双極性障がいは、かつては躁うつ病と呼ばれていた精神疾患の1つです。双極性障がいがある方は、気分の波の影響で仕事が順調に進まないことや、就業が続かないといった問題に直面してしまうこともあるのではないでしょうか。

「どんな仕事が向いているのか分からない…」
「いまの働き方で働きつづける自信がない…」
などの不安を抱えている方もいるかもしれませんね。
ここでは、双極性障がいにおける仕事上での困りごとや、どういった対策が必要なのかを解説します。併せて、長く続けられる職場を探すために、利用できる支援制度についても紹介していきます。
仕事が続かなくて悩んでいる方や、仕事に行きたくないと思ってしまう方へ、
- 双極性障がいの分類と症状
- 双極性障がいで仕事が続かないことへの対策
- 双極性障がいの方に向いている仕事と働き方
- 双極性障がいの方が利用できる支援制度
- 就労継続支援A型事業所で働くという選択肢
について解説していきます。
双極性障がいの分類と症状
双極性障がいは、気分の変わり方等によってさらに種類が分かれ、表れる症状にも違いがあります。
- 双極性障害の分類
- 双極性障害の症状
の順に解説していきます。
双極性障がいの分類
双極性障害は、気分が高揚して活動的になる「躁状態」と、憂うつで気分が落ち込み活動がしづらくなる「うつ状態」の両極を不定期に繰り返す精神疾患のことで、かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。
双極性障害のタイプは「躁状態」の程度によって、大きく二つに分類されます。
双極性障害Ⅰ型
- 気分が高揚して眠らずに活動する、話が止まらなくなる、怒りっぽくなるなど、躁の症状がはっきりしている
- 通常の役割が果たせない、妄想がみられるなど、躁状態の時は生活に支障が出ることもある
- 躁うつの状態が重度の場合や、他者への危害の危険性がある場合など、入院が必要になる場合もある
双極性障害Ⅱ型
- 軽躁病とうつ状態を繰り返すが、躁状態が比較的軽いため、日常生活や仕事に大きな支障はなく、異常に気付きにくい
- 軽躁状態は、いつもより妙に活動的、「あの人らしくない」「元気すぎる」と思われるなど、本人よりも周囲が気づくことが多い
- 軽躁状態が分かりづらいため、うつ状態のみの「うつ病」と区別がつきにくく、診断までに時間を要することがある
双極性障がいの症状
双極性障害は、精神面の浮き沈みが激しい病気ですが、心の病気ではなく脳内の情報伝達の乱れにあると考えられています。治療をしないで放置していると、症状が進み、躁状態とうつ状態のサイクルが短くなって精神状態の乱れが激しくなり、日常生活や仕事に支障をきたす恐れがあるので注意が必要です。
双極性障害は、早期に治療を始めることが重要なので、気になる症状がないか確認してみましょう。
躁状態
- 睡眠時間が少なくても体が元気
- 根拠のない自信、気が大きくなる
- 目に見えて元気、気分の高揚、怒りっぽくなる
- 自信過剰、口数が増える
- 結果を考えずに大きな買い物やギャンブルをしたり、危険な行動をしたりする など
躁状態は、感情の起伏の激しさから家族や周りの人が疲弊し、人間関係が悪化してしまうことも多く、社会的な信用を失うこともあります。
自分の症状に対する認識が欠けている状態で、さまざまな行動を行うため、邪魔をされると癇癪を起こすなどの問題が起こります。その結果、不当に扱われているなどと思い込んだり、症状の悪化によって妄想・幻聴が生じたりする場合もあります。
状況を悪化させないために早急に治療に取り組む必要があります。
軽躁状態
- 少し快活・興奮気味にみえる
- 自信に満ちる、役割を存分に果たせる
- 注意が散漫になり、怒りやすくなる
- できない約束をしてしまう
- 気分が目まぐるしく変わる など
軽躁状態の場合は、良いアイデアが浮かび、バリバリと仕事ができ、残業も気にならないため、周りの人たちからは良い状態であると思われがちです。
しかし、頑張りすぎることで疲弊していき、躁状態の反動として、うつ状態へ転じていきます。
うつ状態
- 気分が落ち込む、楽しめない、悪い方ばかり考えてしまう
- 思考や動作が鈍くなる
- 食欲の増加・低下、体重の増減
- 体がだるい、疲れやすい
- 思考がネガティブになり、自分自身を責める など
うつ状態は、抑うつ気分で意欲や思考力が低下して何もできなくなり、マイナス志向が続くため、双極性障害の中で最も苦しみを感じやすい時期になります。
また、双極性障害では一般的に躁状態よりもうつ状態の期間の方が長いと言われています。
躁うつ混合状態
- 高揚してる最中に涙ぐむ
- うつ状態の最中にとりとめのない考えが次々と浮かぶ
- 頭は回るのに行動できない など
うつ状態と躁(軽躁)の状態は交互に来ることもありますが、同時に来ることもあり、それを「躁うつ混合状態」といいます。うつと躁が切り替わる時も混合状態になることがあり、焦燥感とイライラ感が強く、衝動性も高まることから自殺のリスクも高い危険な状態です。
双極性障がいで仕事が続かないことへの対策
仕事を続けていくうえで、双極性障害の対策は必須です。そのためには、症状によって起こりうるさまざまなトラブルについて知ることも欠かせないでしょう。
- 仕事での悩みごとやトラブル
- 仕事を続けるための対策
の順に解説していきます。
仕事での悩みごとやトラブル
双極性障害は、躁状態とうつ状態の症状が不定期に現れることから、下記のような仕事での困りごとを抱えやすい傾向にあります。
困りごとを双極性障害の状態別に分けるとこのようになります。
躁状態
- 仕事中に感情を抑えられない
- 仕事のペース配分が偏ってしまう
- 計画なしに大胆な行動をしてしまう
- 行動によって人間関係を悪化させてしまう
- コミュニケーションが上手く取れなくなってしまう など
うつ状態
- 朝起きられなくなる
- 仕事に集中できない
- 無気力になり仕事に行けなくなる など
躁うつ混合状態
- 躁状態とうつ状態の切り替わりが影響して仕事が続かない
- 気分と行動が釣り合わない など
仕事を続けるための対策
双極性障害の方が仕事を続けるには、躁状態とうつ状態をコントロールする必要があるため、治療が必要です。
治療では、一般的に薬物療法や心理療法を行いながら、日常生活を見直すなどして経過を観察していきます。治療を途中で中断しないことがとても大切ですが、躁状態の時は、調子が良く、いつもより気分が高揚しているため、服薬などの治療をやめてしまい、症状が悪化してしまうケースが非常に多く見られます。
医師から指示が出ていない場合は、くれぐれも服薬を中断しないように気を付けましょう。自身の解釈で治療を中断しないためにも、セルフモニタリングを行い、症状をしっかりと把握しておくと良いですね。
また、躁状態とうつ状態で「どんな行動が出やすいか」を理解しておくことで、冷静に判断ができ、症状が出現した際に早期に対応しやすくなります。
双極性障害の方が仕事を続けるうえで気を付けるべきこととしては、
- 薬を飲み続ける
- 通院を欠かさない
- 無理をしすぎず、徹夜を避ける
- 健康的な食事をする
- 規則正しい生活を送る
- 適度な運動を取り入れる
- 躁状態とうつ状態の行動を把握する
- 症状が出現した際には早期に対応する
などが挙げられます。
双極性障害は再発のリスクがあるため、継続的な服薬、カウンセリングなどを続けることが重要です。
症状が一時的に治まったように見えても、長時間勤務や過重労働などで生活リズムが乱れることでスイッチが入り再発することがあるため油断は禁物です。
服薬と通院を継続しつつ、毎日の規則正しい生活サイクルを維持して、自分に合った無理のない仕事を選ぶことが、双極性障害の方が仕事を続けるために必要な条件になります。
双極性障がいの方に向いている仕事と働き方
双極性障害であっても病気を理解して受けとめて、有効な予防ができれば、仕事を諦めずに続けていくことは可能です。
- 双極性障害の方に向いている仕事
- 働き方や生活のポイント
の順に解説していきます。
双極性障がいの方に向いている仕事
一般的に双極性障害の方に向いている傾向の業務としては、下記の例が挙げられます。
- 業務量の変動が少ない
- 柔軟な働き方ができる
- 勤務時間が大きく変わらない
- 自分のペースで進めることができる
- 人との関わりが少ない
「仕事量」と「ストレス負荷」の変化をできるだけ抑えられ、体調の波に合わせて仕事の量を調整できる仕事としては、
- 事務職
- 研究職
- 清掃業
- Webデザイナー
- 工場、スーパーなどの軽作業
- ウェブ関連などの在宅ワーク
などが挙げられます。
双極性障害の方に向いている可能性のある仕事として、1つの参考にしてみると良いでしょう。
また、下記の記事でも詳しく解説しています。
働き方や生活のポイント
医師や周りの人の意見を聞く
双極性障害の躁状態の時期は気が大きくなるため、人の意見を聞かなくなったり、自己判断で薬の服用や通院を中断してしまうことがあるため、注意が必要です。
そのため、うつ状態から躁転そうてんしそうなときは、早い段階のうちに自分の状態を周りに知らせて、医師や信頼できる方からアドバイスをもらうようにしましょう。
双極性障害を受け入れる
双極性障害は再発しやすいため、治療に時間がかかる病気と言われていますが、自分で疾患を受け入れて向き合い、長期的なスパンで病気と付き合い続けていくことが大切です。
体内時計を整える
双極性障害の方は、活動的な躁状態と、そうでないうつ状態が不定期に訪れるため、体内時計が乱れがちです。
体内時計が乱れることで睡眠障害を引き起こしたり、日中の抑うつ感が増したりと、症状を悪化させるリスクが高まるため、睡眠、食事、活動の3つの基本的なリズムを保って、体内時計を整えるようにしましょう。
できるだけ残業を避ける
双極性障害の方が躁転を起こしやすいタイミングとして、繁忙期に遅くまで残業をするなど、過剰に仕事に取り組んだ時が挙げられます。
双極性障害の場合は、過剰なストレスを減らして、精神面を安定させておくことが重要なので、勤務時間や仕事量もできるだけ変わらないようにするのが理想です。
月初めに有給休暇を取得しておく
働きすぎを抑制するために、有給休暇を月初めに決めてしまうことも効果的です。
躁状態のときは仕事がはかどるため、休みを挟まず立て続けに仕事をしてしまいがちですが、気づかないうちに体力も気力も消耗しているケースが多くあります。
そういった働きすぎを防ぐために、月初めに有給休暇日を決めておき、入れた休暇は必ず消化するようにして、意識的に休息をとるようにしておきましょう。
双極性障がいの方が利用できる主な支援制度
双極性障害の方が利用できる支援制度として下記のような機関・サービスが挙げられます。
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 障がい者向け転職エージェント
順に解説していきます。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、一般企業などへの就職を目指す病気や障がいのある方の就職活動をサポートする機関です。
基本的なPCスキルやビジネスマナーなどの基本的な内容の他、会計、英語、プログラミングなど専門的な講座が用意されている事業所もあり、就職に役立つスキルを身につけることができます。
また、長期的に仕事を続けられるように、就職後の定期面談などで職場定着もサポートしています。
自分に合う就労移行支援事業所の探し方については、下記の記事で詳しく解説しています。
地域障がい者職業センター
地域障害者職業センターは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が運営しており、障害者職業カウンセラー等を配置して、相談者のニーズに応じて専門的な職業リハビリテーションサービスを行っています。
地域障害者職業センターについては下記の記事で解説しています。
障がい者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、社会福祉法人や特定非営利活動法人などの、都道府県知事が指定した法人が運営しており、「なかぽつ」とも呼ばれます。就職だけでなく日常生活の支援が必要な障がい者に対して、窓口相談や職場および家庭訪問などを実施しています。
就職活動だけでなく、日常生活や健康管理、金銭管理など生活面についても相談することができます。
障害者就業・生活支援センターについては、下記の記事でも解説しています。
ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)は、さまざまなサービスを無償で提供している、厚生労働省管轄の職業紹介機関です。障がい者専用の相談窓口があり、双極性障害などの障がいがある方に特化した対応も行っています。また、ハローワークからの申し込みで、障がいがある方向けの職業訓練を受けることも可能です。
障がい者向け転職エージェント
転職エージェントは、求職者それぞれに担当者がついて、仕事探しから入社後の相談対応までのサポートを行ってくれるサービスです。
最近では、病気や障がいがある方に特化した転職エージェントもあるので、複数の転職エージェントを試して自分に合ったサポートを利用してみるのも良いでしょう。
就労継続支援A型事業所で働くという選択肢
働く意欲はあるものの、すぐに一般企業で働くことが不安な方には「就労継続支援A型事業所」で働くという選択肢もあります。
就労継続支援A型事業所とは、「一般企業で働くことが難しい、病気や障がいのある方に、就労の場を提供する雇用型の支援機関」です。職業訓練を目的としている就労移行支援事業所とは違い、最低賃金以上の給料が保証されており、利用期間の定めもないので、期限を気にせずに働き続けることができます。
A型事業所の求人は、市区町村の障害福祉窓口やハローワークなどで紹介してもらえるので、事業所に問い合わせ、見学や説明会に参加してから、応募・選考を受けましょう。
一般就労へ向けた最初のステップとして、A型事業所の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
自分に合うA型事業所の探し方については、下記の記事でも詳しく解説しています。
まとめ|双極性障がいの向き合い方と長く働き続ける方法
- 双極性障がいは躁状態とうつ状態を不定期に繰り返す精神障害で、躁状態の度合いに応じてⅠ型とⅡ型に分類される。
- 就労にあたっては、躁状態やうつ状態における仕事への影響があるため注意が必要。軽躁状態で調子良く思えても、うつ状態になったときの反動が仕事に影響を及ぼすこともある。
- 双極性障害は、治療を継続しないと非常に再発リスクが高い疾患だが、適切な通院や投薬治療、および自己管理によって症状をコントロールして仕事を続けることが可能。
- 就労する際は、病気と向き合い、生活リズムやストレス対処といった自らの管理に加えて、双極性障害に対する理解と配慮がある企業を探すことが、安定して長く働き続けられるポイント。
双極性障がいは、躁状態とうつ状態を不定期に繰り返します。軽躁状態で調子が良いように見えても、うつ状態で大きな反動が出ますし、躁うつ混合状態では最悪の場合、自ら命を絶とうとすることもあります。
治療を行わなければ躁とうつの感覚が短くなるなど、仕事を続けることが難しくなることも多いです。しかし、早期に病気がわかれば、通院・治療で躁状態とうつ状態をコントロールし、安定した仕事・生活ができるようになります。
双極性障がいの方が利用できる「就労継続支援A型事業所」などの各種支援制度も活用して、安心して長く続けられる自分に合った就労を目指しましょう。