「ADHDの人はどうして電話が苦手なの?」
「電話対応でびくびくしないようになりたい…」
と日々思われている方も多いのではないでしょうか?
ADHDの方には、電話対応が極端に苦手で、怖いと思っている方もいらっしゃると思います。電話が苦手な理由が分からないままだと、対策も取れず、今後の仕事に支障が出てしまうこともあるでしょう。
仕事上、「電話」はなくてはならないツールです。電話対応がスムーズにできるようになれば、仕事の効率も上がるかもしれません。
- ADHDの方が電話対応が苦手な理由
- ADHDの方の電話に対する悩み・困りごと
- 電話対応を上達させるのための対策
- どうしてもできない場合の対応
について具体的に解説します。
電話対応の苦手克服につながるよう、参考になれば幸いです。
電話対応が苦手な方は多い?
最近、「電話対応が苦手な人が増えている」といったニュースを耳にした方もいらっしゃるのではないでしょうか?
電話対応が苦手だと思う方が多くなった理由として、「通信手段の変化による電話での会話経験の減少」が挙げられます。
かつて、主要な通信手段といえば家庭の固定電話でした。しかし、現在ではスマートフォンが普及し、SNSやメールといった文字でのコミュニケーションが主流となったことで、電話での会話経験が減り、苦手意識がつくようになってしまったのです。
また、日本の会社では、電話対応に「間違ってはいけない」「丁寧でなくてはいけない」といった高い要求があることも、電話を苦手とする方が増えている原因と考えられます。
このように、電話によるコミュニケーションが少なくなった現代では、電話番がうまくできず、頻繁にミスを起こす方も少なくありません。
具体的には、下記のようなミスがあります。
「相手の話していることが頭に入らない」
「予想外の発言によって思考が停止してしまう」
「適切な言葉が見つからず会話が中断する」
発達障害(特にADHD)の特性から、どれだけ気をつけていてもミスを頻発してしまい、極端に電話対応が苦手になってしまう場合もあります。
さらに、電話対応だけではなく、社会に出てから仕事をする上でさまざまな生き辛さを感じ、初めて「発達障害だった」と判明することも多くあります。
発達障害(ADHD)の方にとって電話が苦手な理由
ADHDには一般的に、「忘れ物や落とし物が多く、同じようなミスを繰り返す」「気が散りやすく、常に体を動かしていないと落ち着かない」といった特性があります。
他にも「マルチタスクやスケジュール管理が苦手」という特性があるのですが、この特性が電話対応に大きく関係します。
電話対応は
- 相手の要件を聞く
- 内容を把握する
- メモを取る
- 取り次ぐ
と、4つの作業を同時に行う「マルチタスク」が要求される仕事です。
よって、電話対応はADHDの方にとって、苦手を凝縮したようなものと言えるでしょう。
発達障害(ADHD)の方はなぜマルチタスクが苦手なの?
ではなぜ、ADHDの方はマルチタスクが苦手なのでしょうか?
それは「情報を一時的に記憶して処理する能力(ワーキングメモリ)」が弱いためです。
情報量が多かったり予測できなかったりする場合、頭の中でうまく処理することができません。
その影響で、「聞いた瞬間はちゃんと内容を理解しているにもかかわらず、次の瞬間には忘れてしまう」ということが頻繁に起こります。よって、電話口の相手から用件を聞くことができても、それを適切に処理することが難しくなってしまうのです。
発達障害の方がマルチタスクを難しいと感じる理由は、下記の記事でも詳しく解説しています。興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。
発達障害(ADHD)の方の電話に関する悩み・困りごと
ADHDの方が電話対応をするときの悩みや困りごとは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、メモに関することです。
具体的には、下記のようなものがあります。
- メモを取ることを忘れる
- メモをする瞬間に内容を忘れてしまう
- メモを取っても書いた字が読めない
- 相手の話にメモのスピードが追い付かない
2つ目は、会話の内容に関することです。
具体的には、下記のようなものがあります。
- 相手の声がよく聞き取れない
- 内容が理解できない
- とっさに次の言葉が出てこない
- 想定外のことを言われると対応できない
この他、「間違いをしそうで怖い」というプレッシャー、「相手の顔が見えない」ことからくる不安、「周囲の視線が気になる」といったことも悩みごととして挙げられます。
電話対応の悩みや困りごとは人それぞれ異なります。
次の項目では対策も併せて紹介していくので、ご自身に合った方法を探してみてください。少しでも改善する可能性があります。
発達障害(ADHD)でも電話対応できるようにするための対策
上記で、なぜ発達障害の方が電話対応が苦手なのかを解説してきました。
しかし、職場での電話対応は仕事につきものです。電話対応ができるようになると、大きく2つのメリットがあります。
1つ目はコミュニケーション能力の向上です。電話口で相手に良い印象を与えることは、社内外の人との関係に積極的な影響を与えます。これは、人脈づくりや組織全体の活性化を促します。
2つ目は自分の仕事に自信が持てることです。なぜなら、各作業・仕事がリンクしていることを認識できたり、「相手から感謝される」ようになることで、自分の仕事が役に立っていることがわかったりするからです。
では、電話対応の苦手さを克服するためには、どうしたら良いのでしょうか?
ここでは電話対応時の対策を主に4つ紹介していきます。
- マニュアルの作成
- 電話用メモの作成
- 練習
- リラックスをする
それぞれご紹介します。
マニュアルの作成
まずは、マニュアルを作成します。
内容は、電話対応でよく使う表現、よく聞かれる質問と返答をまとめたものが良いでしょう。先輩社員がいる場合は、アドバイスを求めたり、対応を模倣したりすることもオススメです。
そうして細かい確認事項や手順を記した「自分専用マニュアル」を作成し、パターン化して対応できるようにします。既存のマニュアルがあるのであれば、それを自分なりにアレンジしても良いですね。
うまくいかない時は、マニュアルをバージョンアップしていきましょう。改善をくり返していくことで、どんな時でも対応できるマニュアルが完成します。
ただし、最初から長大なマニュアルを作ることはおすすめしません。
まずは必要最小限の言葉と動作をまとめることから始めましょう。
例えば
「電話をつなぐ相手がいない時の返答は『ただいま席を外しております』で統一する」
「電話が鳴ったら、マニュアルを手元におき、ペンを持つ」
といったものです。取り入れやすいものから実践していきましょう。
電話用メモの作成
次に、完成したマニュアルをもとに、要点のみをまとめたメモを作成します。
マニュアルがあっても、ADHDの方にとって「聞きながらメモを取る」ことは難易度が高いものです。そのため、「相手の会社名・氏名・電話の宛先・用件」など、あらかじめ聞き取る内容を一つのフォーマットに用意しておきます。
何を聞けば良いのかあらかじめわかっていれば、そこを埋めていくだけなので、次を考える必要がなくなり、慌てることが少なくなります。
メモのフォーマットはインターネット上にも多く出回っていますが、自分が使いやすいフォーマットを作ると愛着も出て、より効果的です。
練習
完成したマニュアルとメモをもとに、練習をします。障がいの特性にもよりますが、ある程度回数をこなせば対応できるようになるでしょう。
ポイントは、声に出して練習することです。これによって「ゆっくり・はっきりしゃべる」ことが心掛けられるようになります。
また、職場の協力が必要ではありますが、実際に電話をかけて練習すると良いでしょう。そうすることで「電話が鳴る=電話対応する」という姿勢が身につきます。
リラックスをする
答えが出ない時や確認が必要な状況では「後でメールや再度の電話で対応する」と伝えて一旦切りましょう。焦らずリラックスすると、冷静で確実な回答が可能になります。
そして、少々の間違いは気にかけないようにしましょう。ミスを気にするより、相手の感情に配慮することや、誤りに気付いた際に反省する態度が重要です。「失敗を次に活かす」という前向きな心構えを持ちましょう。
また、周囲の方はさほど他人の電話内容を気にしていません。各自の仕事に専念しており、あなたの電話対応を監視しているわけでもないのです。
緊張からミスをしてしまう場合もあるので、リラックスした状態で電話対応ができるようになるといいですね。
どうしてもできなければ職場に合理的配慮を求める
障害者雇用においては「合理的配慮」を依頼することが権利として認められています。
合理的配慮とは、障がいのある方とそうでない方の機会や待遇を平等に確保し、支障となっている事情を改善、調整するための措置です。
ですので、先ほど挙げた対策を講じても、電話対応が難しいということであれば、
「マルチタスク業務には対処できないと自己開示する」
「定型の取次や内線のみ対応する」
といった申し出ができます。
それでも難しいということであれば、「電話を取らない」という選択肢もあります。電話対応が原因で仕事に支障が出るのならば、会社に配慮を依頼しても良いのです。
電話対応のない職場ってあるの?
障がい者向けの求人には「電話対応なし」と明確に記載されている企業もあるので、電話対応がない職場で働くという選択肢を選ぶこともできます。
いわゆる「クリエイティブ系の仕事」がそれにあたるでしょう。
スケジュール管理や事務仕事が必要とはなりますが、自分の業務に専念できる環境であることが多いです。よって、計算や書類作成の合間に打ち合わせや、電話応対が入ってくるなどのマルチタスクが生じる可能性は、比較的少ないといえます。
また高度なIT技術が必要とされる仕事では、電話対応業務は少ないでしょう。このような仕事の場合、電話対応よりもデータ入力・処理に徹してほしいと企業側が考えているためです。中には、情報のやり取りもチャットアプリ等で行われ、電話対応が一切ない企業もあります。
ただし、IT技術者の求人は人気があるので、具体的で高度なパソコンスキルが必要です。
まとめ|ADHDと仕事の電話
- 電話対応が苦手な方が多い理由は、「通信手段の変化による電話での会話経験の減少」の影響だと考えられる。
- ADHDの方は「マルチタスクが苦手」という特性があるので、同時に行う作業がある電話対応が苦手になりやすい。
- 電話対応ができるようになるための対策は、主に「マニュアルの作成・電話用メモの作成・練習」の3つがある。他にも、リラックスをすることを心がけると良い。
- どうしても難しければ、職場に対して「合理的配慮」を求めることができる。また、「電話対応なし」という職場も存在するので、仕事を探す際に意識してみるのもオススメ。
この記事ではADHDの方が電話対応を苦手とする原因と対処方法について解説してきました。
上記のポイントを実践していけば、電話対応の苦手克服につながるでしょう。
発達障害と仕事の関連については、下記の記事でも詳しく解説しています。興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。