働くことは「収入を得る」「自己実現する」「社会貢献する」など、人生の中で大きな意味を持ちます。
ですが難病を患っている方は、いざ働きたいと思っても、
「難病患者は就職できないと聞いたけど、本当なのかな?」
などの疑問や不安を感じることがあるでしょう。
完治しない病と付き合いながらの就職活動は、身体的にも精神的にも大変ですよね。
世間では「難病」に対して誤ったイメージを抱いている人も多く、誤解や偏見を受けがちです。
このような悩みをお持ちの方へ向けて、
- 難病患者の就労を支援する機関やサービス
- 難病を持つ方が仕事を探すときのポイント
- 就職活動や職場での配慮の参考にできるガイドライン
以上を詳しく解説していきます。
難病・指定難病とは
難病とは「治すのが難しい病気」を指す言葉です。
医学的な疾患名ではないため、取り扱っている場所や時代によって、「難病」が具体的にどの病気を指しているのかは異なります。
「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」では、難病を以下のように定義しています。
- 発病の機構が明らかでなく
- 治療方法が確立していない
- 希少な疾病であって
- 長期の療養を必要とするもの
がん、精神疾患、感染症、アレルギー疾患など、個別の施策体系があるものはこの限りではありません。
難病のうち以下の要件を満たしており、患者の置かれている状況などから、国が医療費助成対象に定めた疾患を「指定難病」といいます。
- 患者数が人口の0.1%程度に達しないこと
- 客観的な診断基準等が確立していること
難病患者が就職できない理由
難病を持つ方の就職がうまくいかないのは、以下の理由が考えられます。
- 一般枠での労働が難しい
- 障害者雇用枠の利用ができない
順に見ていきましょう。
一般枠での労働が難しい
求人の多くを占める「一般枠」は、病気と共存しながら働くには条件が厳しく、周囲の理解も得られにくいという問題があります。
「治すのが難しい病」である難病は、症状や程度が非常に多様で、環境を整えれば働ける方も大勢いるのが事実です。
ですが、世間では難病に対して、
「病気の人は働けないから治療が終わってから」
という誤ったイメージが根付いています。
そのため、勤務時間や休日などが好条件な一般求人があっても、病名を伝えた時点で門前払いされる、というケースが起きてしまっています。また、病気を伏せて就職できても無理せざるを得ない状況になり、心身の調子を崩して辞めてしまう場合も多いのです。
障害者雇用枠の利用ができない
求人には、障がいや難病がある方への配慮が手厚い「障害者雇用枠」もあります。
障害者雇用求人は「企業が法定雇用率を満たすために、障害者手帳取得者を採用する枠」という側面があり、ほとんどの場合、手帳を持っている人のみ応募が可能です。
難病患者も、「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」のうち、疾患によって生じた障害の種類や強さによっては、各種手帳を申請できることもあります。
しかし、大半の難病患者を悩ませている
- 疲労感
- 関節痛
- 腹痛
- 皮膚障害
- 過労を避けなければいけない
- 定期的な通院が必要
などの困難さは障害認定の対象にはなりません。
したがって、障害者手帳が取得できず、障害者雇用枠の利用もできないのです。
難病患者の就労を支援する機関・サービス7選
難病を抱えた方が健常者と同じように1人で職探しをするのは、精神的にも辛く、失敗を繰り返してしまう可能性も高まります。
サポートを活用すれば客観的なアドバイスをもらえたり、専門機関ならではのノウハウを知れたりと、あなたの心強い味方になるはずです。
難病患者の就労を支援する機関やサービスには、以下の7つのようなものがあります。
- ハローワーク(公共職業安定所)
- 難病患者就職サポーター
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 難病相談支援センター
- 就労移行支援事業所
- 就労継続支援事業所(A型・B型)
順に見ていきましょう。
ハローワーク(公共職業安定所)
ハローワークには障害者就労専門部門が設置されており、難病があっても無理なく働ける求人や障害者雇用求人を紹介してもらえます。
就職に関するプロであるハローワークは、「あなたのできることや強み」「能力を活かすのに適した職」などの直接的に就職活動へかかわる相談が得意です。
ハローワーク職員は企業担当者とやり取りする機会も多いため、内部事情を踏まえた「担当者に響くアピール方法や配慮の説明」のノウハウを持っています。
難病患者就職サポーター
各都道府県には1か所以上「難病患者就職サポーター」を配置しているハローワークがあり、難病を持ちながら求職中の人や在職中に発症した人へ就労支援を行っています。
難病患者就職サポーターは難病相談支援センターと連携し、病気の伝え方や合理的配慮を一緒に考える、面接に同行するなどのきめ細やかな支援を行っているため、少しずつ就労への準備を進めたい方へもおすすめです。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、以下のような支援を行っている機関です。
- 各種検査や作業を行い現状の能力を分析する「職業評価」
- 能力を活かして働き続けるための「職業リハビリテーション」
- 就職後のサポートである「定着支援」
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障がいがある人を仕事と生活の両面からサポートする機関です。就労支援や定着支援、健康管理や障がい関連の手続きサポートなどを行っています。
難病相談支援センター
難病相談支援センターは、各都道府県に設置されている、難病患者当事者やご家族が利用できる総合的な相談窓口です。事業の一環として、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターと連携し、就労支援を行っています。
ほかの機関と比べた一番の特徴は、保健・医療・福祉の面からサポートを行う「難病支援の専門」であることです。
就労時の疾病や生活管理方法、無理なく仕事ができる条件など、病気の特徴を踏まえた相談にも対応することができます。
また、難病相談支援センターからの助言は、専門機関からの信頼できる情報として、企業への説明時に理解されやすくなるでしょう。
都道府県・指定都市難病相談支援センター一覧|難病情報センター
就労移行支援事業所
就労移行支援とは、障がいを持ちながら一般就労(一般求人・障害者求人)を希望する方へ向けて、就職を支援する障害福祉サービスのひとつです。
主に、以下のような支援を行っています。
- 就職に必要な知識やスキルの取得
- 職場実習
- 定着支援
最大2年間が基本利用期間となっており、毎日決められた時間通所するので、就労経験が少ない方でも就職後のイメージをつかむことができます。
訓練内容は事業所によって様々ですが、PCスキル・ビジネスマナーの学習や、障がいや難病を踏まえた履歴書・面接対策をすることが多いです。
就労移行支援事業所についてはこちらの記事でも解説しています。
就労継続支援事業所(A型・B型)
就労継続支援とは、働きたいけれど現状で一般就労が困難という方へ向けた、障害福祉サービスのひとつです。個々の特性や体調を考慮した「福祉的就労」の機会を提供し、社会生活に必要なスキルの向上を支援しています。
生産活動を行い収入を得られるのが、ほかの支援機関・サービスとの大きな違いです。
就労継続支援には「A型」と「B型」があり、それぞれ以下の特徴があります。
就労継続支援A型
「一般就労は難しいが、決められた時間を安定して働ける」という方が対象です。利用時に雇用契約を結ぶため、最低賃金以上の時給が保証され、条件次第では社会保険に加入できます。
当サイトを運営している「ぎふ就労支援センター」は、A型事業所に当たります。
就労継続支援B型
「働きたいけど症状が重く、雇用契約に従うことが難しい」という方が対象です。雇用契約を結ばないため、賃金ではなく工賃として報酬が支払われます。A型と比べ、より体調に合わせた利用がしやすくなっています。
就労継続支援については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
障害福祉サービスは障害者手帳なしで利用可能
就労移行支援や就労継続支援などの障害福祉サービスについては、「障害者総合支援法」という法律で定められており、難病も支援の対象です。
障害者総合支援法における難病の要件は以下の3つで、難病法や指定難病の基準よりも広くなっています。
- 治療方法が確立していない
- 長期の療養を必要とするもの
- 客観的な診断基準等が確立していること
要件に該当する難病患者は、障害者手帳の有無にかかわらず、障害福祉サービスの利用が可能です。
難病を持つ方が仕事を探すときのポイント
難病を持つ方が、病気とうまく付き合いながら仕事を探すときのポイントを4つご紹介します。
前章で挙げた支援機関とも協力しながら、自分のペースで進めてみてくださいね。
自己理解を深めて体調を安定させる
まずは、服薬や通院などで、就労できる状態まで体調を安定させるのが第一です。病気の悪化を防ぐことだけでなく、安定した生活を送れるよう体調維持するにはどうすれば良いか考えましょう。
また、難病は希少な病気であり、外見から分かりにくいケースも多いため、症状や合理的配慮を企業へ説明しても伝わりにくいです。
環境調整や自己管理があれば働けるとアピールするために、自己理解を深めましょう。
できることやできないこと、注意すべき点、働き続けられる体力の量、どの程度休息を取れば回復するかなどを把握しておくことが大切です。
就労について主治医へ相談する
準備している時点では病状が安定していても、仕事を始めると悪化しまう場合があります。継続的な就労を目指すために、あらかじめ主治医と状況を共有しておきましょう。
特に以下のようなポイントを伝え、客観的に見て無理がないかどうか、今後の通院はどうするかを相談してみましょう。
- どうして働きたいのか
- 仕事内容
- 働き方
- 勤務時間
- 休日の取りやすさ
また、就労経験があるなら前職場での様子も合わせて伝え、病気と付き合いながら働き続けるにはどうすれば良いか、課題点や改善点などのアドバイスをもらうと良いでしょう。
資格取得などでアピールポイントを増やす
難病を抱えた方は、どうしても消極的な考え方になってしまいがちです。求人を探すときも「採用をしてもらえそう」という点にのみ、つい注目してしまいます。
もちろん、できないことと向き合い条件を考慮することも必要ですが、
「役に立てそう」
「この仕事なら続けられる」
という視点から多面的に考えることが大切です。
そのため、アピールポイントを増やせるように、仕事で必要となるスキルを学んでみましょう。
特に、専門職は資格によって就職活動を有利に進められる場合もあるため、病気による選択肢の少なさをカバーすることにもつながります。
職場へ難病を伝えるべきか検討する
求職時や入社後に、病気や障がいを職場へ伝えておくことを「オープン就労」、伏せたままにしておくことを「クローズ就労」と言います。
クローズ就労は履歴書での門前払いや職場での不当な扱いを防げますが、通院・服薬などの健康管理が行いにくく、体調悪化時でも休む理解を得られにくいため、誤解や偏見を受けがちです。
オープン就労は求人が少なく就職活動は難航しますが、応募の時点で合理的配慮を伝えておけるため、就職後は長く働きやすい特徴があります。
メリットとデメリットを踏まえて、クローズ就労とオープン就労のどちらを選ぶかよく考えておきましょう。
合理的配慮の参考にできるガイドライン
難病とは「治すのが難しい病気」のことを指すため、状況は多様であり、病気と付き合いながらも健常者とほとんど変わりなく生活できる方が大勢います。
しかし、難病に対する誤解や偏見は根深く、「難病=働けない」と思い込んでいる人も少なくありません。また、当事者側もロールモデルを知らないため、どの程度の配慮をどのように求めていいか戸惑うこともあるでしょう。
こうした問題を解決し、企業と当事者の適切なコミュニケーションを図るため、厚生労働省委託事業で「難病のある人の雇用管理・就業支援ガイドライン」が製作されています。
このガイドラインには「雇用管理・就業支援の例」「職場内支援のポイント」「代表的な疾患ごとの環境調整」などについて記載されており、合理的配慮を求める際の参考になるでしょう。
難病のある人の雇用管理・就業支援ガイドライン 前編
難病のある人の雇用管理・就業支援ガイドライン 後編
まとめ
- 難病とは「治すのが難しい病気」のことで、どの疾患を指すかは定義によって異なる
- 難病を持つ方は、配慮を受けづらい一般枠での就労が厳しく、障害者手帳を取得しにくいため障害者雇用枠の利用も難しい、という問題がある
- 支援を活用すれば、体調管理や病気について理解を深めたり、専門機関特有のノウハウを活かせたりと、難病を抱えながらの就職活動でもスムーズに進めやすくなる
- 仕事を探すときは、「病気とうまく付き合いながら働く」ことを意識するのがポイント
- 合理的配慮には、厚生労働省委託事業「難病のある人の雇用管理・就業支援ガイドライン」を参考にできる
難病についての理解はまだまだ広まっておらず、本人も周囲も視野が狭くなってしまいがちです。
今回挙げた支援機関は障がいや難病、就職活動のプロですので、きっと、1人では思いつかないようなことから道が開けてくるはずです。
まずは、相談することから始めてみてはいかがでしょうか?