「職場でもっと円滑に会話ができるようになりたいんだけど、どうすればいい?」
などの疑問や不安はありませんか?
発達障害の方には、日常生活の会話が難しいと感じている方も多いと思います。
特に、仕事の際に会話が噛み合わないと、職場でうまくコミュニケーションがとれず、人間関係を築くのが難しくなってしまいます。場合によっては、トラブルに発展してしまう可能性もあるでしょう。
- 会話のキャッチボールとは
- 大人の発達障害の方が会話のキャッチボールを苦手とする原因
- 職場でのよくある会話例
- 会話のキャッチボールがうまく行うコツ
について解説していきます。
会話のキャッチボールをうまく行う方法を探っていきましょう。
会話のキャッチボールとは
会話は、よくキャッチボールに例えられます。
キャッチボールは、相手が取りやすいボールを投げ、相手から来たボールを丁寧に受け取る必要があります。会話に置き換えると、「自分から相手が理解しやすい言葉を投げかけ、相手の話を聞いて受け取り、意図を読み取って理解すること」になります。
この一連のやりとりがスムーズにうまく行われないと、自分の意図が伝わらず、また、相手の話が理解できなくなってしまい、会話が噛み合わなくなってしまうこともあるでしょう。
大人の発達障害では、それぞれの特性により、相手の意図を読み取るのが苦手だったり、自分の衝動を抑えるのが不得意だったりするため、会話のキャッチボールが難しくなります。
会話をすることは、相手との相互理解を築くための、とても重要なコミュニケーションです。会話のキャッチボールがうまくできないと、働きづらさを抱えるケースも少なくないでしょう。
大人の発達障害
発達障害は多くの場合、子どもの頃に特性が現れます。しかし、特性の程度や周囲の環境によっては気付かれず、大人になってから仕事や日常生活の中で気づくこともあります。
発達障害については、主に下記の3つを紹介していきます。
- ASD(自閉症スペクトラム)
- ADHD(注意欠陥多動性障害)
- LD(学習障害)
特性は個人差が大きく、特に会話などのコミュニケーションは難しい分野です。ご自身に合った方法を見つけることが、なにより重要になるでしょう。
大人の発達障害の方が会話のキャッチボールをうまくできない原因
ここでは、大人の発達障害の方が、会話のキャッチボールをうまくできない原因について、詳しく解説していきます。
- 一方的に話してしまう
- 耳からの情報処理が苦手
- 思い込みや衝動性
順に見ていきましょう。
一方的に話してしまう
発達障害の方は、自分の話したい気持ちを優先してしまい、相手と会話のキャッチボールがうまくいかないことがあります。
- 例
- 相手のことを考えずに、自分の話したいことを一方的に話す
- 会話の脈絡関係なく、衝動的に話してしまう
これでは、相手は話を聞いてもらっていると感じられません。また、発達障害を抱える方は、相手の非言語的なサインや感情を読みとることが難しく、それに適切に対応するのが苦手です。
よって、自分の印象を悪くしてしまったり、伝えなければいけないことが伝わらなかったりして、仕事をする上で支障をきたしてしまう可能性があります。
耳からの情報処理が苦手
発達障害の約30%の方が、聴覚情報処理障害(APD)を持つとされています。これは音声を聞き取り、理解し、処理する能力に困難を抱えるものです。
聴覚情報処理障害(APD)を持つ方は、下記のような特徴があります。
- 例
- 雑音の中で相手の声が聞き取れない
- 長い文章を聞いて内容を理解できない
- 早口で話されると聞き取れない
- 複数人で話していると、誰が何を話しているかわからない
会話は耳からの情報が大部分を占めるため、これらの特徴があると、会話をすること自体、とても難しいことが分かります。
耳からの情報を聞き逃したり、理解できなかったりするので、仕事のミスなどに繋がってしまう場合もあるでしょう。
思い込みや衝動性
発達障害の方は、自分の考えや思いを優先させてしまうことがあります。会話をする上でも、1人で考えすぎて動けなくなってしまったり、逆に衝動的に発言してしまったりすることもあります。
- 例
- 考えすぎてしまう 相手が気にしていないのに、一方的に落ち込む
- 衝動的に発言してしまう 思いつきで話してしまって、相手を不快にさせてしまう
- 思い込みをする 相手の意図と関係なく、拡大解釈してしまう
会話は話すテンポも大切です。相手にどう思われているかを考えすぎてしまって会話が止まってしまったり、相手の意図しない解釈をしてしまったりして、コミュニケーションが円滑に進められなくなることもあるでしょう。
職場で会話のキャッチボールがうまく噛み合わない例
ここまでは、発達障害の方が会話のキャッチボールができない原因を解説してきました。下記では、発達障害の特性の影響から、職場で起こりうる会話の失敗例を紹介していきます。
- ASDの場合
- ADHDの場合
- 学習障害(LD)の場合
順に見ていきましょう。
ASDの場合
ASDは、相手の表情や声から感情を読み取ったり、言葉の意図を読み取ったりすることが難しいという特性から、コミュニケーションを苦手としている方が多いです。
また、比喩や冗談、抽象的な表現が分からず、理解しにくい場合もあります。
同僚「そんなに資料が悪かったのかな?」
自分「この資料ほんとにダメだよ、ちゃんと作り直したら?」
この例は、相手は落ち込んでいて励まして欲しかった場面です。
ですが、ASDの方は表情から情報を読み取って相手の気持ちを察することが苦手なので、悪意なくこのような返答をしてまうことがあります。相手は意図しない返答で、傷ついてしまう可能性もあるでしょう。
上司「このメールの内容すごく説得力があるね、メールの書き方教室が開けるよ!」
自分「え!そんな教室開くつもりはありませんよ」
この例では、相手が比喩表現を使って褒めている場面です。
ASDの方は言葉通りに解釈してしまい、相手の意図を理解することが難しいので、会話が噛み合わなくなってしまうことがあります。その影響から、コミュニケーションを取ることが難しくなってしまうこともあるでしょう。
ADHDの場合
ADHDは「不注意」と「多動性・衝動性」の特性がある発達障害です。思ったことを突発的に言ってしまい、周りのの会話が止まってしまうことがあります。
相手「では、こちらの作業をどなたかにやっていただきたいと思います。皆さんで話し合って決めましょうか」
自分「私はやりたくありません」
この例では、話し合いが進む前に、自分の意見を一方的に主張してしまいました。
ADHDの方は、衝動を抑えることが苦手で、突発的に発言してしまうことがあります。その発言がいい方向に転がる場合もありますが、話し合いが前提の場などでは会話が止まってしまい、やり取りから生まれるコミュニケーションが無くなってしまうこともあるでしょう。
ADHDの話し方については、下記の記事でも詳しく解説しています。興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。
学習障害(LD)の場合
学習障害は、知的な発達の問題はないのに、「読む・聞く・書く・計算する・推論する」能力のうち、特定の分野に困難があります。仕事では、これらの能力を必要とする場合があり、周囲の方が自分の特性を理解していない場合、コミュニケーションがうまく取れない可能性があります。
上司:「次のプロジェクトについて、各自の担当部分を決めたいと思います。Aさん、まずあなたの意見を聞かせてください。」
Aさん:「えっと、資料を読んだんですけど…(資料を探しながら)どこに書いてあったか…」
上司:「具体的な案を話してもらえますか?」
Aさん:「すみません、ちょっと時間をください…(焦りながら)」
この例では、Aさんは資料の情報をすぐに取り出せず、話す内容を整理するのに時間がかかっています。
学習障害を持つ方は、特に情報の処理や整理が難しいため、会話のテンポが遅くなりがちです。
周囲の理解とサポートがないと、Aさんは自分の意見を適切に伝えることが難しくなり、結果としてコミュニケーションがうまく取れないことになります。
このように大人の発達障害を抱える方は、仕事で会話のキャッチボールがうまくいかずに悩むこともあります。
会話のキャッチボールをうまく行うコツ
ここまで、発達障害の特性の影響で会話がうまく噛み合わない例を紹介してきましたが、では、どのようなことを意識すれば、会話のキャッチボールがうまくできるようになるのでしょうか?
まず、ご自身がどのような特性を持っているか、理解することが重要です。仕事をする上で、どういう場面で特性の影響が出てしまうのかを把握しておきましょう。
また、自分の特性を職場の方に理解してもらうことも大切です。
周りが発達障害の特性を知って理解してくれれば、うまく対応してもらえるようになり、会話のキャッチボールができるようになるでしょう。お互いに理解していることで、職場のコミュニケーションが円滑になり、仕事もうまくいく可能性が高まります。
ここからは、会話のキャッチボールが円滑にできるようになるコツを、発達障害の種類別に紹介していきます。
ASDの場合
ASDの方が、会話のキャッチボールがうまくできるようになるコツは、主に3つあります。
- 相手の気持ちや意図を読み取る
- 会話の前に話す内容を準備する
- 自分なりのコミュニケーション方法を見つける
順に解説していきます。
相手の気持ちや意図を読み取る
ASDの方は、相手の表情や声のトーンから状況を理解することが苦手です。よって、相手の気持ちや意図を読み取る意識をしてみましょう。
相手の気持ちや意図を読みとるポイントは、下記のようなものがあります。
- 相手の表情や声のトーンに注意する
- 相手が何を言おうとしているのか、想像してみる
- わからないことがあれば、遠慮なく質問する
今まで無意識だったことを、少しだけでも意識的にするだけで、気付けることもあるでしょう。
誰しも「察する」ことは非常に難しいので、一度言葉にしてもらうのもいいですね。
会話の前に話す内容を準備する
会話をする前に、相手との共通の話題を調べておくことで、話が途切れてしまうのを防げる可能性があります。会話の流れをある程度予測しておくことで、それに応じた返答をすることもできるようになるでしょう。
会話の前に意識するポイントには、下記のようなものがあります。
- 音楽や映画など、相手との共通の話題を調べておく
- 会話の流れをある程度予測しておく
- 事前にメモを用意しておく
これらの準備をすることで、自分の気持ちにもゆとりができます。焦らず話せるので、会話のキャッチボールがスムーズに進みます。
話の展開に応じた柔軟な対応が可能になり、相手とのコミュニケーションがより円滑になるでしょう。
自分なりのコミュニケーション方法を見つける
ASDの方は、言葉によるコミュニケーションが苦手という方も多いとされています。このような場合は、ジェスチャーやアイコンなどを活用したコミュニケーション方法を見つけ、実践してみることも有効です。
具体的には、下記のようなものがあります。
- 絵や文字を使ってコミュニケーションを取る
- LINEなどのスタンプを多めに持っておく
- 相手に考えていることを文章にしてもらい、意図を明確にしてもらう
これらの方法を使うことで、自分の気持ちや意図をより正確に伝えることができます。自分に合ったコミュニケーション方法を見つけることで、相手とのやり取りがスムーズになり、理解し合える関係を築くことができるでしょう。
ADHDの場合
ADHDの方が、会話のキャッチボールをうまくできるようになるコツは、主に2つあります。
- 相手に話す前に一呼吸おく
- 話すタイミングを意識する
順に解説します。
相手に話す前に一呼吸置く
話す前に一度時間を置くことで、話が脱線したり、相手を傷つけてしまう発言をしたりすることを防げる可能性があります。
具体的には、下記のような方法があります。
- 話す前に深呼吸をする
- 何を話したいのか、頭の中で整理する
- 相手が話を聞いているかどうか、確認する
相手が聞いていることの確認は重要です。会話の中で「今の説明で合っていますか」などの確認を入れて、相手がしっかり会話を受け取れているかを確認しましょう。
話すタイミングを意識する
ADHDの方は、場の雰囲気やタイミングを意識することが苦手です。タイミングを間違えると相手を不快にさせる場合もあり、仕事にも影響する可能性があります。
具体的には、下記のようなことを意識してみましょう。
- 相手が話しているときは、話を遮らない
- 笑い声や雑音があるときは、発言を控える
- 重要な話は、後でゆっくり話す
これらのポイントを意識することで、会話の流れをスムーズに保つことができます。適切なタイミングで発言することで、相手とのコミュニケーションがより円滑になり、誤解や不快感を減らすことができるでしょう。
学習障害(LD)の場合
学習障害の方が、会話のキャッチボールがうまくできるようになるコツは、主に2つあります。
- 自分が話す時の工夫
- 相手に協力を求める
順に解説します。
自分が話すときに工夫する
学習障害の方は、情報を整理し、簡潔に話すことで相手に伝わりやすくなります。
下記のような工夫をすることで、会話がスムーズに進むでしょう。
- 例:書くことが苦手な場合
- 対処方法 メモを活用する
- 会議の前に話す内容をメモに書き出し、そのメモを見ながら発言する。
- 例:計算することが苦手な場合
- 対象方法 計算機やエクセルなどを利用する
- 使用する前に、上司に許可をとり計算を自分で行わないようにする。
これらの工夫を取り入れることで、コミュニケーションが円滑になり、仕事もスムーズに進むでしょう。自分の特性を理解し、適切な準備をすることが大切です。
相手に協力してもらう
会話のキャッチボールがうまくいくためには、相手の協力も重要です。相手に対して、下記のような対応をお願いすることで、コミュニケーションが円滑になります。
- 例:聞くことが苦手な場合
- 対処方法 話を簡潔にしてもらう
- 長い説明が難しい場合、要点を簡潔に話してもらうようにお願いする。
- 例:推論することが苦手な場合
- 対処方法 視覚的な補助を使ってもらう
- 手順を説明する際に、図やイラストを使ってもらうようお願いする。
これらの工夫を相手にお願いすることで、自分の苦手な部分を伝えられます。相手の協力を得る事で仕事もよりスムーズに進むでしょう。
まとめ|発達障害と会話のキャッチボール
- 会話のキャッチボールとは、自分から相手が理解しやすい言葉を投げかけ、相手の話を聞いて受け取り、意図を読み取って理解することを指す。発達障害の方は、特性の影響で難しいと感じている方が多い。
- 会話のキャッチボールがうまく行かない原因は、一方的に話してしまったり、耳からの情報処理が苦手だったりすることが挙げられる。他にも、思い込みや衝動性から、考えすぎや突発的な発言で会話が止まってしまうこともある。
- 会話のキャッチボールをうまくできるようになるコツは、ASDの場合は、相手の意図を読み取り、話す内容を準備する。ADHDの場合は、話す前に一呼吸おくことや話すタイミングを意識する。学習障害の場合は、自分から工夫することと、相手に協力を求めることが大切になる。
- 自分の特性を理解し、職場の同僚にも理解を得ることが大切。
発達障害の方が、会話のキャッチボールをうまくできるようにするためには、自分の特性を理解し、それを活かしたコミュニケーション方法を見つけることが大切になります。焦らず、自分のペースで取り組むことで、徐々にコミュニケーション能力を向上させることができます。
また、周囲の方も発達障害について理解を深め、サポートしていくことが大切です。発達障害の方の話を丁寧に聞き、理解しようと努めることで、より良いコミュニケーションを築くことができるでしょう。
この記事が、職場での会話のコミュニケーションの参考になれば幸いです。
大人の発達障害については、下記の記事などでも解説しています。興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。