「空白期間があるから、自力で社会復帰を目指すのは不安…」
引きこもりの方は、このような事を考えた覚えがあるのではないでしょうか。
引きこもりの状態から社会復帰を目指そうと考えた時、このような不安を抱える方は珍しくありません。就職活動に関わる準備を一人で行うことに行き詰まりを感じる場合もあるでしょう。
そのような時は、「就労支援」というサービスを利用する手段があります。
就労支援では、あなたが就職するまでのサポートはもちろんのこと、「仕事が続かない」「人間関係が苦手」など働きだしてから直面するであろう不安についても相談することができます。
- 就労支援ではどのようなことを行っているのか?
- 引きこもりに就労支援は利用できるのか?
- 就労支援を利用するメリット・デメリットは?
について解説します。
あなたも就労支援を活用して、社会復帰を目指しましょう。
就労支援とは?代表的な就労支援4選
「就労支援」とは、就職に必要な能力を身に着けるためのトレーニングを提供して、仕事につきたいと考えている方をサポートしながら就職に導く制度です。
「就職支援」と言えば目標は就職することになるため、企業に就職したい全ての方が対象になります。それに対し、「就労支援」は就労を通じて自立した生活を送ることを目標としており、障がいがある人を対象としている場合が多いです。就労支援を利用するにあたり「障がいがある人」という条件を聞くと、「自分は利用できないのでは?」と考える方もいるでしょう。
しかし、精神障害などの場合は幅広い症状の方が支援の対象となっています。引きこもりの場合は特に、精神障害との因果関係が指摘されています。社会に適応できない、家から出られないという引きこもりの状態には、何かしらの病名がつくとの見解を示している精神科医が多いのです。
就労支援を利用してプログラムに参加することは居場所づくりの一環ともなり、就労に向けたスキルアップをしながら引きこもりを脱却できる可能性があります。
就労支援は、主にNPO法人や企業などの民間団体が主体で行われており、下記の4種類があります。
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
- 就労移行支援
- 就労定着支援
それぞれの特徴を解説していきます。
就労継続支援A型
就労継続支援A型は、障がいや難病などで一般就労が難しい方が、雇用契約を結んで働くことができる福祉サービスになります。雇用契約を結ぶため最低賃金が保証されており、事業所によっては社会保険に加入することもできます。労働時間は4時間~6時間程度で週5勤務となることが多く、給料の月平均額は約8万円程度です。
就労移行支援A型は全国に約4,000件の事業所があり、業務内容も下記のようにさまざまです。
- パソコン作業(データ入力、動画作成、web制作、オークション出品代行等)
- カフェやレストランの運営(調理、接客)
- 軽作業(仕分け、梱包、等)
就労継続支援A型は、障がいを持つ方に対して「働ける場所」と「スキルアップの機会」を提供することを主な目的としています。
A型事業所から一般就労を目指せるのか?についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
就労継続支援B型
就労継続支援B型とは、一般就労が難しくなる障がいや難病を抱えた方が、雇用契約を結ばずに就労できる福祉サービスです。雇用契約を結ばないため、得られる報酬は最低賃金を大きく下回る場合がほとんどであり、給料ではなく工賃と呼ばれます。工賃の月平均額は約1万7,000円です。
就労移継続援B型では、体調に合わせて利用する時間を調整することができます。「週に1日、1時間」など、短時間の利用からスタートすることも可能です。
就労継続支援B型は全国に約1万7000件の事業所があり、下記のような業務を行っています。
- パンやお菓子の製造販売
- 商品の仕分け、梱包、発送等
- 農作業
- 清掃業務
A型事業所に通所する前のリハビリとして、B型事業所を利用する方もいます。体調が安定しないなどの理由で毎日仕事に行くことが難しい方には、就労継続支援B型がおすすめです。
就労継続支援A型・B型の違いは下記の記事で詳しく解説しています。
就労移行支援
就労移行支援は、障がいを持つ方が就職するために必要なスキルを身に付けるための訓練を行う場所です。18歳~64歳で、一般企業(障害者雇用を含む)への就職を希望する方が対象となっています。就労移行支援を利用できる期間は原則2年間(例外あり)です。就労継続支援A型・B型とは異なり、給料・工賃は基本的にもらえません。
就労移行支援は、利用する本人が住民税の課税対象でなければ無料で利用できます。しかし、利用する本人かその配偶者が住民税の課税対象である場合は、利用料金が発生する可能性があるため注意が必要です。
就労移行支援事業所からの就職率の全国平均は55%程度ですが、就職率の高い事業所であれば70%を超える場合もあります。就職を見据えた訓練を中心に行っている施設だけでなく、レクリエーションなどの居場所づくりを中心に行っている施設もあり、事業所によってプログラムが異なるため、就職率に差が生まれるのです。
就職率の高い就労移行支援事業所で運営されているプログラムは、下記の通りです。
- パソコン訓練(Word、Excel、web制作、プログラミングなど)
- 自己理解のための訓練(得意な事や苦手な事を明らかにする、障がいへの理解)
- ビジネスマナー講習
- コミュニケーション訓練
- 就職活動スキル(履歴書、職務経歴書、面接)
- 職場見学
事業所が企業と独自のコネクションを持っている場合もあるため、「ここを利用することでどのような就職先を目指せるのか」という視点で選ぶことが大切です。
就労移行支援について気になった方は、下記の記事もご覧ください。
就労定着支援
就労定着支援とは、就労継続支援A型・B型や就労移行支援を利用して一般企業へ就職した方を対象として、雇用された企業での安定就労をサポートする障害福祉サービスです。
仕事を通して生じる、日常生活や社会生活の課題解決の支援を目的としています。
- 仕事でミスを繰り返してしまう
- 職場での人間関係がうまくいかない
- コミュニケーションが難しく報告、連絡、相談ができない
- 給与などの金銭管理ができない
このような問題が発生した時、支援員が本人や職場の上司らと面談を行い、課題解決へと導いていきます。会社では言いにくいこと、一人ではどうしようもないことを抱え込まず、相談できる環境を作るための支援です。
引きこもりが就労支援を利用するには?
ここまで紹介した就労支援は、病気や障がいを持っているため就労が難しい状況にある方を対象としています。就労支援を利用する場合、障害者手帳を取得するか、医師の診断書によって障がいの状況を証明しなくてはいけません。そのため、引きこもりの方が就労支援の利用を検討する時、病院を受診しているかどうかが一つの問題となります。
引きこもりとは病気ではなくその方が置かれている状態を表す言葉ですが、引きこもりが社会問題として理解されるにつれて、引きこもり当事者の8割以上は何らかの精神疾患を抱えているということがわかってきました。
精神疾患が原因となり引きこもりとなるケースのほか、引きこもりが長期化した結果精神疾患を発症するケースも存在します。しかし、引きこもり当事者には病気の意識がないことも珍しくありません。そのため引きこもりの方が社会復帰を目指す際は、あなたがすぐに働けるのか、リハビリが必要な状態なのかを判断する必要があります。
- 昼夜逆転、眠れない、眠りすぎる(睡眠障害、うつ病)
- だるさが続いている、何も楽しめない(うつ病)
- アルコールやゲーム、ネット、薬物などへの依存がある(各種依存症)
- 人ごみや、人前での行動が怖い(社交不安障害)
- コミュニケーションが苦手(自閉スペクトラム症)
- 簡単なミスを繰り返してしまう(注意欠如・多動性障害)
このような症状がある場合、心療内科や精神科を受診することが推奨されています。
上記の症状以外にも、引きこもりと関連している精神疾患はさまざまにあります。体調面に問題がある場合は、定期的な通院や服薬による治療と合わせて、就労支援を利用しながら社会復帰を目指すことが望ましいでしょう。
引きこもりが就労支援を利用するメリット・デメリット
引きこもりの方が就労支援を利用することには、下記のメリットがあります。
- 引きこもり状態から外に出るきっかけを得られる
- スキルアップをしながら社会復帰を目指せる
- 障がいの持つ特性を理解して、障がいとの付き合い方を学ぶ機会を得られる
- 生活習慣の改善とともに、健康面などの自己管理能力を身に着けられる
- 就職までの支援と職場に定着するための支援を受けられる
一方で、次のようなデメリットも考えられます。
- 就労支援は引きこもりに特化した支援ではない
- 引きこもりというだけでは就労支援を利用できないケースもある
- 事業所によっては作業内容が簡単すぎて、スキルアップにならない可能性
- 長期間事業所に通う必要があり、すぐには一般就労できない
- 就労支援と合わせてアルバイトや副業などを行うことは、原則禁止されている
就労支援を利用することが外出のきっかけ作りとして機能するため、引きこもりのリハビリになるという点は大きなメリットとなるでしょう。
しかし、事業所によって作業内容や訓練のプログラムはさまざまです。目的をもって事業所を選ばなければ、望むようなスキルアップに繋がらない点は気を付けなければいけません。
引きこもりが就労支援を利用開始するまでの手順
就労支援の利用開始までの流れは、下記のようになっています。必要なものがあれば事前に用意しておくと良いでしょう。
1. 就労支援を行っている事業所を探す(就労移行支援、就労継続支援A型・B型)
お住まいの地域の役所にある障害福祉課に問い合わせると、その地域にある就労支援事業所を紹介してもらえます。また、ネット検索で事業所を探す場合はWAM NET(ワムネット)などの検索サービスを利用するのがオススメです。
2. 就労支援事業所の見学を行う
事業所によっては見学を行うかどうかは任意の場合もありますが、事業所内の雰囲気や作業・訓練の内容などを把握できます。複数の事業所を見学して比較することも有効です。
3. 利用する事業所を決める
事業所によっては(特に就労継続支援A型の場合)利用決定前に面接を行う場合があります。
下記の記事では、就労継続支援A型の面接についてまとめています。
4. 障害福祉サービス受給者証を申請する
利用する就労支援事業所が決まったら、役所にある障がい福祉課などで障害福祉サービス受給者証の申請を行います。障害者手帳、医師の意見書、診断書などのいずれかが必要になります。自治体によって手順が異なるため、事前に窓口へ問い合わせてみましょう。
5. 利用契約を行い、利用開始
就労支援事業所のスタッフと面談を行いながら「個別支援計画」を作成します。就職を目指すスパンや、事業所の利用を通して改善したい事項などを計画します。
引きこもりにオススメのすぐに利用できる就職支援
これまで紹介してきた就労支援には、利用するための手続きが複雑ですぐに通所できないというデメリットがあります。また、利用しても一般企業との就職に結びつくまでには時間がかかり、あなたが望む支援を受けられるかどうかは事業所次第という不確定な要素もあります。
なるべく早く正社員を目指したいと考えている引きこもりの方は、これから紹介する就職支援を利用することがオススメです。
地域若者サポートステーション(サポステ)とジョブカフェ
引きこもりの方にはさまざまな事情や経歴がありますが、空白期間があるという点は共通しています。そのため、ハローワークよりも手厚い支援を受けながら就職活動をしたいと考える方もいらっしゃるでしょう。
そのような時に利用できるのが「サポステ」と「ジョブカフェ」です。
サポステの特徴
- 仕事の紹介は行っていない
- IT系、事務職、営業、倉庫作業などさまざまな仕事現場の見学・体験ができる
- ビジネスマナー、コミュニケーション訓練、パソコン基礎講座などが受けられる
ジョブカフェの特徴
- ハローワークと提携して仕事の紹介を行っている
- 職業の適性診断を通して担当スタッフと「自分に合った仕事は何か?」から考えられる
- 臨床心理士によるカウンセリングが受けられる場合もある
これらの特徴から「働くための準備を行う場所」がサポステ、「働ける状態になって企業に応募したい時に利用する」のがジョブカフェという違いがあります。
実際に、引きこもりが利用するならサポステとジョブカフェどちらがいいのか問い合わせてみたところ、下記のような回答が得られました。
サポステの回答
ジョブカフェの回答
このように、引きこもりの方が利用するならサポステ→ジョブカフェという流れがベストという結果でした。しかし、どちらもまずは気軽に来て欲しいという話をしていたため、外出するついでのような軽い気持ちで利用できる就職支援になっています。
サポステについては、下記記事でも詳しく解説しています。
まとめ|大人の引きこもりが受けられる就労支援
- 引きこもりの方が働いて収入を得ながらスキルアップを目指す場合は、就労継続支援A型の利用がオススメ。
- 就職に必要なスキルを身につけるトレーニングをして一般就労を目指したい場合は、就労移行支援がオススメ。
- 就労支援全般は主に障がいを持つ方が対象になるため、引きこもりの方が利用するには医師の診断を受ける必要がある。
- 就労支援を利用する場合、自分に合った事業所を選ばなければ望んだ支援を受けられず、就職などの結果に結びつかない点は注意が必要。
- なるべく早く一般就労したいと考えている引きこもりの方には、より気軽に利用できるサポステとジョブカフェも。
引きこもりの方に向けた就労支援について紹介しました。
引きこもりの現状から脱却するには、問題を一人で抱え込まず、こうした支援を頼ることが一番の近道です。自分に合った支援を受け、社会復帰への一歩を踏み出しましょう。