発達障害「グレーゾーン」とは、心療内科や精神科で検査を受けた結果、発達障害の確定診断はされなかったものの、部分的にその傾向がある方のことをいいます。
グレーゾーンだからといって症状が軽いわけではなく、中には日常生活や仕事に支障をきたしてしまうほど重い特性に悩まされている方もいます。
特に仕事においては、障がいとして扱われないため周囲に理解されづらく、「働きづらい」と感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
この記事を読んでいる方の中にも、
「グレーゾーンでも利用できる支援制度ってあるのかな?」
といった悩みを持っている方は多いと思います。
発達障害グレーゾーンの方の生きづらさは、得意・不得意の自己分析を行い対策することで改善できます。また、グレーゾーンの方でも利用できる支援制度はあります。それらを活用することで、自分に合った働きやすい環境を見つけられるでしょう。
- 発達障害グレーゾーンの方が生きづらさを感じる理由
- 発達障害グレーゾーンの方の生きづらさを改善する方法
- 発達障害グレーゾーンの方が利用できる支援制度
について解説していきます。
発達障害グレーゾーンの方が「生きづらい」と感じる理由
グレーゾーンの方は発達障害の確定診断がされていないため、社会的には「健常者」とみなされます。しかし日常生活や仕事面に支障がないわけではなく、多くの困り事や生きづらさがあります。
グレーゾーンの方が「生きづらい」と感じる理由について、詳しく見ていきましょう。
手帳が必要な福祉サービスを受けられない
障害者手帳は、医師から確定診断を受けると申請することができます。取得すると障害者雇用枠での就労が可能になるほか、医療費の助成や税金の控除などさまざまな福祉サービスが利用できます。
しかし、発達障害グレーゾーンの方は障害者手帳を申請できないため、上記のような福祉サービスを利用することができません。発達障害の方と同じ悩み事や生きづらさを感じていても、確定診断が無いと利用できない支援が多くあるのが現状です。
後述しますが、中には障害者手帳を必要としない支援サービスもあります。発達障害グレーゾーンの方は、そちらを活用していきましょう。
発達障害グレーゾーンと障害者手帳についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
周囲に辛さが理解されづらい
発達障害グレーゾーンの方の特性は、医学的に「障がい」として証明できないため、困り事や辛さを周囲に説明することがとても困難です。
障がいという「見える化」ができないグレーゾーンの方は、同僚や上司に自分の困り事を理解してもらえないことがあります。ときには「本人の努力不足」と誤解されてしまうケースもあるでしょう。そのため周囲から誤解されることを恐れ、発達障害の傾向があることを隠して働く「クローズ就労」をする方も多いです。
クローズ就労をした場合は、ひとりで苦悩を抱え込むことになります。周囲からの適切な配慮が受けられないため、職場に居づらくなってしまう可能性があります。
グレーゾーンの方は社会から助けを求めづらい環境にいるのです。
仕事に支障をきたしやすい
グレーゾーンの方は基本的に一般雇用で就労する必要があるため、特性への配慮や支援がされづらい環境の中にいます。仕事内容は普通の人と同じなので、自分の特性と相性の悪い業務を任されてしまうこともあるでしょう。
発達障害の特性によるミスがあった際、周囲からは「ただの怠慢」「やる気がない」とみなされて悪い評価をされてしまい、信用が落ちてしまいます。
当の本人も、
「何度も注意されているのに同じ失敗を繰り返してしまう」
とひどく自己嫌悪に陥ります。
ボロボロの精神状態で仕事をするため、余計にミスを繰り返してしまい周りからの評価はどんどん下がる……。こういった悪循環によりグレーゾーンの方は過度なストレスを受け、うつ病や不安障害などの「二次障害」を引き起こしてしまうこともあります。
発達障害グレーゾーンの方の生きづらさを改善する方法
上記のように、発達障害グレーゾーンの方は過酷な環境の中で生きていくことを強いられています。
この項目では、そんな「生きづらさ」を少しでも改善していく方法を紹介していきます。
自分の得意不得意を分析し、長所を活かしていく
発達障害の特性は、すべてが仕事上のマイナスにつながるとは限りません。
例えば、ADHDの傾向がある人は興味関心がある分野であれば集中力を保ちやすいとされ、ASDの傾向がある人は正確性を求められる作業を得意としていることが多いです。
発達障害の傾向の強さや種類は人によってバラバラです。そのためグレーゾーンの方は、まず自分の得意・不得意を自己分析することがオススメです。自分のできることや苦手なことを把握すると、長所を活かし、苦手なことに対して改善策がとれるようになります。
苦手なことに対して改善策を打つ
自分の苦手なことが判明したら、その対応策を考えていきましょう。自身の特性や困りごとに合わせた対策をとることで、働きづらさを改善していくことができます。
傾向がある障がいに応じた対策の一例として、以下が挙げられます。
ADHD傾向がある方
⇒ カフェインやブドウ糖を摂取する、集中の妨げとなる物を机の上に置かないようにする
・指示や期日をよく忘れる場合
⇒ メモを必ず取るようにする、ToDoリストを見える所に作成する
ASD傾向がある方
⇒ 日時や場所など詳しい内容まで指示してもらえるようにお願いする
・些細な音に敏感である場合
⇒ ノイズキャンセリング機能を搭載したイヤホンを使用する
発達障害の特性は先天的なものであり、意識や努力だけではどうにもならないことがあります。そういった場合はスマートフォンやイヤホンなどのツールを駆使して、障がいの特性をカバーしていくことが大事です。
今の環境を変える
「この職場は居心地が悪いな」
と感じた場合は、環境を変えるのも一つの手です。
発達障害グレーゾーンの方は、その特性により相性が悪い業務がどうしてもあります。苦手な業務を無理にこなしていくよりも、自分が得意とする業務に携わることでストレスを感じにくくなり、作業効率も上がるでしょう。
自分の特性を理解し、支援してくれるような会社に勤めれば精神的余裕も生まれ、能力を発揮しやすくなります。
しかし転職活動は心身ともに負担が大きく、
「私の特性に配慮してくれる会社なんて本当にあるのかな?」
とためらってしまう人も多いと思います。
そこで次章からは「グレーゾーンの方が利用できる就労支援制度や施設」を紹介していきます。
発達障害グレーゾーンの方も利用できる就労支援制度
就労支援とは、就職前のトレーニングから就職後の相談対応まで、就職に関する一貫したサポートを受けられる制度のことです。
障害者手帳を持っていなくても利用できる支援機関には、以下があります。
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 地域若者サポートステーション
- 障害者就業・支援センター
- ダイバーシティ就労
発達障害グレーゾーンの方はこれらの支援を利用することで、自分の特性に合った仕事や、配慮の行き届いた会社を見つけられるでしょう。
順に解説していきます。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、就職前のトレーニングから就職後の相談まで一貫したサポートが受けられる施設です。
基本的には障害者手帳や難病のある方のみ利用可能ですが、グレーゾーンの方もお住まいの自治体から「障害福祉サービス受給者証」の交付を受けられれば、支援を利用できる場合があります。
就労移行支援事業所についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは「職業リハビリテーション」という職業訓練を行うことができます。
訓練では自分の得意・不得意を見つけ、自分のスキルに合わせた就職ができるようにトレーニングをしていきます。障害者手帳の有無に関わらず、支援を必要とする人なら誰でも利用することが可能です。
地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーション(サポステ)とは、働くことに困難がある方に向けた就労支援を行う機関です。
サポステでは自己理解を深めるための相談対応や、不得意なこと・困りごとに応じた専門機関の紹介といった支援が受けられます。
就業、就学中ではない15歳から49歳の方が対象となり、障がいや手帳の有無に関わりなく利用できます。
障害者就業・支援センター
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)では、職業訓練機関の紹介や、企業への職場実習の斡旋といった支援が受けられます。
仕事面だけではなく、生活習慣や健康管理など生活面でのサポートも行っています。
原則は15歳から65歳未満の、障害者手帳を取得している方や申請中の方が対象ですが、手帳を持っていなくても医師の診断書があれば利用の対象となる可能性があります。
ダイバーシティ就労支援
ダイバーシティ就労支援とは、発達障害グレーゾーンの方やひきこもり、子育て中の方など障害福祉サービスの枠組みから外れていた「働きたくても働けない」人たちに焦点をあてた、新しい就労支援制度です。そのため、障害者手帳や障害福祉サービス受給証を「所持していない人」が対象となっています。
ダイバーシティ就労支援を利用すると、職業訓練や職場実習、就職活動サポートなど働き続ける力をつけるための支援を無料で受けることができます。
現在、岐阜県岐阜市、愛知県豊田市、千葉県、福岡県の一部地域でモデル実証実験が行われており、ダイバーシティ就労支援を行う地域は今後増える可能性があります。
ぎふ就労支援センターも就労支援拠点として参加しています。さまざまな理由で働きづらさを感じている方々がリモートワークを活用し、週5日の1日2.5時間から自分に合った働き方をスタートさせています。
まとめ|発達障害「グレーゾーン」の生きづらさを解消するには
- 発達障害グレーゾーンは症状が軽いとは限らず、日常生活や仕事に支障をきたしてしまうパターンもある。
- グレーゾーンの方は社会的に「健常者」として扱われ、特性への理解や配慮がない中で働かなければいけないため、「生きづらい」と感じやすい。
- 生きづらさを解消するには、自分の得意・不得意を把握し、改善策をとることが大事。仕事が合わないと感じたら、環境を変えるという手段もある。
- グレーゾーンの方も利用できる就労支援がある。グレーゾーンやひきこもりといった「働きづらさを感じている人」を対象とした「ダイバーシティ就労支援」も始まった。
以上、発達障害グレーゾーンの方が「生きづらい」と感じる理由やその対策、利用できる支援制度について紹介しました。
最近は、発達障害グレーゾーンの方でも利用できる就労支援や相談場所も増えてきました。「しんどいな」と感じた時、一人で悩まず相談してみませんか?
あなたの生きづらさが少しでも解消されることを祈っています。