の伝え方に困る |
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報連相に時間がかかりすぎる |
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報連相のスキルを身につけられる支援機関・制度を紹介
報連相の苦手を克服したいと思っても、報連相は伝える相手がいないとできないため、1人では難しいことが多いでしょう。この項目では、発達障がいのある方が報連相のスキルを身につけられる支援機関や制度をご紹介します。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、一般の企業への就職を希望する障がい者を対象に就労支援を提供している機関です。
利用することで就労に必要なビジネスマナーやコミュニケーションなどに関するスキルの習得や就活相談ができます。その中でも、報連相は特に必須スキルとして教えてもらえます。
「報連相を身につけて自信を持って就活に臨みたい」という方にオススメです。
就労移行支援事業所については、下記の記事でも解説しています。
就労継続支援A型・B型事業所
就労継続支援事業所とは、現状一般企業への就職が困難な障がい者を対象として、就労機会を提供している支援機関です。A型とB型に区分されており、それぞれ雇用形態や給与形態が異なります。
利用する場合、障がいに配慮した職場環境で実際にお金を得ながら働くことができますし、働く中で報連相を実践的に訓練することができます。
「実際にお金を稼ぎながら働くことに自信をつけたい」という方にオススメです。
就労継続支援A型・B型事業所については、下記の記事などで解説しています。
ハロートレーニング(障がい者訓練)
ハロートレーニングとは、ハローワークが実施している職業訓練です。職業訓練の中には障がいのある方向けの訓練も実施されています。
国立職業リハビリテーションセンターや障がい者職業能力開発校のような、障がい者専門の機関で行われています。また、一般の職業能力開発校の中で訓練コースが設置されている場合や、民間の教育訓練機関などに委託されている場合もあります。
職業訓練は3~6か月、1年など、時間をかけて訓練が行われます。「就労準備訓練」や「社会生活スキル」など、科目名は訓練校によって異なりますが、ビジネスマナーの1つとして学ぶことができます。
「報連相だけでなく、就労に役立つスキルも身につけたい」という方にオススメです。
また、現在働いている方向けに在職者セミナーを実施している場合もあります。技術面でのセミナーがほとんどですが、報連相を含む社会人の基礎を学べる訓練として実施されている場合もあるため、調べてみると良いでしょう。
まとめ|発達障がいの方が報連相を苦手とする理由と対処法
- 報連相が大事な理由は「報告」で進捗管理とミスの防止、「連絡」で情報共有、「相談」で問題解決を行う、という目的があるから仕事に欠かせない。
- 発達障がいの方は特性によっては報連相が苦手なことが多いため、まず「報連相のどこがどう苦手なのか」について整理することが大事。
- 発達障がいで報連相に苦手意識があっても、特性に応じて必要な解決策を取れば、対処できるようになる場合がある。
- 報連相の訓練は1人では難しいが、「就労移行支援事業所」や「就労継続支援事業所A型・B型」、「ハロートレーニング」で実践的な訓練が受けられるのでオススメ。
発達障がいの方は、報連相を苦手とする傾向が多いですが、伝達するタイミングを事前に伝えておく、報連相の前に内容を確認するなど、対処法を知っておくことで苦手を減らすことができます。
口頭で伝えることが苦手なら、メールやチャットで伝えるという手もあります。苦手だけで遠ざけず、苦手な理由を考えて対処していきましょう。
この記事が役に立てば幸いです。