てんかんとはどのような障がいか、ご存じですか?
てんかんは、脳の神経細胞に異常な電流が流れて興奮状態になり、脳からの情報が一時的に止まったり混乱したりして身体的な発作を引き起こす障がいです。
体が硬直して痙攣が起きるなどの発作が起こりますが、ほとんどの場合、発作は数秒~数分以内で収まります。
「てんかんがあると、就けない職業があるの?」
など、てんかんがあることで、就職や仕事への影響を心配される方も多いでしょう。
- てんかんがあると就けない職業や取得できない資格
- てんかん持ちにオススメの仕事
- 就職時にてんかんの告知義務はある?
などについて解説していきます。
てんかん持ちが就けない職業と取得できない資格
てんかんがあると業務中に発作が起こる可能性があるため、つけない職業や取得できない資格もありますが、制限は多くはありません。
制限のある職業、資格は下記の通りです。
就けない職業
- 航空機の運航を行う航空従事者(パイロットなど)
- 船員
取得できない資格(条件による)
資格に関しても、条件によっては取得できない場合があります。次の項目で詳細を解説します。
自動車免許について
てんかんがあっても一律に自動車免許取得を制限されるわけではありません。適切な治療を受け、条件を満たせば、免許証を取得することができます。
- 発作が再発するおそれがないもの
発作が過去5年間起こらず、医師が「今後発作が起こるおそれが無い」旨の診断を受けた場合。または、発作が2年起こっておらず、医師から「今後、X年程度であれば発作が起こる恐れが無い」旨の診断を受けた場合。 - 発作が再発しても意識障害・運動障害がもたらされないもの
医師が、1年間の経過観察の後、「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合。 - 発作が睡眠中に限り再発するもの
医師が2年間の経過観察後、「発作が睡眠中に限って起こり、今後症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合。
これらに薬の服用の有無は関係ありません。薬を服用していても発作が抑えられているなら大丈夫です。
てんかんの症状が安定してきており、免許の取得・更新を考えている方は、主治医に相談してみましょう。
ただし、日本てんかん学会では、「てんかん発作が投薬なしで過去5年以上起こらず、今後も再発のおそれが無い場合を除き、通常は大型免許・第2種免許の適性はない」としています。大型免許・第2種免許の取得は控えた方が良いでしょう。
※運転免許の取得・更新する場合、症状などを確認する質問票で虚偽の申告をして事故を起こすと、罰則が科せられる場合があります。
病気の症状等を理由に免許が取り消しになった場合でも、取り消しから3年未満に運転適性の状況が回復すれば実地・学科試験が免除され、適性検査のみで免許を再取得できます。免許の再取得は前の免許の継続とみなされるため、有料運転手などの経歴は継続されます。
銃砲または刀剣類の所持の許可と狩猟免許について
銃や刀剣含む刃物類、クロスボウを所持する資格や、狩猟免許は、以下の条件に当てはまる場合のみ、取得することが可能になります。
美容師・理容師免許について
以前はてんかんのある方が美容師・理容師免許を取ることはできませんでしたが、2001年7月に美容師法・理容師法が改正されたため、現在は取得できるようになっています。
以上のように、時代の変化と共に法律は改正されていくため、取れる資格や就くことができる職業の内容が変わることがあります。法改正が行われる際には、内容を確認してみるといいでしょう。
てんかん持ちに仕事の制限はあるの?
運転の仕事はできる?
てんかん持ちであっても、症状によっては運転免許を取得できる、と先ほどお伝えしましたが、運転がメインになる職種はあまりおすすめできません。
また、運転する仕事に必要となる大型免許や第2種免許は、5年以上発作が起きておらず、抗てんかん薬の服薬も終えている場合に適性があると判断されます。
てんかんの症状が重くない場合であっても、万が一運転中に発作が起こることも考えられます。あえて運転を仕事に選ぶことは避けた方が良いでしょう。
夜勤の仕事はできる?
てんかん発作が起きる要因の一例として、過度な疲労やストレスがあります。また、睡眠不足も要注意です。
交替勤務で夜勤のある仕事では睡眠が十分にとれず、生活のリズムが安定しないため、てんかんがある方には適さないと言えるでしょう。
働く際の注意点・ポイント
てんかんがある方の場合、次の仕事は避けておいた方が良いでしょう。
てんかんがある方は、発作を起こしやすい状況を避けることが重要です。
発作が起こるきっかけは人によって異なりますが、ストレスのかかる状況が要因になる場合もあります。高所作業や、温度や湿度が極端な場所での作業、危険な機材を操作する作業などは避けた方がいいでしょう。
どのような状況が働きやすいのか、何がきっかけで発作が起こりやすいのかを考えたうえで仕事を選ぶことが大切です。
また、職場に障がいがあることを説明できる場合は、「発作が起きたときの対処法」や「発作が起こりやすい状況」などを説明しておきましょう。
困ったときに助けてもらえる、働きやすい環境を自分で作ることも大切です。
てんかん持ちでも働けるオススメの仕事
他の障がいと同じく、てんかんも、人によって症状や特性に違いがあるため仕事の向き不向きが異なりますが、過度なストレスや危険な環境は避けた方が良いでしょう。
仕事を探す際は、下記の3つを軸に考えてみるのがオススメです。
- 心身にストレスがかかりにくい仕事
- 生活のリズムが安定している仕事
- オフィス内など環境が安全な仕事
順番に見ていきましょう。
心身にストレスがかかりにくい仕事
ノルマの厳しい仕事やハードな肉体労働は避けたほうが無難です。自分の能力に合った仕事で、長く続けられる仕事を選びましょう。
生活のリズムが安定している仕事
交代勤務や突然夜勤が入らない、勤務時間が一定の仕事が望ましいです。
発作への対策として、規則正しい生活を送るように心がけ、生活リズムを安定させましょう。
オフィス内など環境が安全な仕事
発作の症状として意識消失がある方は、常に周りに人がいる安全な環境を選びましょう。発作が起きて転倒してしまった場合も、オフィス内など、室内の安全な環境であれば、重大なケガを防ぐことができますし、周囲の助けを借りることもできます。
上記を踏まえたオススメの仕事として、
などが挙げられます。
てんかんは就職時に告知する義務はある?
告知義務について
てんかんがあることを職場に伝える法律上の義務はありません。
就職の際に障がいがあることを伝える「オープン就労」、伝えず就職する「クローズ就労」のどちらを選んでも問題はありません。
発作の症状が軽い、あるいは少ないために「クローズ就労」を検討している方もいると思いますが、「オープン就労」を選び、職場に障がいについて説明しておくと、できない業務は外してもらったり、発作が起きた際の対処を頼んだりなど、合理的な配慮をお願いすることができます。
「オープン就労」と「クローズ就労」のメリット・デメリット
オープン就労とクローズ就労のメリット・デメリットを比較してみましょう。
オープン就労 | クローズ就労 | |
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メリット |
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デメリット |
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オープン就労 | クローズ就労 | |
---|---|---|
メリット |
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デメリット |
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てんかん持ちが活用できる相談先や支援サービス
てんかんがある方が活用できる相談先や支援サービスには、次のようなものがあります。
日本てんかん協会(波の会)
本協会は、てんかんに対する社会的理解の促進、てんかんに悩む人たちの社会援護活動、てんかん施策の充実をめざした調査研究や全国的な運動を展開しています。
てんかん協会とは|公益社団法人日本てんかん協会
日本てんかん協会では、上記の一環として、相談事業を行っており、相談専門ダイヤルを設置しています。
03-3232-3811
月・水・金曜日 12:00~17:00
※電話相談は1人30分以内が目安となっています。
※電話回線が1回線のため、つながりづらい場合があります。その際は、時間をおいておかけ直しください。
専門知識のある相談員が、専門医・専門医療機関の紹介および、仕事で感じる不安や日常生活の悩みなどに対応します。ただし、治療内容等の相談は行っていません。
また、同じようにてんかんの悩みがある方に相談ができるピア相談活動も行っています。
※継続的に相談をしたい場合は、日本てんかん協会への入会が必要です。
てんかん支援拠点病院
令和5年現在、28都道府県に「てんかん支援拠点病院」があります。
てんかん支援拠点病院では、専門医が検査・診療を行い、ほかの医療機関等と連携しながら、診療支援コーディネーターによる患者やその家族への相談支援などを行っています。
また、てんかん支援拠点病院の他にも、てんかんの臨床研究などを行っている「てんかんセンター」や、てんかんの専門診療が可能な「てんかん支援ネットワーク施設」があります。
自立支援医療(精神通院医療)
てんかんと診断された場合、自立支援医療制度を利用すれば、てんかんに関する医療費の自己負担額が1割に軽減されます。
自立支援医療制度を利用するには、お住まいの市区町村にある障害福祉課へ申請が必要です。
てんかんと自立支援医療制度についての詳細はこちらをご覧ください。
精神障害者保健福祉手帳
てんかんの症状で日常生活に支障がある場合、精神障害者保健福祉手帳を取得できます。
精神障害者保健福祉手帳が取得できると、税金の控除や公共施設利用料の減免などが受けられます。
障がい者雇用と就労支援
精神障害者保健福祉手帳が取得できると、就職の際に障害者雇用枠に応募が可能になり、就労支援も受けられます。
障害者雇用枠は一般雇用枠に比べて求人が少なく、給与も下がる傾向にありますが、就職先で障がいについて相談ができるので、業務内容や職場環境の配慮を受けられるというメリットがあります。
就労支援では、障がいの特性を踏まえた「就職の準備と職業訓練」から「就職後の職場への定着支援」までが受けられます。
利用できる就労支援機関と支援の内容は次の通りです。
- 就労移行支援事業所
就職の準備と職業訓練、就職後の職場への定着支援などが受けられます。また、一般企業で働くことは難しいが、雇用契約に基づいて就労できる方に対して、必要な配慮を受けながら働くことができる福祉施設として、「就労継続支援A型事業所」があります。詳細は、下記の記事をご覧ください。 - 地域障害者職業センター
職業リハビリテーションをはじめとする、就職の準備や職業訓練、就職後の職場定着支援などが受けられます。
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
なかぽつでは、障がいがある方の相談をもとに、職業訓練の紹介や求職活動などの就職面の支援や、福祉サービスなどの生活面の支援を行っています。
- ハローワーク
ハローワークでは、障がいのある方向けの窓口を設置しており、専門知識のあるスタッフによる職業相談、職業紹介を受けることができます。また、障がい者向けの職業訓練も定期的に行っています。ハローワークの障がいのある方向けの窓口についての詳細はこちらをご覧ください。
精神障害者保健福祉手帳を取得するには、お住まいの各市区町村にある障害福祉課の窓口へ申請が必要です。
まとめ|てんかん持ちができない職業、てんかん持ちでも働けるオススメの仕事
- てんかんがあると、航空機の運航を行う航空従事者や船員として就職することはできない。
- 自動車免許は発作の再発のおそれがない場合や再発しても意識障害や運動障害をもたらさない場合、または睡眠中に限って起こり、症状が悪化するおそれがない場合、取得できる。ただし、大型免許・第2種免許の取得は控えた方がいいとされている。
- -仕事を探す際には、発作を減らすためにストレスがかかりにくく、生活リズムが安定しており、もし発作が起きた際でも危険が生じない仕事がオススメ。また、てんかんがあることを職場に告知する義務はない。しかし、伝えておいた方が発作が起きた際の対処など、合理的な配慮をお願いすることができる。
- てんかんがあることで困ったときは、相談先がいくつかあり、支援を受けられることがある。
てんかんは、疲労やストレスをためないようにして、心身の負担が少ない仕事を選ぶことが大切です。
発作が起こりやすい状況を避けるように工夫し、安心して長く働ける職場を探してみましょう。