「就労継続支援A型と就労移行支援、どちらを利用しようか迷っている……。」
「A型事業所での就労と障害者枠で働くことの違いは?」
就労継続支援A型事業所の利用を検討している方の中には、このような疑問がある方もいらっしゃるでしょう。
- A型事業所を利用しながら一般就労を目指すことはできるのか?
- A型事業所から一般就労した方の割合
- A型事業所と一般就労の違い
- A型事業所から一般就労するまでの道のり
などを解説します。
この記事が一般就労を目指すための一歩を踏み出すきっかけになればと思います。
A型事業所とは?
就労継続支援とは、障がい・難病などの働きづらさがある方を対象に、継続して就労支援を行う福祉サービスです。
就労継続支援には、雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金が保障された状態で働くA型事業所と、雇用契約を結ばないので自分のペースで働けますが、賃金(工賃)が安いB型事業所があります。
また、就労移行支援という就労に特化した支援もあり、企業などへの就職を希望する方に向けて、就職に必要な知識・スキルを学ぶための訓練や就職活動の支援を行っています。
どの福祉サービスも、障がい者手帳か通院している医師の診断書等があれば、利用できます。
A型事業所に通いながら一般就労を目指せる?
A型事業所に通いながら一般就労を目指すことは可能です。
詳しく見ていきましょう。
一般就労希望率と就職活動率
A型事業所を対象とした一般就労を希望する利用者数の調査では、一般就労を希望する方が1人以上と回答した事業所が83.9%、0人と回答した事業所が約16.1%でした。
一般就労希望率
83.9%0人
16.1%
しかし、同じ調査で就職活動を実際に行っている割合を調べた場合は、就職活動率0%の事業所が50.4%と約半数。次いで0~5%以内が12.2%、5~10%以内が18.4%となっており、就職活動率が1割以下の事業所がおよそ8割と、先ほどの一般就労希望率と比較すると、就職活動を行っている方の割合が低い事業所が多い傾向にあります。
就職活動率
50.4%~5%
12.2%
~10%
18.4%10%以上
20%
ただし、この調査では一般就労をいつまでに達成したいかが指定されておらず、A型事業所を利用する中で希望が変わっていく可能性もあるため、考慮する必要があります。
A型事業所の利用終了後、一般就労した方はどのくらいいる?
令和元~2年度の2年間で、A型事業所の利用を終了した方は、0人の事業所が44%、1人以上の事業所が56%となっています。また、利用を終了した方のうち、特に一般就労を理由とする方が0人の事業所が34.4%、1人以上の事業所が65.6%となっています。
「サービス利用者に占める一般就労への移行者数割合の推移」では、令和4年度時点で
となっています。
就労系障がい福祉サービスを使って一般就労した方のおよそ4分の1がA型事業所を利用したということです。
就労系福祉サービスから一般就労へ移行する方は年々増加していますが、全体の割合としては就労移行支援事業所からが一番多く、A型事業所、B型事業所と続く形になっています。
「利用終了者の状況について」より、A型事業所の利用を終了した方の26.2%は一般就労をしていることがわかります。その他、移行支援事業所の利用に切り替えた方、別のA型事業所に移った方、B型事業所の利用に変更された方、入院などで利用を終了せざるを得ない方など、状況は人それぞれです。
A型事業所から一般就労した方の割合
就労系障害福祉サービス事業所の利用終了者の状況について(令和元年度)を表にまとめました。
終了者数(人) | 就職※した方の割合(人数) | 利用者に占める終了者の割合 | |
---|---|---|---|
就労移行支援 | 24,282人 | 54.7%(13,288人) | 72.4% |
就労継続支援A型 | 16,693人 | 25.1%(4,185人) | 23.1% |
就労継続支援B型 | 33,749人 | 13.2%(4,446人) | 12.5% |
終了者数(人) | 就職※した方の割合(人数) | 利用者に占める終了者の割合 | |
---|---|---|---|
就労移行支援 | 24,282人 | 54.7%(13,288人) | 72.4% |
就労継続支援A型 | 16,693人 | 25.1%(4,185人) | 23.1% |
就労継続支援B型 | 33,749人 | 13.2%(4,446人) | 12.5% |
※A型・B型事業所を除く
となっています。
現在の全体的な障害者雇用の状況
就労系福祉サービスを利用して一般就労している方がある程度いることがわかりました。そもそも、現在の障がい者雇用はどのような状況なのでしょうか。
「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると、43.5人以上の規模がある企業では、法定雇用率が2.3%と定められており、法定雇用率に算定される民間企業に雇用されている障害者の数は642,178.0人となっています。前年の調査より28,220.0人増加しており、過去最高となっています。実雇用率は2.33%となっており、法定雇用率で定められている値には足りませんが近づきつつあります。
障がい種別の雇用率
一般就労している方を障害種別に分類すると、
身体障がい | 360,157.5人(前年比0.7%増) |
---|---|
知的障がい | 151,722.5人(前年比3.6%増) |
精神障がい | 130,298.0人(前年比18.7%増) |
と雇用率が前年より増加しています。特に、精神障がいのある方の伸び率が高いです。
また、障がい者の法定雇用率は今後も民間、公的機関ともに段階的に引き上げられる方針が示されているため、雇用される障がい者も増加していくことが予想されます。
A型事業所での就労と一般就労の違い
一般就労を目標としてA型事業所や就労移行支援などの就労支援を受ける方が多いですが、A型事業所での就労と一般就労との違いは何でしょうか。詳しく見ていきましょう。
A型事業所での就労
A型事業所での就労は、事業所と雇用契約を結び、働く場所の提供と支援を受けて働く、ということです。運営する団体は社会福祉法人やNPO法人、株式会社など、さまざまです。
基本的に障がいや難病など、働きづらさがある方が就労しているため、共に働く方は障がいなどに対して理解があります。 また、法律で管理者、生活指導員、職業指導員の常駐が定められているため、困りごとを相談できる体制が整えられています。
勤務時間は1日4~6時間、週3~5日の勤務が一般的ですが、フルタイムで働ける事業所もあります。事業所によって1日の勤務時間や日数などが異なるので、問い合わせや見学の際に確認しましょう。
給与は最低賃金以上と定められています。しかし、勤務時間が短いことが多いので、もらえる金額は低くなりやすい傾向にあります。 給与が低いからといってアルバイトなどとのダブルワークは原則できません。
- データ入力
- Web制作
- カフェ・レストランでの接客
- お菓子、食品の製造・販売
- 軽作業
- 農作業
上記のように、仕事内容は事業所によって違います。就職活動の際に働く企業を探すときと同じく、事業所によって仕事や環境などが違うので、やりたいことや自分に合うかなど、よく考えて事業所を選ぶ必要があります。
また、A型事業所で働く方の中には、一般就労を目指す方だけでなく、体調や環境などからA型事業所で働き続けることを選択する方もいます。
一般企業での就労
一般就労は官民問わず障がい者枠で働くことを指すことが多いです。また、特例子会社で働く場合も一般就労に含まれます。民間企業だけでなく、官公庁など公的機関でも障がい者枠が設けられているため、求人数は多く、職種・業種もA型事業所より幅広い傾向にあります。
必要な合理的配慮を受けながら、障がいのない方と一緒に働きます。 しかし、A型事業所のように理解がある方が常駐しているとは限りません。
勤務時間は企業や業種などによって異なりますが、週20~40時間程度の勤務が一般的です。 給与は雇用形態や働き方などで変わりますが、一般的な金額です。
雇用形態は契約社員やアルバイト・パートが多いですが、正社員雇用を行っている企業もあります。
仕事内容は、A型事業所と同じものもあれば、一般事務やエンジニア、営業職など、障がいのない方と同様の業務を行う場合もあります。
特例子会社という選択肢
一般就労を考えるうえで、障がい者枠で働く以外に、特例子会社で働くという選択肢もあります。
親会社の実雇用数に算入できる、障害者雇用に特別の配慮をした子会社。
令和4年6月1日時点で特例子会社認定を受けている企業は579社。
雇用されている障害者の数は43,857.0人となっている。
メリット
- 障がい者枠での就労よりA型事業所での就労に近く、障がいや難病など一般企業で働くことが難しい方に向けた環境整備や就業規則があるので、合理的配慮を受けながら働きやすい。
- 周囲で働く方も障がい・難病などがあるので、働きづらさを理解してもらいやすい。
デメリット
- 令和4年6月1日時点で岩手県を除く46都道府県に1社はあるが、A型事業所や一般企業の障害者枠と比較すると数が少ない。
- 利益に直接つながる業務がほとんどなく、親会社のサポート的業務を行う場合が多いため、給与は低い傾向にある。
障害者枠でも必要な合理的配慮を受けながら働けることに変わりはありません。
- フルリモート
すべて在宅で仕事ができる形式。 - サテライトオフィス
遠隔地での雇用でも通勤困難ではない方や、在宅勤務の環境を整えるのが難しい方などに対して、特例子会社のような配慮・環境を整えたオフィスに通勤してもらう形式。
などを取り入れている企業もあります。
しかし、共に働く方が障がいに対して理解があるか、制度や環境が十分整備されているか、というとそうとも限りません。
障がい者枠と特例子会社のどちらにしても、自分のことをよく理解し、働きたい企業についてよく調べ、自分の特性などに合う会社かをよく考えて選ぶ必要があります。
A型事業所から一般就労までの道のり
A型事業所から一般就労する道のりは大きく2つです。直接一般就労を目指す方法と、A型事業所で働くことに慣れた後、就労移行支援事業所に移り一般就労を目指す方法があります。
人によって経験やスキル、特性などが異なるため、どの方法がいい、と言い切ることはできません。
それぞれの流れとメリット・デメリットを見ていきましょう。
A型事業所から直接一般就労を目指す方法
まず、A型事業所から直接一般就労を目指す道のりをメリット、デメリットと共に説明していきます。
流れ
- A型事業所に入って働く感覚に慣れる
- A型事業所で働きながら就職活動を行う
- 面接などを受けて無理のない範囲で一般就労
メリット
- A型事業所に入ることで、働くことに慣れる練習ができる
- 給与をもらいながら就労に必要なスキルが身につけられる
デメリット
A型事業所では事業所と雇用契約を結び、生産活動を行います。
利用期間の制限はありません。一般就労に行くまでの期間も人それぞれです。そのため、自分のペースで働くことに心身を慣らしながら就職活動を行うことができます。
しかし、A型事業所での給与は最低賃金が保障されてはいますが、多くはないので、障がい年金の受給などを考える必要があります。
A型事業所は就労を行う場所なので、就職活動をしたい場合は勤務時間外に行います。事業所に説明すれば、面接などで休むことができる場合もあります。
働くことに慣れた後、就労移行支援事業所に移って一般就労を目指す方法
次に、A型事業所に入った後、就労移行支援事業所に移り、一般就労を目指す道のりを説明します。
流れ
- A型事業所で働く感覚に慣れる
- 就労移行支援事業所に移り、ビジネスマナーなど、就労や社会生活で必要なことを学ぶ
- 通所しながらハローワークなどを利用して就職活動を行う
- 面接などを受け、無理のない範囲で一般就労
※就労移行支援事業所によっては、就職後に就労定着支援を行っている事業所もあります。
メリット
- 就職活動に専念できるサポート体制が整えられている
- ビジネスマナーやPCスキル、自己分析など、就労や生活に必要なことを学びなおせる
デメリット
- 原則2年間の利用制限があるため、計画的に利用する必要がある
- A型事業所から就労移行支援事業所に移るには、手続きが必要なので手間がかかる
就労移行支援事業所では、働き方や就職活動についてなど、訓練をしながら就職活動を行うことができます。履歴書の添削や面接練習をしてもらうことも可能です。
場合によってはハローワークや見学・面接に行く際に、スタッフの方に付き添ってもらえることもあります。利用時間中に就職活動を行うことも可能です。
しかし、就労継続支援のような生産活動は行わないので、基本的に給与はありません。また、就労支援を受けている間は、アルバイトとの併用はできません。生活するためには、障害年金を受給する、貯金を使う、親に助けてもらうなどの対策が必要です。
1度に利用できる期間は原則2年間と定められているため、計画的に考えて利用する必要があります。
A型事業所が行うサポート
A型事業所では、雇用契約を結んで一定の支援がある環境で働くことができます。一般企業と変わらない業務が行える事業所も多く、今までの経験を活かしながら働くことが可能です。
最低賃金以上の賃金が保障されており、労働条件によっては各種社会保険に加入することもできます。
一般就労に向けた支援を積極的に実施している事業所においては、積極的に実施していない事業所と比較して一般就労する方が多い傾向にあります。
支援と一般就労|就労継続支援A型事業所における就労継続及び一般就労への移行支援の実態把握に関する調査研究
事業所によって、一般就労への移行が積極的に行われている事業所や、働き甲斐の充実を目指す事業所、収支改善・賃金向上を目指す事業所など、方針が異なります。
A型事業所の利用を検討する際は、見学などで方向性を知ったうえで選ぶといいでしょう。
A型事業所を利用する流れ
安定して通所するためには、仕事内容や事業所の雰囲気、方針が自分に合っているか、無理せず通える距離にあるかを考えて決めることが大切です。
事業所や利用者の方の雰囲気、作業内容、施設内の設備などを確認できるので、利用後のミスマッチを防ぐことができます。
見学時の印象などをメモしておくと、複数の事業所を見学した場合に事業所を決めるときの判断材料になります。
見学時の印象や必要な支援を受けられるかを考慮して事業所を決めたら、利用したい旨を事業所に伝えます。
A型事業所で就労するには面接を受ける必要があります。ハローワークで求人紹介を受けてから、指定された日時に面接へ行きましょう。
障害福祉サービスを利用するためには、市町村が発行する「障害福祉サービス受給者証」が必要です。これは、就労継続支援や就労移行支援などの福祉サービスを受けるための証明書です。利用する事業所との契約等で使用します。
利用する事業所が決まったらお住いの市町村にある障害福祉課に受給者証の申請を行います。発行されるまで、1ヶ月以上かかることがあります。
使用後は自宅で保管することになりますが、事業所の利用を終了する際にも使用するため、紛失しないように気をつけましょう。
指定された日時から勤務が始まります。
定期的に面談(アセスメント)が行われるため、利用者1人1人の目標に合わせた支援を受けることができます。
まとめ|A型事業所から一般就労を目指せるのか
- A型事業所に通いながら一般就労を目指すことは可能。事業所によって業務内容や力を入れていることが異なるため、自分が重視することと事業所の方針を考えて選ぶ必要がある。
- A型事業所での就労と障害者枠とでは勤務時間や給与、周囲の障がいに対する理解などが異なる。
- A型事業所に近い環境で一般就労するには、特例子会社で働くという方法がある。メリットとデメリットを比較して検討しよう。
- A型事業所から一般就労するには、「A型事業所で就労しながら就職活動を行い、直接一般就労を目指す方法」と「A型事業所で就労した後就労移行支援事業所に移り、必要な知識や支援を受けながら就職活動を行い、一般就労を目指す方法」の2つが考えられる。
人によって経験やスキル、知識量などが異なるので、どのような方法で一般就労を目指すのがいい、と言い切ることはできません。また、障がい福祉サービスを利用したからといって、必ず一般就労ができるわけではありませんが、自分に合う環境かをよく考えて選ぶことが重要です。
A型事業所が気になる、という方は見学だけでも可能なので、気軽に申し込んでみてください。
あなたが一歩踏み出した先に、よりよい未来が待っていることを願っています。