「アスペルガー症候群の人のこだわりが強い原因って何だろう?」
「当事者とどのように接したら良いのか分からない…」
現在、職場でアスペルガー症候群の方と一緒に働いている方は、その方に対して、上記のような疑問や悩みをお持ちではないでしょうか?
アスペルガー症候群の方の中には、「こだわりが強い」という特性がある方が多いとされています。
こだわりが強いと、例えば「本来、効率的なやり方があるにもかかわらず、自分のやり方に固執してしまう」というような事が起こり、仕事の効率が落ちてしまうことがあります。
また、こだわりが強い当事者との間に、摩擦が生じてしまい、人間関係が悪くなってしまうケースもあるでしょう。
- 大人のアスペルガー症候群の5つのこだわりと具体例
- なぜアスペルガー症候群はこだわりが強いのか
- アスペルガー症候群のこだわりへの対処法6選
を解説していきます。
本記事の内容を参考にしていただくことで、あなたの疑問や悩みが解消し、円滑に仕事を進めていけるようになれば幸いです。
大人のアスペルガー症候群の5つのこだわりと具体例
近年、アスペルガー症候群は、自閉症や広汎性発達障害をまとめた総称である「自閉スペクトラム症(ASD)」とも呼ばれています。
アスペルガー症候群の方のこだわりは、定形発達の方(発達障害ではない方)の性格や好み、わがままから起こるこだわりとは違い、特性上、自分ではなかなかコントロールが効かない強いこだわりとされています。
では、アスペルガー症候群の方には、どのようなこだわりがあるのでしょうか?
ここでは、主に下記の5つについて、具体例を出して解説していきます。
- 自分のやり方に対してのこだわり
- ルーティンへのこだわり
- 物事の細部へのこだわり
- 優先順位に対してのこだわり
- 五感の刺激が少ない環境へのこだわり
順番にみていきましょう。
自分のやり方に対してのこだわり
アスペルガー症候群の方は、自分のやり方にこだわってしまいがちです。
例えば、上司から作業のやり方を「このようにやった方がいいよ」とアドバイスを受けたとしても、素直に実行することができずに、自分のやり方を突き通してしまう場合があります。
これは、頭の中では「きっと、アドバイス通りやった方がいいのだろう」「上司から言われたアドバイスだから実行しなくては」などと思っていても、強いこだわりから実行できず、自分のやり方を優先してしまうことから起こります。
他にも、自分の物以外の物の置き方などに対して、強いこだわりがある場合、「これは、ここにあるべき」という考えを他人に押し付けてしまい、トラブルになってしまうケースもあるでしょう。
ルーティンへのこだわり
アスペルガー症候群の方は、「朝、6時に起床、6時15分に歯磨き、6時25分に朝食」というように、分刻みの日常のルーティンを持っていることが多いです。
朝に予定がない日であっても、朝〇時に起きるというルーティンがあるため、休日でも同じ時間に起きてしまい、ゆっくり休めないことが発生してしまいます。
また、仕事では、見本となる効率的な手順があったとしても、ルーティンとなっている「自分なりの手順」をなかなか崩すことができず、結果的に時間が掛かってしまうケースがあります。
そして、たとえマニュアル通りの手順でやっていたとしても、一度覚えた手順に変更があった場合、そのまま変更前の手順にこだわってしまうこともあるでしょう。
このように、ルーティンに対してのこだわりが強いと、急な予定変更や残業依頼など、イレギュラーな出来事に直面した場合、パニックになったり、フリーズしたりしてしまいます。
物事の細部へのこだわり
アスペルガー症候群の方は、ホッチキスを留める位置や付箋の色、文字サイズやフォントなど、物事の細かい部分までこだわりがちです。
その影響から、仕事の時間配分が上手く出来ず、納期などに間に合わなくなってしまうことがあります。
一つの物事に対して集中したり気にかけたりすることは、仕事のクオリティが上がり、時としてメリットになるでしょう。しかし、スピードを求められる仕事や納期が迫っている場合には、大きなデメリットになってしまうこともあります。
優先順位に対してのこだわり
アスペルガー症候群の方は、優先順位をつけることが苦手です。
先にやるべき事でも、時間が掛かりそうなものは後回しにして、すぐに成果が出るものを優先してしまうことがあります。
例えば、仮に7月1日時点で、下記の2つの作業を、同時に依頼されたとします。
- 作業A(作業量:少ない 納期:7月31日)
- 作業B(作業量:多い 納期:7月20日)
この場合、通常なら、納期が短い作業Bから手を付けるべきです。
しかし、アスペルガー症候群の方は、作業量が少なくてすぐ出来そうな作業Aに飛びついてしまう傾向があります。
そして、作業Aを優先した結果、本来ならば作業Bから手を付ければ間に合ったところを、間に合わなくなってしまうといった事態に陥るのです。
このように、アスペルガー症候群の方は、すぐに成果が出るものを優先し、納期遅れなどのトラブルを起こしてしまうことがあります。
他にも、自分が興味のある仕事を優先してしまい、さまざまな人が関わっている仕事では、全体的な遅れに繋がってしまう可能性もあるでしょう。
五感の刺激が少ない環境へのこだわり
アスペルガー症候群の方の中には、ざわざわした環境や芳香剤や柔軟剤などの香りが強い職場、オフィスの明るい蛍光灯が苦手な方がいます。
アスペルガー症候群の特性の影響から、目や鼻、耳からなどの五感への強い刺激が苦手なため、そういった刺激が少ない環境にこだわりを持っている方も多いです。
「環境が整わないと仕事に集中できない」などの困りごとも出てくるでしょう。
なぜアスペルガー症候群の方はこだわりが強いのか?
上記で、アスペルガー症候群の方には、5つのこだわりがあることを紹介しました。
では、そのこだわりの原因には、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、アスペルガー症候群の方のこだわりが強い原因を5つ解説していきます。
- 不安が強い
- 規則性があるものを好む
- 特定のものに興味が強い
- 脳の報酬系機能が弱い
- 感覚過敏である
順にみていきましょう。
不安が強い
アスペルガー症候群の方のこだわりが強い主な原因として、「強い不安」があります。
アスペルガー症候群の方は、未来を想像することが苦手であるため、強い不安を感じやすいです。
そのため、自分のルーティンを作り、いつもと同じ行動することによって安心感を得ます。その行動が、結果的に強いこだわりへ繋がることになるのです。
特に、仕事をする上で、アスペルガー症候群の方がルーティンを変えられない理由を知っておくことは、事前にトラブルを防ぐことにも繋がるでしょう。
規則性があるものを好む
アスペルガー症候群の方は、規則性があるものを好む傾向があります。具体的には下記のようなものがあります。
- 数字
- 色
- 文字のフォント
- 図形
- 柄
規則性が崩れると、強いストレスを感じてしまうので、これが物事に細部までこだわることに繋がります。
その影響から、マニュアルや効率よりも、自分の中の規則性を求めた方法で物事を進めてしまい、仕事に支障が出てしまうことがあります。
特定のものに興味が強い
アスペルガー症候群の方は、自分の興味がある対象に対しては、時間も忘れてしまうほど、とことんこだわる傾向があります。
これも、細部へのこだわりの原因の一つです。
逆に、自分の関心が低いものに対しては、なかなか進んで行うことができません。仕事内容によっては、とてつもない成果を生み出すと同時に、大きなブレーキの要因にもなってしまうので、表裏一体の特性と言えるでしょう。
脳の報酬機能が弱い
アスペルガー症候群の方は、脳の報酬系機能という「満足感や達成感の快感に関わる神経系の脳機能」が弱い場合があります。
報酬系機能が弱いと、長期的な我慢によって得られる報酬よりも、すぐに得られる報酬に飛びついてしまうことがあります。
これが、優先順位をつけることが苦手な原因の一つです。
その結果、目先のことを優先してしまい、長期的に見なければならない仕事や優先順位を理解して行わなければならない仕事をする時に、トラブルの元になってしまいます。
感覚過敏である
アスペルガー症候群の方は、五感のいずれかが過剰に敏感な「感覚過敏」の場合があります。感覚過敏であることは、五感への刺激が少ない環境を探すこだわりの原因になります。
五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚)への刺激が強い環境の場合、感覚過敏である方は、ストレスを感じて作業に集中できず、仕事のパフォーマンスが下がってしまうことがあります。
そのため、聴覚が敏感な方は、静かな環境にこだわったり、視覚が敏感な方は、光が眩しくない環境にこだわったりするなど、仕事内容以外で気にかけなければならないことが増えてしまいます。
大人のアスペルガー症候群のこだわりと対処法6選
アスペルガー症候群の方のこだわりは、必ずしも全て悪いわけではありません。強いこだわりが適した場面で活かされれば、定形発達の方を超えるほどの活躍をすることも可能です。
ただ、強いこだわりが原因で発生する周りの方の悩みやストレスは、双方が気持ちよく仕事をしていくためにも、解消していく必要があります。
よって、アスペルガー症候群の方のこだわりに対して、対策を講じる必要があるでしょう。
ここでは、こだわりへの対処法を主に6選紹介していきます。
- 段階的にこだわりを変化させていく
- イレギュラーが起きた時の対処法をパターン別に決めておく
- こだわりを長所として活かす
- こだわりを認める
- 優先順位を決めて依頼する
- 五感刺激が少ない環境を整える
順にみていきましょう。
段階的にこだわりを変化させていく
アスペルガー症候群の方は不安が強いので、安心を求めて「こだわる」ことを選択します。この部分が、時として仕事をする上でトラブルを招く原因にもなりますが、まず、前提として、こだわりは特性なので、無くすことは難しいということを念頭に置いておきましょう。
よって、その人のこだわりを無くすのではなく、段階的にこだわりを変化させていく意識をもつことが大切になります。
例えば、自分のやり方ではなく、マニュアル通りのやり方の方が、多くの方に喜んでもらえて仕事の評価も高く、自身もやりがいを感じるという経験を積み重ねることができれば、少しずつでもこだわりが変化していくかもしれません。
最初から全てを変えると対応できなくなってしまう可能性があるので、しっかりと具体的な説明をしてメリットを分かってもらいながら、その人のこだわりと付き合っていきましょう。
イレギュラーが起きた時の対処法をパターン毎に決めておく
誰しも日常生活を送る中で、イレギュラーなトラブルが起きて、予定変更をしなければいけない場面があります。
しかし、ルーティンへのこだわりがあるアスペルガー症候群の方は、イレギュラーな事があると、パニックになったり、フリーズしたりしてしまいます。
それを防ぐためにも、あらかじめイレギュラーな場面を想定した対処法を準備しておくことをオススメします。
例えば、「Aの状況になったら、○○の行動をする」などというように、いくつかパターン別に決めておくと良いでしょう。
対処法自体を複数決めておけば、もし、イレギュラーなトラブルがあっても、アスペルガー症候群の方が対処しやすくなる可能性があります。
こだわりを長所として活かす
アスペルガー症候群の方は、こだわりが強いことで、規則正しく行動ができたり、ルールを忠実に守れたりします。
また、定形発達の方が飽きてしまうようなルーティンワークも飽きずにやり通し、周囲を驚かせることもあるでしょう。
そして、興味があることは、とことん追求して取り組むことも可能です。
このように、「アスペルガー症候群だからこその強いこだわり」を長所として上手く活かすことができれば、当事者と周りの方が抱えるストレスが減り、仕事を円滑に進めることも期待できます。いわゆる、「適材適所」です。
しかし、同じアスペルガー症候群の方でも、特性の度合いは人それぞれ異なります。
その人が何に対して興味が強いのか、また得意なこと、逆に何が苦手なのかを、しっかり見極めることが大切になります。
こだわりを認める
アスペルガー症候群の強いこだわりは、自分でコントロールできるものではありません。
この特性が理解されず、注意を受け続けてしまうと、場合によっては、強いストレスを感じ、心身の不調に繋がってしまうケースもあります。
よって、周囲の方は、アスペルガー症候群の方が「そうしないと不安」もしくは「そうしないとストレスを感じる」という理由で行っていることを理解することが大切になります。その結果、認識の違いから起こるトラブルを防ぐこともできます。
完全に理解できなくても、まずはさまざまな特性を知っていくことから始めていきましょう。
優先順位を決めて依頼する
アスペルガー症候群の方は、脳の報酬系機能が弱いという特性上、すぐに成果が出るものを優先してしまいがちです。
さらに、先にやるべき事でも、時間が掛かりそうなものや興味のないものは後回しにしてしまう傾向があります。
したがって、あらかじめ仕事を依頼をする時に、しっかりと優先順位を伝えておくと良いでしょう。
苦手なことを考える時間を少しでも無くすことで、アスペルガー症候群の方の負担を減らすことができます。さらに、曖昧な表現を使わずに、具体的な指示をすることで、仕事の見通しが分かりやすくなることも期待できます。
五感の刺激が少ない環境を整える
アスペルガー症候群の方は、五感のいずれかが過剰に敏感な感覚過敏を抱えている方が多いとされています。
その場合、例えば
- 聴覚過敏で触覚過敏ではない⇒イヤーマフなどの使用を許可をする
- 聴覚過敏で触覚過敏がある⇒静かな部屋で作業ができる環境を用意する
- 視覚過敏で触覚過敏ではない⇒サングラスなどの使用を許可をする
- 視覚過敏で触覚過敏がある⇒部屋の明るさを窓のブラインドで調節したり、調光が可能な照明器具に交換したりして、光の強さを調整する
などの対策方法を取ることができます。
感じ方は人それぞれなので、その人に合った対策を取ることがとても大切になります。集中してもらえる職場環境を目指していきましょう。
まとめ|アスペルガー症候群とこだわり
- アスペルガー症候群は強いこだわりをもっている方が多い。具体的には、自分のやり方やルーティンに対してのこだわり、仕事では物事の細部に対するこだわりなどがある。他にも、自分の興味のある仕事を優先したり、五感の刺激が少ない環境へのこだわりをもったりする方もいる。
- アスペルガー症候群の方がこだわりが強い原因は、特性上、不安が強いことや規則性があるものを好むことなどの理由がある。他にも、特定のものに興味が強かったり、脳の報酬系機能が弱かったりすることも挙げられる。また、感覚過敏であることも原因の一つ。
- アスペルガー症候群の方のこだわりへの対処法は、段階的にこだわりを変化させていったり、イレギュラーに対する対処法を数パターン決めておいたりするといい。その人のこだわりを認め、長所として活かすことも効果的。他にも、あらかじめ優先順位を提示することや、五感への刺激が少ない職場環境に整えることも大切。
以上、アスペルガー症候群の方のこだわりの具体例や原因、対処法について解説してきました。
同じ職場にアスペルガー症候群の方がいる方は、まずは、なぜこだわりが強いのかを理解し、場合に応じて、その人に合った対処法を実践していただけたらと思います。
適切な対処をすることで、一緒に働いている時に生まれる悩みやストレスが解消し、仕事の効率も上がる可能性があります。
この記事を読んで、少しでもあなたが円滑にお仕事を進められるよう祈っています。
大人のアスペルガー症候群【自閉スペクトラム症(ASD)】については、下記の記事でも詳しく解説しています。興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。