ADHDの特性を抱えて仕事をしている方の中には
「優先順位を決めて効率よく仕事を進められるようになりたい…」
「どうやったら、優先順位を決められるの?」
などと悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
また、複数の仕事を抱えている時に、どこから手をつけていいのかわからなくなり、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまったという経験はありませんか?
- 発達障害(特にADHD)だと優先順位をつけるのが苦手になる原因
- ADHDの方が仕事の優先順位をつける方法
- 優先順位をつけた後の仕事の進め方
- ADHDの方が優先順位をつけて仕事を進められるアプリ
について解説していきます。
この記事を少しでも役立てていただければ幸いです。
優先順位がつけられない原因は発達障害?
仕事中に関係ないことを考えたり、優先順位がつけられなかったりといったことから、仕事を進めることがに困難になっている場合、発達障害の影響を受けている可能性があります。
これらの困りごとは、発達障害の中でも特にADHD、いわゆる脳が多動なタイプの方に多くみられます。
他にも、ADHDは先を見通した行動をとることや、マルチタスクが苦手といった特性もあるため、優先順位を自身で意識して仕事に取り組むことが難しくなります。
なぜADHDは優先順位をつけることが苦手なのか?
では、ADHDだとなぜ優先順位をつけることが苦手になるのでしょうか?
ADHDとは、注意欠如・多動症(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)の略称です。
具体的には、注意し続けることができず作業にミスを生じやすいという「不注意」の特性と、落ち着きがない・待つことができないという「多動・衝動性」の特性があります。
このADHDの特性である、不注意や多動・衝動性により頭の中が混乱し、物事を整理して優先順位をつけ、作業を進めることを苦手としてしまうのです。
特性ごとの理由は下記のとおりです。
- 不注意の特性が強い場合
- 多動・衝動性の特性が強い場合
順に見ていきましょう。
不注意の特性が強い場合
不注意の特性が強い方は、長時間物事に集中できなかったり、注意を一つのことに向け続けることが難しかったりする傾向にあります。
よって、人の話を最後まで聞けずに気が散りやすく、オフィス内の人の往来や物音によって不注意になることもあるでしょう。また、何か業務をしているときに別の用事が入ると、それまでのことを忘れてしまい、ミスに繋がる場面も出てきます。
こうしたことが積み重なって、やらなければならないことが増えてしまい、優先順位を考えることが難しくなってしまうのです。
多動・衝動性の特性が強い場合
多動・衝動性の中でも、特に衝動性の特性が強い方は、「やらなくてはいけない」ことよりも自分の興味がある「やりたい」ことを優先してしまい、優先順位が崩れてしまうことがあります。
また、新しい仕事に気を取られたり、目についた仕事から手に付けてしまったりする傾向もあるため、仕事の優先順位に影響が出てしまうのです。
優先順位をつけられないと起こる仕事での困りごと
そもそも優先順位をつけずに仕事を進めると、どのような問題が起こるのでしょうか?
まず、正しく優先順位をつけられなかったり、優先順位そのものをつけていなかったりすると、納期遅れやトラブルの対応などに遅れが発生し、相手先からの信用を落とすことになるでしょう。
また、自分にとって取り組みやすい仕事ばかり先に着手してしまうことで、効率的に業務をすることが難しくなり、複数業務の同時進行で混乱してしまう可能性があります。その影響から、仕事全体のパフォーマンスが低下し、残業や業務過多になることもありえます。
他にも、周囲から「時間管理のできない人」と思われ注意を受けたり、納期に間に合わせるために他の人に手伝ってもらうことになったりして、仕事の達成感を得られず、自信を失うことに繋がってしまうでしょう。
仕事の優先順位をつける方法
上記では、ADHDの方が優先順位をつけることが苦手な理由を解説してきました。
仕事を効率的に進めていくためにも、優先順位をつけることは重要なスキルです。
では、どうすれば仕事の優先順位をつけられるようになるのでしょうか?
ここでは、実際のビジネスシーンで使われる仕事の優先順位のつけ方を、4つの順に紹介していきます。
- 抱えている仕事を洗い出す
- 緊急度と重要度を把握する
- 期限を決める
- スケジュールに落とし込む
抱えている仕事を洗い出す
まずは、抱えているすべての仕事をメモに書き出しましょう。
時間のかかる業務からちょっとした作業まで、思いつく限り書き出します。期限が決められている仕事の場合は、期限の日付もあわせて記入し、処理にかかるおおよその時間も書き込みましょう。
忘れている仕事がないか、メールやチャットも確認しておくことも大切です。
緊急度と重要度を把握する
次に、洗い出した仕事を4つに分類します。分類の仕方は「緊急度」と「重要度」という2つの軸を組み合わせたものです。
緊急度が高い | 緊急度が低い | |
---|---|---|
重要度が高い | 重要度・緊急度が共に高い | 重要度は高いが緊急度は低い |
重要度が低い | 重要度は低いが緊急度は高い | 重要度・緊急度が共に低い |
上図のようなマトリクスを使って仕事を分類し、下記のように優先順位をつけると良いでしょう。
- 重要度・緊急度が共に高い
- 重要度は高いが緊急度は低い
- 重要度は低いが緊急度は高い
- 重要度・緊急度が共に低い
順に解説します。
1. 重要度・緊急度が共に高い
まずは「重要度・緊急度が共に高い」仕事を最優先に取り掛かります。
例えば、締め切り間近の重要案件や、大口取引先のクレーム対応などがこれにあたるでしょう。
また、こういった仕事は難易度が高いことも多く、作業時間に余裕をもたせる必要があります。十分な時間を確保するためにも、しっかりと振り分けましょう。
2. 重要度は高いが緊急度は低い
緊急度と重要度では、重要度の高さを優先しましょう。
「重要度は高いが緊急度は低い」仕事は、一人で済ませることができる業務は少なく、他部門やチームでの連携が必要な仕事が多くなります。また、複雑な工程がある長期的な仕事のことも多いので、早めの対応が肝心です。
3. 重要度は低いが緊急度は高い
「緊急度は高いが重要度は低い業務」は、簡単なメール対応や重要でない電話があたるでしょう。
「緊急度が高いから早くやらなきゃ……」と気持ちが焦るかもしれませんが、他のメンバーに頼むなど、作業時間をかけないように処理します。焦りすぎないことが大切です。
4. 重要度・緊急度が共に低い
最も優先度が低い「緊急度・重要度が共に低い」業務は、デスク周りの整理整頓など、業績に直接影響のない作業が中心になるでしょう。
とはいえ放置しておくと業務効率が悪化することもあるので、スキマ時間を見計らってまとめて処理すると良いですね。「この業務は優先順位が低い」と視覚的に分かっていれば、優先順位を意図的に下げることもできるようになるかもしれません。
判断に迷ったら
優先度と緊急度の判断に迷った時は、上司などに相談して判断を仰ぎましょう。
独自の判断基準で優先順位を下げた結果、期限ギリギリになって周囲に迷惑をかけてしまう可能性があります。自分の判断基準では不安、わからないといった場合は、早めに相談することが大切です。
期限を決める
優先順位をつけただけでは、納期に間に合わない可能性があります。
それを防ぐためにも、優先順位の高い仕事から順番に期限を決め、納期に間に合うよう着手期限を定めておきましょう。
また、優先順位が低い仕事については、他の仕事の合間に入れられるよう、わかりやすくまとめておくと効果的です。
スケジュールに落とし込む
上記のようにして決めた仕事は、リスト化やタスク管理ツール等を使って、スケジュールとしてまとめましょう。スケジュールに落とし込むことで、現在やるべきことが次に把握できるため、業務を効率的にこなせるようになります。
また、突発的・新規の業務が入ったり、重要度や期限が変わったりする可能性もあるので、入れ替え可能にしておくことをオススメします。
複数人で作業を行っている場合は、まとめたスケジュールを全員で共有し、忘れないようにすることが大切です。
優先順位をつけた後の仕事の進め方
上記では、仕事の優先順位のつけ方を解説してきました。
しかし、優先順位を決めただけでは実行に移せるとは限りません。
ここでは、しっかりと実行に移せるように、優先順位をつけた後の仕事の進め方(考え方)について、4つ紹介していきます。具体的には、下記のとおりです。
- 制限時間を決める
- 完璧にやろうとしない
- 休憩を適宜とる
- 優先順位を随時見直す
順に見ていきましょう。
制限時間を決める
まずは制限時間を決めましょう。
一つの仕事だけを続けてしまうと、優先順位を決めた他の仕事に着手するのが遅くなり、限られた業務時間の中で消化しきれない可能性があります。
また、長時間一つの仕事を続けていると、集中力が切れて効率が落ちることもあるので、仕事ごとの制限期間や休憩のタイミングを決めておくと良いでしょう。
完璧にやろうとしない
次に、完璧にやろうとしないことも重要です。
あまりにも完璧を求めようとすると、かえって非効率になってしまうこともあります。質にこだわるあまり期限を越してしまったり、周囲に迷惑をかけてしまったりしては本末転倒です。
優先順位を付けなければならないほど仕事を抱えているということは、完成度よりもスピード感が求められているということです。手遅れになる前に周囲に相談しましょう。
適宜休憩をとる
時には休憩をとることも必要です。
集中し過ぎたり気が散ったりすると、最初に考えた優先順位を忘れてしまう可能性もあります。
それを防ぐためにも、適宜休憩をはさむことで、作業の振り返りをして、残りの時間でどこまで進められるか計画をし直すとよいでしょう。
また、適度な休憩時間をとることは、頭を休めて集中力を高めるだけでなく、周囲とのコミュニケーションで新たな情報を得ることにもつながります。根を詰めこみ過ぎないことが大切です。
優先順位を随時見直す
優先順位は、随時見直してアップデートすることが重要です。
新規の仕事が入ったり、状況が変わったりすることは日々あるものです。よって、朝一番にその日の優先順位を確認し、都度見直すルーティンをつくりましょう。『本日のToDoリスト』として書き出しておくと効果的です。
しかし、「優先すべきなのはわかっているが、どうしても実行することが苦手」という場合もあると思います。
そんなときは「とにかく今日はこの案件だけは片付けよう」と仕事を絞り込みましょう。また、慣れないうちは、周囲に相談することも大事です。一人で抱え込まないようにしましょう。
優先順位をつけたとおりに実行できるアプリを活用してみよう
ここまで、仕事の優先順位付けと進め方について見てきました。
しかし、ADHDの特性の影響から、どうしても気が散ってしまったり、優先順位を守れなかったりすることが起こるかもしれません。
優先順位を意識するには、手書きのメモやToDoリストでも問題ないのですが、パソコンやスマートフォンを使用した方が、より確実といえるでしょう。
ここでは、優先順位をつけることや守ることができる、パソコンやスマートフォンを利用した方法を順にご紹介します。
リマインダー・Googleカレンダー
リマインダーやGoogleカレンダーは、パソコンやスマートフォンに標準で搭載されている、無料で利用できるアプリです。
リマインダー機能では、仕事を時間ごとに区切って設定すると、画面にアラートが表示がされたり、音が鳴ったりします。これによって、仕事の抜け漏れを防ぐことができるでしょう。
Googleカレンダーもこれに似た機能があります。こちらも日時を区切って仕事の管理ができるのでオススメです。
発達障害の方に使いやすいよう設計された仕事用アプリ3選
それでも不安という方は、発達障害を抱える方が開発した、仕事管理アプリを使用してみるのもよいでしょう。ここでは代表的なアプリを3つご紹介します。
- AOZORA
- コンダクター
- タスクペディア
順に見ていきましょう。
AOZORA
AOZORAは、発達障害の専門医による監修を受けて開発されました。
このアプリでは、スケジュール管理、目標設定などを具体的かつ簡単に行うことが可能です。また、服薬管理もできるので、仕事中だけでなく生活全般で役立てられます。
目標設定に対するセルフチェック機能も付いており、自分の「できた」をチェックできるので、自己肯定感を高めることも期待できるでしょう。
iPhone、Androidで利用できます。
コンダクター
コンダクターは、発達障害の当事者から生まれたアイディアから開発されたアプリです。
このアプリは「今後の見通しをはっきりさせる」ことを重視しています。一日の仕事を時系列順に一覧でき、時間が進むごとに塗りつぶされていくようになっているので、残り時間の把握が可能です。
また、仕事を完了させるための条件がわかりやすくなるよう、仕事内に一つひとつ作業手順を設定でき、課題の達成感を得られる仕掛けになっています。
それぞれの作業はラベル分けすることもできるので、仕事だけでなく、プライベートも併せて管理できます。
iphone、Androidで利用できます。
タスクペディア
タスクペディアは、ADHDの当事者が編み出したタスク管理の手法を採用して、開発されました。
このアプリは、「頭の名の仕事を全て書き出す」「書き出した仕事を分解する」という操作を基本に考えられています。やることを管理・把握する感覚を養っていくことができるでしょう。
利用には登録が必要ですが、インターネットに接続されているパソコン・スマートフォンであればダウンロード不要で利用できます。
タスクペディア公式|社会福祉法人SHIP
使用上の注意
このように、仕事の管理にはさまざまなツールやアプリがありますが、注意していただきたいのは、その時その時で違うツールやアプリを使わないということです。
どこにメモしたか忘れてしまっては元も子もありませんので、使うツールは一つにしましょう。
また、仕事の管理をすると必然的にスケジュール管理も必要になってきます。
スケジュール管理については下記の記事で詳しく解説していますので、興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
まとめ|ADHDと優先順位づけ
- 発達障害の中でも、特にADHDの方が優先順位をつけることが苦手なのは、「不注意」「多動・衝動性」の特性により、本来向けるべき注意を続けられなくなったり、目についたタスクに気をとられてしまったりするため。
- 仕事の優先順位は、抱えている仕事を全て洗い出した上で、緊急性と重要度の高低をつけ、「①重要度・緊急度が共に高い⇒②重要度は高いが緊急度は低い⇒③重要度は低いが緊急度は高い⇒④重要度・緊急度が共に低い」の順番で進める。
- 優先順位は常にアップデートされるので、毎日確認し、制限時間を決めた上で仕事を進める。他にも、完璧にやろうとしないことや休憩を適宜とることを意識することも大切。
- 優先順位をつけた通りに仕事を進めるために、パソコンやスマートフォンの「リマインダー」機能をつかうと良い。そのほか発達障害の方が使いやすいよう設計された仕事管理アプリも存在するので、活用してみよう。
いかがだったでしょうか?
今回ご紹介した優先順位の付け方は、さまざまなビジネスシーンで活用されていますが、身に付けられるようになるまでには、トレーニングが必要になるでしょう。
特に、取り入れ始めた最初の頃は迷うことが多くなると思います。そんな時は、一人で抱え込まず、進んで周囲に相談することが大切です。何かしらのヒントをもらえるかもしれません。
優先順位をつけて、仕事を効率的に進められるように、この記事が少しでも参考になりましたら幸いです。