この記事を読んでいる方の中に、以下のような悩みを抱えている方はいらっしゃいますか?
「仕事を円滑にするためにも、うまく雑談できるようになりたい」
アスペルガー(現:ASD、自閉スペクトラム症)の方は、その特性によって雑談を苦手としていることが多いです。大人の場合は特に「職場での雑談」ができず、悩んでいる方も少なくないでしょう。
職場での雑談は業務の効率化にもつながるなど、とても重要な意味を持ちます。苦手な方も避けては通れないため、少しでもうまくコミュニケーションをとるための工夫を、一緒に考えていきましょう。
- アスペルガーの方が雑談を苦手とする原因
- 職場での雑談の重要性
- 職場での雑談を上手くする練習方法とコツ
- 雑談で失敗した時の対処法と防止策
- どうしても雑談できない時はどうすればよいか
以上について解説します。
アスペルガーの方はなぜ雑談が苦手?
アスペルガーの方が雑談を苦手とする理由には、「相手の気持ちや場の雰囲気を察するのが苦手」「強いこだわりにより、自分の興味のある話題しか話せない」という2つの特性が関係しています。
それぞれの特性について解説していきます。
相手の気持ちや場の雰囲気を察するのが苦手
アスペルガーの方は、「相手が嫌がるサインを出していても話し続けてしまう」「年上の人にも馴れ馴れしく話してしまう」など、相手の気持ちを考えて話すことが苦手な傾向があります。
その場の雰囲気を察することも苦手なので、空気の読めない発言をして浮いてしまうこともあります。
強いこだわりにより、自分の興味のある話題しか話せない
アスペルガーの方はこだわりが強く、興味の対象に偏りがあるケースが多いです。そのため、自分の興味のあることしか話したり聞いたりできず、雑談がうまく続かないことがあります。
このようなコミュニケーション上のすれ違いをたくさん経験した結果、雑談自体への苦手意識が強くなり、避けるようになってしまったアスペルガーの方も少なくはないでしょう。
職場で雑談する重要性とは?
アスペルガーの特性は、雑談を難しいものにしてしまうことがわかりました。こうした雑談が苦手な方の中には、「そもそも職場で雑談する必要ってあるの?」と思っている方もいるのではないでしょうか。
しかし、大人にとっても雑談は重要です。職場で雑談することで次のようなメリットが得られるからです。
業務の効率化に繋がる
雑談には、「報告・連絡・相談」など業務をする上でのコミュニケーションを円滑にする効果があります。
普段から上司や同僚と雑談していると、お互いにどんな人間かを知ることができるので心理的な壁がなくなり、話しかけやすくなります。普段から雑談をする関係なら、業務で何か困ったことがあってもすぐに相談できるようになり、業務の効率化につながるでしょう。
また、業務とは関係ない雑談の中から新たなアイデアが生まれ、仕事の問題解決につながるケースもあります。
ストレス発散やリフレッシュになる
雑談をしている時は、仕事やプライベートの悩み、愚痴を話題にすることもあります。小さな悩みごとでも、誰かに話すことでストレス発散になります。結果として、仕事へのモチベーション向上や離職率低下につながるでしょう。
さらに、仕事中に集中力が落ちてしまった時の気分転換にもなります。
コミュニケーションスキルが身につく
普段から雑談をしていると、自然とコミュニケーションスキルを向上させることができます。
自分の思っていることを言語化する能力や相手の話を聞いて理解する能力は、働いていく上でも非常に重要になります。無意識にこうした練習ができることも、大きなメリットと言えるでしょう。
アスペルガーの大人が雑談するための練習方法
上記のように、雑談は仕事においても重要な意味を持ちます。
しかし雑談を困難にする特性を持つアスペルガーの方が、いきなりうまく会話を回していくことはできません。練習をして少しずつ慣らしていく必要があるでしょう。
ここでは、アスペルガーの大人におすすめの練習方法を紹介していきます。
まずは自己理解を深める
雑談が苦手なアスペルガーの方は、まず自己理解を深めましょう。自己理解を深めれば、「自分は雑談の何が苦手なのか(話すこと、聞くことなど)」が分かるので対策がしやすいです。
自己理解を深めるには、自分を客観視する必要があります。それが難しいという方は、親しい家族や友人から、普段の自分の話し方や行動について「どんな特徴があるか」や「直した方がいいことはあるか」などを聞いてみると良いでしょう。
トレーニングを行う
自己理解を深めたら、次はトレーニングをしていきましょう。アスペルガーの大人におすすめのトレーニングとして、「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」というものがあります。ソーシャルスキルとは「相手の気持ちや状況を尊重しながら、自分の気持ちや状況を上手く伝える能力」のことで、職場でのコミュニケーションにおいても非常に重要です。
SSTでは、ゲームやディスカッション、ロールプレイなどのグループワークを通して、実践的な訓練を行います。あらかじめ会話の内容やルールが定められるため、あいまいさが苦手なアスペルガーの方でも安心して取り組むことができるでしょう。何度も同じ設定で練習することで、雑談に対する不安も解消できるはずです。
SSTは子供から社会人まで全ての人を対象としており、大人のアスペルガーの方も受けることができます。料金は場所によって異なりますが、民間では1回およそ5,000~10,000円です。なお、障がいがある方は無料で受けられる場合もあります。
SSTは次のような施設で行われているため、気になった方は問い合わせてみましょう。
それぞれ詳しく解説している記事がありますので、あわせて読むことをオススメします。
アスペルガーの大人が職場でうまく雑談する3つのコツ
自己理解を深め、トレーニングができたら次は実際の職場で雑談をしていきましょう。ここでは、実際の職場で使用できる雑談のコツを紹介していきます。
ただし、アスペルガーの特性にも個人差があるため、ここで紹介するコツがすべての方に向いている訳ではありません。自分に合っていて実践しやすい方法を探していきましょう。
一問二答を心がける
雑談を続けるコツとして、「一問二答を心がける」ことが挙げられます。相手が振ってきた一つの話題に対して、必ず二つ以上の答えを返すように意識してみましょう。逆に、相手の話題に対して一つしか答えない「一問一答」をすると、話が広がらないので雑談がすぐ終わってしまいます。
具体的な会話の例を見ていきましょう。
続かない雑談
自分:「はい、慣れました。」
上司:「……」
続く雑談
自分:「はい、だいぶ慣れました。でもまだ分からないこともあるので教えていただいてもいいですか?」
上司:「いいよ。どこが分からないの?」
自分:「ありがとうございます。この部分なんですけど……」
上記の例では、聞かれた一つのことに対して「はい」か「いいえ」で答え、さらに相手に質問して返すことで会話を1ターン増やすことができています。さらに、仕事について聞くことで上司が答えやすい内容になっています。相手が答えやすい内容を意識すると、より話が広がるでしょう。
もうひとつ、別の会話例も紹介します。
続かない雑談
自分:「そうですね。」
同僚:「……」
続く雑談
自分:「そうですね。寒すぎて朝起きるのが大変でした。」
同僚:「分かります。私も、寒いとなかなかベッドから出られません。」
自分:「ですよね~、朝パッと起きられる方法とかないですかねぇ」
同僚:「そうですね~、そういえばこの前テレビでやってた方法なんですけど……」
こちらの例では、相手の話したことにまず共感して、次に話題をこちらから提示しています。「共感→話題の提示→共感→話題の提示……」と繰り返すことで話を広げることができます。
このように、普段から「一問一答」ではなく「一問二答」を意識すると会話が続きやすくなるでしょう。ただし、この方法は相手に対して「共感すること」「興味をもつこと」が必要になるため、アスペルガーの方には難しい可能性もあります。
そんな方は、次の項目で紹介する方法も試してみましょう。
テンプレ化する
人に共感することや興味を持つことが難しいアスペルガーの方には、「テンプレ化」がオススメです。「Aと言われたらBで返す」というように、雑談をテンプレ化してしまいましょう。
会話をテンプレ化するために、まず雑談を分類してみます。
主な雑談のネタには、「木戸に立ち掛けし衣食住」というゴロ合わせがあります。
ド・・・道楽(趣味)
ニ・・・ニュース
タ・・・旅
チ・・・知人
カ・・・家族
ケ・・・健康
シ・・・仕事
衣・・・ファッション
食・・・グルメ
住・・・住まい、暮らし、家
職場で話される雑談は主にこの中のどれかだと思います。この中でも「キ・ド・ニ・タ・シ・住」の6つは初心者でも話しやすい話題です。
例えば「旅」なら、
自分:「へーいいですね!どこか観てまわったんですか?」「食事はどうでしたか?」「どうやって行ったんですか?」
など、あらかじめいくつか答えを持っておくと雑談が続きやすいので便利です。
興味がない話題でも機械的にテンプレ通りの対応をしていけば、アスペルガーの人も雑談を続けることが可能です。
聞き上手になる
アスペルガーの方には、自分が話すよりも相手に楽しく話してもらう「聞き上手」になることもオススメです。
たいていの人は自分の話を聞いてもらいたいという欲求が強いです。そのため、相手に楽しく話してもらうことで「この人は話を聞いてくれる」と好感を持ってもらえるでしょう。相手に楽しく話してもらうには、まず相手の好きなことについて聞くのがおすすめです。趣味や好きな映画、本など好きなことについては誰でも話しやすいでしょう。
ただ、お互いに興味のある話題なら雑談は続きますが、自分が全く知らない分野では雑談は続きません。特にアスペルガーの方にとっては、興味がない話を聞くのはかなり苦痛になるでしょう。
しかし、興味がないからといって雑談をやめてしまうのはもったいないです。例えば相手が「最近は釣りにハマってるんだ」と興味のない話題を振ってきた際は、「釣りってどんなところが楽しいんですか?今は何が釣れるんですか?」などと詳しく質問してみましょう。
知らないジャンルについて詳しく聞くことで、新たな発見ができるかもしれません。
アスペルガーの大人が雑談で失敗した時の対応と防止策
アスペルガーの方が雑談に参加する中で、自分の頭の中では上手くいっていたのに、実際やってみると失敗してしまうこともあるでしょう。自分の発言で相手がどんな反応をするか予想するのはとても難しいことです。
そんな時の対応と、できるだけ失敗を減らすための対策について紹介します。
失言をしてしまった、しゃべり過ぎてしまったなどの失敗をしたら
雑談をしていて「空気の読めない発言をした」「しゃべり過ぎた」など失敗したことに自分で気づいた、もしくは相手に指摘されたときは、素直に自分の非を認めて謝りましょう。
失言などは誰にでもあることです。「ごめんなさい、今の発言は失言でした」「ごめんなさい、話し過ぎてしまいました」などときちんと謝れば、相手も不快な思いはしないでしょう。
大切なのは、「失敗から何を学ぶか」です。何がダメだったか、きちんと分析して次に活かしましょう。
雑談で失敗しないためには
アスペルガーの方が雑談で失敗しないためには、以下のことに気をつけましょう。
相手の伝えたいことを正確に受け取る
雑談では、主語や前提部分が省かれること、言葉のニュアンスが分かりづらいことも多いので、アスペルガーの方の中には混乱してしまった経験がある人もいるでしょう。
「主語はだれか」「何の話か」「具体的にどういう意味なのか」など分からないことがあればすぐに確認しましょう。
話の途中で逐一聞くのは相手に失礼かもしれませんが、正確に受け取ろうとする態度が伝われば、相手もきちんと教えてくれます。自分の勘違いで失言をするリスクも減らせるでしょう。
雑談するときは先入観を捨てる
アスペルガーの方の中には「これはこうであるはずだ」と決めつけて雑談をする人もいます。
自分の中に先入観を持ってしまうと、相手の話を理解できなくなります。先入観を捨てて、相手ときちんと向き合いましょう。
一方的に話さない
アスペルガーの方は自分の興味のある話題だと、相手の話を聞かずに話し過ぎてしまいがちです。
自分が発言したら次は相手に話を振って、話題から一歩引くようにしましょう。
職場に適さない話題は避ける
以下の話題は興味があったとしても、職場では話題にしない方がいいでしょう。
自分からしないのはもちろん、相手から振られても話題を変えるなどして避けるようにしましょう。
アドバイス・批判はしない
雑談をしていて、相手が悩みを相談してくることもあります。そのとき、たいていの相手はアドバイスよりも共感を求めています。自分と考えが違うと批判したい気持ちになることもありますが、とにかくまずは「大変だったね」と共感するようにしましょう。
「けど」「でも」「いや、それは」などの否定的なあいづちも、日頃からあまり使わないようにしましょう。
どうしても雑談ができないときはどうすればいい?
どうしても雑談が出来ない方は、周囲にあらかじめ雑談が苦手なことを伝えておきましょう。
はっきり発達障害だと伝えなくてもいいでしょう。発達障害ではなくても雑談が苦手な人はたくさんいます。自分が話せる話題を提示しておけば、たまたまその話題が出た時に話を振ってもらえるかもしれません。
あらかじめ周囲に伝えておけば、雑談が出来ないことへの後ろめたさも解消し、周囲の人からも理解ある行動をしてもらえるでしょう。特性なので、無理に治さなくても大丈夫です。「そのままの自分でいい」と開き直ることが大切です。
アスペルガーの方にとって興味の無い話題について雑談することはとてもストレスになるはずです。無理をして雑談するより、周りに理解してもらった方が人間関係は良くなるでしょう。
まとめ
- アスペルガーの方は「場の空気を察することが苦手」「相手の気持ちに共感できない」といった特性から、雑談を苦手としていることが多い
- 職場での雑談は「業務が効率化する」「ストレス発散になる」などのメリットがあり、大人にとっても重要
- 雑談が苦手なアスペルガーの大人には、自分の特性に対する理解を深めることや、SSTなどを利用した練習に取り組むがことがオススメ
- アスペルガーの大人が職場でうまく雑談するには、「一問二答」「テンプレ化する」「聞き上手になる」の3点を意識するとよい
- どうしても雑談できない時は、無理をせずに周りに雑談が苦手なことを伝え、配慮してもらうことが大切
雑談は、発達障害の有無に関わらず得意な人はあまりいないでしょう。アスペルガーの方も少しずつ雑談について勉強すれば、達人にはなれなくても、ある程度はできるようになるはずです。
あまり気負いすぎず、楽しむ気持ちで自分らしく雑談していきましょう。