この記事を読んでいるあなたは、次のような経験や悩みをお持ちではありませんか?

「カッとなったときに物に当たってしまう…」
発達障がいの方の中には、自分の怒りをコントロールできないことが原因で、良好な人間関係を築けない方がいます。
急に込み上げてくる怒りは、本人の意思ではコントロールしづらくつらいものです。
- 感情のコントロールが苦手な2つの発達障がいとは?
- 発達障がいの方にも有効なアンガーマネジメントとは?
- アンガーマネジメントのやり方5選
について解説します。
今回ご紹介するアンガーマネジメントの方法が、あなたにとって良好な人間関係を築く一助となれば幸いです。
感情のコントロールが苦手な2つの発達障がいとは?
発達障がいとは、脳機能の発達の偏りによって日常生活に支障が出てしまう「障がい」を指します。
発達障がいにはいくつか種類がありますが
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如・多動症)
上記2つの障がいは、特に感情のコントロールが苦手で、怒りを抑えられなくなる傾向があります。
次の項目では「ASD」や「ADHD」の方が、感情のコントロールが苦手な理由を解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASDとは、別名「自閉スペクトラム症」とも呼ばれる発達障がいの1つです。感情に関する特性として、下記のものが挙げられます。
- 社会性に関する特性
表情やジェスチャー、声のトーンから相手の気持ちを理解することが苦手 - コミュニケーションに関する特性
冗談や曖昧な表現を理解するのが苦手 - 過度なこだわりに関する特性
特定の話題について相手の様子を伺わずに一方的に話し続ける
ASDの中でも、特にこだわりが強い方は、自分の行動や考え方に対して改善を求められたときに反発心を強く抱きやすい傾向があります。また、ASDがある方の中には相手の感情を理解したり共有したりするのが苦手なため、相手に思ったことをストレートに伝えてしまう方もいます。
その結果、本人に悪気がないのにも関わらず相手を怒らせてしまい人間関係が悪化してしまうこともあります。
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDとは「注意欠如・多動症」とも呼ばれている発達障害の1つです。代表的な特性として次の3つが挙げられます。
- 不注意傾向
集中力が散漫で、物忘れが多い - 衝動性
思ったことをすぐに口に出してしまう - 多動性
落ち着きがなく、感情や欲求が移り変わりやすい
ADHDの特性の中でも「衝動性」や「多動性」の特性が強い方は、怒りを感じた時にカッとなりやすく衝動的に暴言を言ってしまう傾向があります。本人も暴言を言った後に後悔することが多く、自分自身ではコントロールしにくいのがつらい部分と言えるでしょう。
また、嫌な経験や「怒り」「不安」などのネガティブな感情が記憶に残りやすい特性などによって、感情のコントロールが苦手な傾向があります。
発達障がいと感情のコントロールについては、下記の記事でも詳しく解説しています。
発達障がいの方にも有効?アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、直訳すると「怒りの管理法」という意味であり、イライラや怒りなどの感情をコントロールするスキルのことです。1970年代にアメリカで誕生したとされている心理トレーニング法であり、現代では社員教育や学校教育にも取り入れられています。
アンガーマネジメントは、ASDやADHDなどの発達障害の方が円滑な対人関係を築くためにも役立つ方法です。
発達障害の方がアンガーマネジメントを習得することで、
- ASDの場合
自分の感情に気づき、うまく伝えられるようになる - ADHDの場合
衝動性をコントロールすることができる
などの効果が見込めます。
発達障がいに限らず、感情のコントロールが難しいと感じている方は、アンガーマネジメントを実践してみましょう。
アンガーマネジメントのやり方5選
怒りの感情自体は自然と湧き上がってしまうものですが、決して悪いものではありません。怒りが生じた際に、どのように対処するかが大切です。
相手に怒りをストレートにぶつけると、相手から反感を買い、人間関係の悪化につながってしまいます。アンガーマネジメントを学び、怒りに身を任せず、適切な対処をすることで、周囲との人間関係も悪くならずに済むでしょう。
ここではアンガーマネジメントの具体的な方法をご紹介します。
深呼吸をする
怒りを感じたときには深呼吸をしてみましょう。深呼吸をすると、「副交感神経」という心と体をリラックスさせる自律神経の効果が高まり、ストレスや怒りの感情を和らげ冷静さを取り戻すことができます。
深呼吸は次の方法でやってみましょう。
深呼吸の方法
- 4~5秒程度、鼻から息を大きく吸い、一旦息を止める
- 10秒ほどかけて、口から息を吐く
- 1.と2.を2~3回繰り返す
深呼吸は怒りの感情だけでなく、日々の疲れやストレス、不安などのネガティブな感情が蓄積されることを防ぐ方法としても有効です。
定期的に実践して感情の波を安定させられると良いでしょう。
その場を離れる
相手の言動に対して怒りが爆発しそうになったときは、その場を離れるのも良い方法です。怒りの対象から離れることで自分の感情と向き合うことができるため、イライラや怒りの感情を一旦リセットすることができます。
具体的な方法としては
- トイレに行く
- 休憩を取る
- 外出や散歩をする
などがあります。
また、その場を離れた際には深呼吸をしましょう。心と体がリラックスし、怒りの感情が収まるのでオススメです。
アンガーログ(記録に残す)
怒りを感じたときの情報・感じたことをスマホや手帳に記録する「アンガーログ」という方法もアンガーマネジメントとして有効な手段です。
- 「日時」
- 「場所」
- 「何があったか(事実)」
- 「感じたこと」
- 「怒りの強さ(0〜10段階で記録する)」
などを記録します。
アンガーログを継続することで「自分が何に怒りを感じやすいのか」や怒りの傾向を把握することができます。怒りの傾向がわかれば対策を立てることができますし、不要な怒りを避けられるようになります。
具体的な書き方は下記を参考にすると良いでしょう。
<アンガーログの書き方の例>
- 日時:12月10日
- 場所:駅
- 何があったか:友達が約束の時間に遅れて待たされた
- 感じたこと:待たされてイライラした
- 怒りの強さ:6
上記のような内容をその場で記録します。その場で記録するのが難しい場合、後でもいいので内容を忘れないうちに記録しましょう。全て書けなくても大丈夫です。
例えば、アンガーログから「待たされることにイライラする」という傾向がわかったとします。この場合、「待たされないような方法を考える」や「待たされたときは本を読む、スマホを使って気を紛らわす」など対策を考えることが可能です。
対策を考えることで怒りのスイッチが入りやすい条件を上手に避けられるようになるでしょう。
疲れやストレスをため込まない
睡眠不足やストレスの蓄積で体が疲れていると、イライラや怒りの感情をコントロールするのが難しくなります。
感情をコントロールするためには疲れを感じる前に休息を取り、疲れやストレスをため込まないようにすることが大切です。
具体的には、
- 栄養のある食べ物をバランスよく食べる
- 睡眠時間を確保する
- お風呂に入って体と心をリラックスさせる
- 好きな音楽を聴く
など、自分が実践しやすい方法を試してみましょう。
発達障がいの方は偏食になりやすく、自発的に休養を取ることが苦手な方も多いです。怒りの感情を上手にコントロールするためにも意識的に休息を取り、疲れやストレスを溜め込まない習慣を身に付けられると良いですね。
ストレスへの対処方法「ストレスコーピング」については、下記の記事で解説しています。
リクエストする
怒りを感じたときに、相手に怒りの感情をストレートにぶつけるのは得策ではありません。相手が反発することで激しい口論に発展してしまう可能性があります。
対策として、怒りの感情を言葉でぶつけるのはなく、相手にして欲しいことを「リクエストする」形で伝えるようにしましょう。
例えば、待ち合わせで友達が約束の時間に遅れてきたとします。その場合は感情的に怒るのではなく「時間に遅れると予定がズレてしまうから、遅れるなら1時間前に一度連絡して欲しい」などと具体的に伝えましょう。
相手が承諾してくれたり、納得してくれたりすれば感情的な衝突を避けることができます。
アンガーマネジメントの考え方
アンガーマネジメントは3つのステップで構成されています。
- 「衝動」のコントロール
- 「思考」のコントロール
- 「行動」のコントロール
「衝動」のコントロール
怒りを感じた最初の6秒が怒りのピークだと言われています。強い怒りを感じると反射的に怒りたくなってしまいますが、まずはこの6秒を乗り切りましょう。
ただ我慢するのではなく、まずは6秒カウントしましょう。怒りの強さをレベル付けするのも有効です。0を「穏やかな状態」、10を「絶対許せない、人生最大の怒り」として、自分が感じている怒りは1~10のどこに当たるのか、自分の尺度でとらえてみます。こうすることで怒っていたことから意識がそれますし、怒りを客観視して対処法を考えることができます。
「思考」のコントロール
衝動をコントロールした後は、思考のコントロールをしましょう。自分にとって「怒る必要がある」ことか、「怒る必要のない」ことかの線引きから始めます。
許容範囲を
- 「許せる」:OKな範囲
- 「まあ許せる」:許容できる範囲
- 「許せない」:NGな範囲
の3つのゾーンで線引きしてみましょう。
「まあ許せる」までは怒る必要がないこと、「許せない」に入ることは怒る必要があることになります。
この境界線が明確にできたら、3つの努力をしてみましょう。
- 「まあ許せる」の範囲を広げていく努力
・「せめて」「少なくとも」「最低限」などの言葉で許せる範囲を見極める
・際限なく広げる必要はない - いつでも、だれに対しても同じ基準で怒る努力
・その日の気分によって変わると、関係性に悪影響がある
・「まあ許せる」の境界線を一定に保とう - 「怒ること・怒らないこと」の境界線を人に伝える努力
・何をどうしてほしいのか、普段から具体的な言葉で伝える
・何を大切にしているか、許容範囲は言葉にしないと伝わらない
「行動」のコントロール
思考のコントロールで「許容できない、怒る」と判断したら、行動のコントロールに移ります。感情のままに行動するのではなく、どう行動したらいいか考え、選択します。
行動のコントロールでは、2つの軸で怒りを整理して考えます。状況を自分の力で「変えられる」か「変えられない」か、今の立場で「重要」か「重要ではない」か、で対処の仕方を変えていきます。
変えられる | 変えられない | |
---|---|---|
重要 | 変えられる+重要 ▼ すぐ取り組む |
変えられない+重要 ▼ 変えられないことを受け入れる、 現実的な選択肢を探す |
重要ではない | 変えられる+重要ではない ▼ 余力がある時に取り組む |
変えられない+重要ではない ▼ 関わらない、 放っておく |
また、怒りを感じたときに行動する際は「長期的な目線で、自分にとっても周りにとっても幸せな選択は何か?」を基準にすると良いでしょう。
このステップを習慣化して身に付けることで、突然の怒りにも対応できるようになります。先述した具体的な方法と併せて実践してみてはいかがでしょうか。
まとめ|発達障がいとアンガーマネジメントの実践方法
- 発達障がいの中でもASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)の方は、感情のコントロールが苦手な傾向がある。
- アンガーマネジメントとは、イライラや怒りなどの感情をコントロールするスキルのこと。感情のコントロールが苦手な発達障がいの方にも有効。
- アンガーマネジメントの具体例として、深呼吸をする、その場を離れる、アンガーログ、疲れやストレスをため込まない、要求をリクエストするなどの方法がある。
ASDやADHDの方は感情のコントロールが苦手な傾向がありますが、アンガーマネジメントを実践していくことで周囲との人間関係を良好に保つことが可能になります。
今回ご紹介したアンガーマネジメントの内容を実践して、良好な人間関係を築いていきましょう。