「原因に精神疾患を疑ってるけど、どう対処すればいい?」
「引きこもりに関する悩みは、どこに相談すればいい?」
この記事にたどり着いたあなたは、このような悩み・疑問を抱えてはいませんか?
内閣府が2023年に行った調査の結果、15~64歳の中で引きこもり状態にある方は、全国に146万人いると推計されました。その中でも、厚生労働省の調査では引きこもりの約3人に1人が、「うつ病」や「統合失調症」などの精神疾患を抱えているとされています。
つまり、引きこもりとなった原因や長期化している背景には何らかの精神疾患が関係している可能性があるのです。
- 引きこもりと精神疾患にはどのような関係があるのか?
- 引きこもりの原因となる精神疾患の症状について
- 引きこもりの原因が精神疾患ではないかと疑った時はどうすればいいのか?
- 引きこもりの原因が精神疾患であった場合は利用できる支援や制度はあるのか?
について解説します。
今回の記事を読むことで、「引きこもりの原因は精神疾患なのでは?」と疑った時の対処法を理解し、引きこもりの脱出に役立てていただければ幸いです。
引きこもりと精神疾患の因果関係は?
多くの精神疾患は発症する原因が明らかではありませんが、一般的にはストレスに起因して発症するものと考えられています。引きこもりと精神疾患が密接に関係しているケースには、大きく2つのパターンがあると考えられています。
- 精神疾患の発症をきっかけに、二次的な障害として引きこもりになる
人間関係や社会生活の中でトラブルを抱えて強いストレスを感じることで、精神疾患を発症しているケースです。ストレスの原因から遠ざかるために、外出や人との関わりを避けて引きこもりとなります。 - 引きこもりが長期化したことをきっかけに、精神疾患を発症している
長期間の引きこもり生活によって社会的に孤立してしまうことで、精神疾患を発症しているケースです。孤立によって人間が感じるストレスは非常に大きく、心身に悪影響を及ぼすことでさらに引きこもりが長期化する可能性があります。
引きこもりとの因果関係が指摘されている代表的な精神疾患には、
- うつ病
- 統合失調症
- 双極性障害
- 強迫性障害
などが挙げられています。
また、精神疾患以外の原因に発達障害もありますが、こちらに関しては下記の記事で解説しています。
次の項目では、先に述べた4つの精神疾患と引きこもりの因果関係について解説していきます。順に見ていきましょう。
引きこもりとうつ病
うつ病には「精神的症状」と「身体的症状」が見られることが多く、具体的には下記のような症状があります。
うつ病の精神的症状
- 1日中気分が落ち込んでいて、趣味の時間などを楽しむことができない
- 行動意欲が低下して、悲観的な思考になりやすい
- 細かいことが気になってしまい、自分が何か悪いことをしている感覚になる
- 自分の存在を無価値だと思い込むようになり、自殺願望を抱くようになる
うつ病の身体的症状
- 不眠や過眠などの睡眠障害があらわれやすく、生活習慣が乱れる
- 食べ物の味がわからない、食欲不振、過食などにより食生活が乱れる
- めまい、頭痛、息切れ、動悸などの症状があらわれ、慢性的なだるさを感じやすい
うつ病を発症すると、「自分はダメな人間だ」という意識を持ちやすく、自尊心や自己肯定感が低下しやすい傾向があります。その結果、「自分は必要とされていない存在、社会に居場所はない」という考えに繋がってしまい、引きこもりの原因となるのです。
引きこもりと統合失調症
統合失調症には「陽性症状」と「陰性症状」の2種類があり、具体的には下記のような症状があります。
統合失調症の陽性症状
- 「自分は監視されている」「食事に毒が入っているのでは?」などの現実離れした妄想をするようになり、それを真実だと信じ込んでしまう
- 「誰もいないのに悪口が聞こえる」「存在しない物が見える」といった幻聴、幻覚などの症状があらわれ、それを現実の感覚だと認識してしまう
統合失調症の陰性症状
- 自発的に何かを行う意欲や周囲への興味を失ってしまう
- 単に気分が落ち込む症状とは異なり、感情そのものの起伏がなくなることで何も感じることができなくなる
- コミュニケーション能力や理解力が低下して、自分の世界に閉じこもるようになる
統合失調症の場合、陽性症状による妄想・幻聴・幻覚などが原因となり、強い不安や恐怖を感じて外出ができなくなる場合があります。一方、陰性症状では行動意欲や興味の低下、感情の喪失が引きこもりの直接的な原因となりやすいのです。
引きこもりと双極性障害
双極性障害は、極端に活動的になる「躁状態」と極端に落ち込む「うつ状態」を繰り返すため「躁うつ病」とも呼ばれており、具体的には下記のような症状があります。
躁状態の症状
- 異常な気分の高揚があり、エネルギーが満ち溢れて何でもできそうな感覚になる
- じっとしていられなくなり、睡眠時間などを削ってでも活動していたいと感じる
- 高揚感から衝動的な行動に移りやすく、対人関係のトラブルや異常な散財行動に発展したり、場合によっては犯罪に走ったりすることもある
うつ状態の症状
- 躁状態の時の無理な活動により、心身が疲弊してひどく落ち込んでしまう
- 躁状態の時の行動や言動を振り返り、強い罪悪感を抱えるようになる
- 気分の落差が通常のうつ病よりも大きく、躁状態とうつ状態の激しいギャップにより大きなストレスを感じてしまう
双極性障害の場合、躁状態の時に衝動的な異常行動を起こしてしまうことで、人の信頼を失い孤立しやすい傾向があります。また、躁状態での行動がうつ状態に入った時にフラッシュバックしてしまうこともあります。
結果的に、「なぜあの時はあのような行動をしてしまったのか?」という罪悪感を抱えてしまい、自己肯定感が低下することなどが、引きこもりの原因になりやすいのです。
引きこもりと強迫性障害
強迫性障害は、特定の考えが頭から離れない「強迫観念」がきっかけとなり、強迫観念から生じる不安を搔き立てられて繰り返し行ってしまう「脅迫行為」の症状があらわれます。強迫性障害には、具体的に下記のような症状があります。
強迫観念と脅迫行為の症状
- 汚れに対する過度な嫌悪感から強迫観念に取りつかれ、何度も手を洗う行為を繰り返したり、ドアノブや手すりなど他人がさわる物に触れられなくなったりしてしまう(不潔恐怖)
- 「自分が周囲に何か危害を加えたのではないか?」という強迫観念から、何度も自分の行動を確認して、他者に「私は何もしていませんか?」と確認してしまう(加害恐怖)
- 「しっくりこない」という感覚から完全な状態にしなければという強迫観念が生まれ、何度も物の位置を変更したり整理整頓を繰り返したりしてしまう(不完全恐怖)
強迫性障害は思い込みにとらわれてしまう障がいであり、ありえない考え・行為であると理解しつつも自分でそれをコントロールすることができません。強迫性障害の方でも、「不潔恐怖」や「加害恐怖」の症状は引きこもりの原因となりやすいのです。
社会復帰への一歩は精神科の受診から
先述してきたような精神疾患は、ある日突然治るものではありません。適切な治療を受ける中で、症状の改善と悪化の波を何度も繰り返しながら、少しずつ回復に向かっていくものです。
引きこもり当事者が何らかの精神疾患を抱えているケースは多く、複数の症状を併発している場合もあります。精神疾患の症状に当てはまるものがある場合は、社会復帰を考える前に精神科・心療内科を受診して、精神疾患なのかどうかをはっきりさせることが大切です。
引きこもり当事者が病院に行かない・行けない場合の家族の対応
「外出が怖くて引きこもっている。病院に行けるはずがない」
引きこもり当事者はこのように、「病識がない」「外出ができない」といった理由から、なかなか医療と繋がれないこともあります。
そのような時は、家族だけでも精神科に相談することで、引きこもりが解決する可能性があります。なぜなら、引きこもりの解決にあたり、家族は最も重要な支援者だからです。
身内に引きこもり当事者がいる場合、その家族が精神科の相談を受けると、下記のようなメリットがあります。
- 引きこもりに対する偏見や誤解がなくなり、当事者とのすれ違いが解消される可能性がある
- 家族からの相談でも、普段の様子から本人が精神疾患なのかが分かる可能性がある
- 家庭内でもできる引きこもりの解決に有効な手段を知ることができる
また、外出できない引きこもり当事者でも受診しやすい、自宅まで医師が来てくれる「往診」や「オンライン診療」を実施している精神科もあります。そのため、引きこもり当事者が病院を受診できない場合、まずはその家族が精神科に相談することが有効な手段の一つです。
引きこもりながらでもできる、通院できる体づくりの方法
引きこもり当事者が精神疾患を疑った場合、自宅でできるストレスの解消方法を実践してみると良いでしょう。病院へ行くにも、診察の時間に間に合うようにしなければならず、外出にはある程度の体力が必要です。
具体的には、下記の方法を参考にしてみてください。
- 入浴
38~40℃くらいのお湯に20分程度浸かることで、血行促進や代謝の活性化といったさまざまな効果が期待できます。入浴によって得られるリラックス効果も高いため、精神疾患の改善に役立ちます。 - 軽い運動
一般的に適度な有酸素運動はストレス解消に効果があると言われており、精神疾患の改善にも有効です。そのため、室内でもできる「もも上げ」や「階段の上り下り」などの軽い運動を行う習慣を身に着けると良いでしょう。 - 日光浴
日光浴は、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」という物質の分泌を促進します。セロトニンが十分に分泌されることで、高いリラックス効果を得て体内時計の調整が促されます。朝に目が覚めた日は、部屋のカーテンや窓を開けて日光浴を行うと精神疾患の改善に役立ちます。
このような習慣を維持しておくことで、通院などで外出する際の不安や恐怖心が軽減される可能性があります。
下記の記事も引きこもりや精神疾患の改善にオススメです。
精神疾患かもしれない引きこもりの相談先と受けられる支援
引きこもりが社会問題として認識されるようになった昨今では、引きこもりと精神疾患が密接に関係していることを前提とした、相談窓口や支援制度が展開されるようになりました。
次の項目では、精神疾患を疑っている引きこもり当事者の方が利用できる相談窓口と支援制度について解説していきます。
ひきこもり地域支援センター
あなたが「引きこもりを脱出したい」と考えた時、ひきこもり地域支援センターは最初の候補となる相談窓口です。引きこもり地域支援センターは厚生労働省によって運営されている公的な機関となっており、無料で利用できます。
また、ひきこもり地域支援センターには、精神保健福祉士・公認心理士・社会福祉士などの資格を持つスタッフがいるため、引きこもり当事者が精神疾患を疑っている場合にも的確なアドバイスが期待できます。
その他にも、ハローワークと連携した就労支援や、必要に応じて各種社会福祉制度の利用をサポートする支援も展開しています。
引きこもり当事者以外にも家族や友人からの相談も受け付けており、状況によっては電話・訪問相談での対応も可能です。
全国の相談窓口はこちら|ひきこもりVOICE STATION|厚生労働省
ひきこもり地域支援センターについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、ひきこもり地域支援センターの提携先の一つともなっており、地域住民の心の健康を守る目的で、全国の都道府県に設置されています。
先述した引きこもりの原因となりやすい精神疾患の症状が見られた時に、医療機関の受診についてのアドバイスを受けることが可能です。
精神保健福祉センターで受けられる支援は相談以外にも、下記のようなものがあります。
- 状況に応じて利用できる支援についての情報提供
- デイケア(通所型リハビリテーション)による居場所の提供
- 引きこもりからの脱出と社会復帰に向けての相談
本人以外にも家族や友人からの相談も受け付けており、精神疾患の診断を受けていない場合でも利用することができます。
下記、精神保健福祉センターの一覧になります。参考にしてみてください。
全国の精神保健福祉センター|厚生労働省
就労移行支援
就労移行支援とは、一般企業(障害者雇用枠を含む)への就職を目指す障がいを抱えた方を対象にして、働くために必要な知識やスキルを身に着けるためのサポートを行う機関です。企業選び・企業紹介や履歴書の添削など、就職活動のあらゆるサポートが受けられます。
就労移行支援は引きこもり当事者の就労支援の実績もあるサービスとなっており、利用することで下記のようなメリットがあります。
- 通所型の支援が多いため、自宅以外に居場所を作ることができる
- 精神疾患の治療を行いながら手厚いサポートを受けつつ就職活動ができる
- 社会生活の中で精神疾患との付き合い方を身に着けることができる
- 社会復帰後も定期的な面談などが実施されるため、フォローが受けられる
ただし、就労移行支援を利用するには、障害者手帳や現在の病状を説明するための医師の意見書などが必要になります。「精神疾患を疑っている」という段階では利用できない可能性が高い点には注意が必要です。
就労移行支援を利用して社会復帰を目指したい方はこちらの記事もオススメです。
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)
引きこもり当事者が精神疾患を疑った場合、医療機関の受診と共に検討したいのが障害者手帳の取得です。障害者手帳を取得することで、先述した就労移行支援を含むさまざまな制度が利用できるようになります。
精神障害の障害者手帳には1~3級までの等級があり、等級や障がいの内容により利用できる制度が異なる場合があります。また、自治体ごとに独自の制度を設けている場合もありますが、おおむね下記のような制度が利用できるようになります。
- 障がい者を対象とした就労支援や障がい者雇用の求人へ応募できる
- 税金や年金の免除対象となる
- 公共交通機関(主に電車・バスなど)の利用料金の割引が適用される
- 医療費の助成制度が利用できる
一方で、障害者手帳を取得することにより発生するデメリットはありません。就職活動(障害雇用を除く)などを含むあらゆる場面において、障害者手帳を持っていてもあなたの意志に反して公開することは強制されませんし、不要になったと判断した場合はいつでも返還することができます。
障害年金
障害年金は、障がいや病気が原因となり日常生活に支障がある場合や、仕事ができない時に条件を満たすことで支給される年金です。
初めて病院を受診した日(初診日)に、厚生年金保険に加入していれば「障害厚生年金」を、国民年金保険に加入していれば「障害基礎年金」を、それぞれ申請できます。
精神疾患の場合は、障害厚生年金の場合で1~3級、障害基礎年金の場合で1~2級の等級に分かれています。障害基礎年金には3級がないため、障がいの程度が軽度であると診断された場合に受給できない可能性がある点には注意が必要です。
等級によって貰える金額は変わりますが、申請が通ることで年間約60~100万円の金額を受け取ることができます。働きながらでも障害年金は受給できるため、申請するメリットは大きいでしょう。
しかし、障害年金の手続きは複雑で必要書類も多いため、精神疾患を抱えている状態では内容を正確に理解できないことがあります。精神疾患の診断を受けた場合は、将来的に障害年金を受給したい旨を病院側と相談することが大切です。
障害年金・障害手当金の額(P9)|障害年金ガイド|日本年金機構
まとめ|引きこもりと精神疾患の関係
- 精神疾患と引きこもりには因果関係があり、「精神疾患の二次障害として引きこもりになる」場合と、「引きこもりが長期化することで精神疾患になる」場合がある。
- うつ病、統合失調症、双極性障害、強迫性障害は引きこもり当事者に多く見られる精神疾患。
- 引きこもり当事者が精神疾患を疑った場合は、医療機関を受診することが大切になるが、本人がどうしても外出できない場合は家族などの支援者が代わりに相談するのも効果的。
- 精神疾患の診断を受けることで、障害者手帳や障害年金、就労支援など利用できるようになる制度が増えるため、引きこもりの解決に役立てられる。
- 引きこもりの解決についてや精神疾患を疑っている場合は、「ひきこもり地域支援センター」や「精神保健福祉センター」に相談するのがオススメ。
- 医療機関を受診して障害者手帳を取得できれば、就労移行支援などの引きこもりの解決に役立つ支援制度を利用できる。
引きこもり当事者が精神疾患を抱えている場合、引きこもりの自力解決は難しくなります。そのため、引きこもりからの脱出よりも精神疾患の治療を優先することが大切です。
あなたが心身ともに健康を取り戻して、引きこもりを解決できることを祈りつつこの記事の最後とさせていただきます。
他にも、引きこもりに関しては下記の記事で詳しく解説しています。興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。