統合失調症の症状や特性により、仕事に対して
「業務や人間関係が上手くいかずに辛い。辞めたい…」
のような悩みを持っていませんか?
- 統合失調症の症状や特性
- 統合失調症になると仕事が続かない原因
- 統合失調症の症状と上手く付き合いながら働き続けるための工夫
- 統合失調症の方が利用できる制度
について解説していきます。
統合失調症の症状と特性
統合失調症とは自分の思考や感情をまとめることが出来なくなり、幻覚や妄想などの症状が出る精神疾患のひとつです。約100人に1人が発症しており、治療を継続することにより症状をやわらげ、回復することもできます。
発症の原因は、はっきりとは分かっていません。遺伝的なものという説もありますが、大きなストレスが引き金となったり、元々の性質やストレス耐性の低さ・体調不良などが重なることによって発症するとも言われています。
統合失調症の症状は主に「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つに分けられます。
陽性症状
陽性症状では、「妄想」「幻覚・幻聴」「思考障害」などの症状が現れます。間違った内容を真実だと思い込み、周囲に訂正されてもなかなか受け入れられなくなります。
例えば、「嫌がらせを受けている」「盗聴されている」など実際には起きていないことを事実であると確信していたり、他人には認識できない悪口が聞こえたり、見えないはずのものが見え、それを現実として受け止めてしまったりします。
また、考えに一貫性がなくなり、言葉や行動がまとまらなくなるケースもあります。
陰性症状
陰性症状では「感情表現が乏しくなる」「意欲の低下」「自閉(引きこもり)」などの症状が現れます。喜怒哀楽を示さなくなり、他人に共感をすることが少なくなります。
意欲が低下して興味や関心があったことにも取り組まなくなる、自分の世界に閉じこもって人付き合いを避けるような動向が見られることもあります。
認知機能障害
認知機能障害では「記憶力」「注意・集中力」「判断力」が低下します。物事を覚えるのに時間がかかるようになり、目の前の物事に集中できなくなります。
また、優先順位をつけて計画を立てることが難しくなります。
※本記事で挙げている症状は一例です。また、ここで挙げた症状があるからといって統合失調症だとは限りません。気になる場合は心療内科・精神科の受診をおすすめします。
統合失調症になると仕事が続けられなくなる原因
統合失調症があると仕事が続けられなくなる具体的な原因として、どのようなものがあるのか、見ていきましょう。
疲れやすい
統合失調症の方は思考や感情をまとめられなくなる症状によって、日常生活を送るだけでも体力を消耗しやすく、疲れやすくなります。
また、緊張や不安を感じやすい傾向があるため、疲弊しやすいです。慣れない環境や業務で緊張が続くと睡眠が不安定になり、体力のなさや精神的な辛さから早退や遅刻・欠勤をしてしまうなど、勤務に影響が出ることもあります。
ほかにも、療養後に仕事へ復帰した場合、基礎体力の低下によって、以前と同じように業務に取り組めなくなる場合があります。そのギャップによって焦りや落胆を感じてしまうこともあります。
やる気がないと誤解される
統合失調症の方は、症状の一つである陰性症状の「意欲の低下」により、周囲からやる気がないと誤解されやすいです。
また、認知機能障害により、仕事をする上で必要な「記憶力」「注意・集中力」「判断力」が低下しているため、業務内容を覚えるのに時間がかかったり、すぐに集中力が無くなって仕事が進まなかったりします。
本人としては仕事に精一杯取り組んでいるとしても、周囲から理解されないために会社からの評価や人間関係に影響が出てしまうことがあります。
周囲が気になり集中できない
統合失調症のある方は光や音への感覚が敏感な場合が多く、職場環境が合わないと仕事に集中できなくなってしまいます。
さらに、統合失調症の陽性症状である「幻覚・幻聴」により、職場の人に悪口を言われている、監視されているなどと思い込み、時としてその妄想が「絶対そうに違いない」との確信に変わってしまうことで現実の人間関係を壊してしまう場合があります。
統合失調症の方が仕事を続けるための工夫
それでは、統合失調症の方が就職して、仕事を続けていくためには、どのような対策をすれば良いのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
症状を理解する
まずは、疲れやすい、緊張しやすいなど、自分自身の症状を理解すること、幻聴や妄想などの陽性症状が出る予兆を把握しておくことが大切です。
自分自身の症状について正しい知識を得ることは、周囲から理解を得るためにも必要なことです。
症状への負担が少ない仕事を選ぶ
次に、自分にはどんな業務ができるのか、適切な職種と職場を探していきましょう。
統合失調症の方が働きやすいとされる職場環境や業務内容は以下のとおりです。
- 人と接する機会が少ない
- 人と接する機会があっても、周囲に理解がある
- 単純作業
- 複雑な工程や複数の人を介さない
- 一人で完結する
- 記憶力を必要としない
- 判断を迫られない
- 体調に合わせて仕事の量や負担を調節できる
- 経験したことのある仕事
- 得意な仕事
など
上記のような職場環境・業務内容であれば、症状があっても取り組みやすく、個人への負担は少ないでしょう。具体的には、一般事務や軽作業等の仕事がオススメですが、あなたが働きやすいと感じられることが一番重要です。
自分に適した職種を知りたい場合は、各地の地域障害者職業センターで適性検査を受けることができます。利用を検討してみてはいかがでしょうか。
また、お住まいの自治体に設置されている障害福祉課などへ相談し、適切な窓口を紹介してもらうのも一つの方法です。
周囲への理解を得る
「働きやすさ」は仕事内容だけでなく、職場環境や人間関係が良好であることも関係してきます。
病気や障がいがあることを周囲に伝えずに働く「クローズ就労」でも問題はありませんが、職場環境が良ければ、周囲に自己の病気を知ってもらう「オープン就労」で、周囲にあなたの症状や特性を理解してもらいながら、必要な配慮を受けて働くことも可能です。
会社選びで重要なポイントとしては、
- オープン就労が可能な環境(もの・こと・人)が整っているか
- 症状が起きた時に休憩させてもらえるか
- 通院の際に休める体制や福利厚生が整っているか
といったことに注目し、病気や障がいへの理解が浸透していて、互いに助け合える会社を選ぶことが大切です。
職場でいつでも質問や相談できる相手を作ることができれば良いですが、難しい場合には、全国の保健所や精神保健福祉センターなどの支援機関へ相談してみましょう。
焦らず少しずつを心がける
なにごとも、心身ともに焦らず、少しずつ慣らしていくことが大切です。
療養生活が長かった場合、発症前のように業務をこなせなくなっていることが多いでしょう。一度に多くの情報が入ると混乱する場合があるため、マルチタスクが必要な仕事は避けましょう。
特に疲れやすい方は、フルタイムではなく短時間から働き始めることをオススメします。
いきなり仕事に復帰するのではなく、まずは就労移行支援や就労継続支援事業所など、訓練ができる環境に通いながら心と体を慣らすことから始めても良いでしょう。
通院と薬の服用を怠らない
症状が良くなってきたと感じたり、仕事が忙しくなってきたりすると、通院や薬の服用を怠ってしまうケースがあります。
しかし、医師から指示がある限りは必ず継続して薬を服用しましょう。
忘れてしまう場合には、家族や周囲の方と連携を取り、薬の飲み忘れがないか確認してもらいましょう。また、リマインダーや服薬管理アプリを活用するという方法もあります。
薬の影響で眠気があるなど、仕事に支障が出る場合は主治医に相談してください。
統合失調症の方が利用できる支援制度
統合失調症の方は医療面ではもちろん、生活面や就労面でもさまざまな支援を受けることができます。それぞれの面で利用できる支援制度について解説していくので、必要な支援を受けられるように準備していきましょう。
なお、日々の暮らしで分からないことがあれば、自分に適した支援制度がないか、お住まいの地域の保健所や精神保健福祉センター、地域生活支援センターなどに相談してみましょう。
医療面の支援制度
自立支援医療制度
治療のために継続的な通院を行っている場合、医療費の自己負担分を軽減できる制度です。
医療費の自己負担額は通常3割ですが、自立支援医療制度を利用することで負担額が原則1割になります。さらに、所得に応じて1か月当たりの上限額が設定されます。
暮らしの支援制度
精神障害者保健福祉手帳
一定の精神障害があることを示すための手帳で、精神疾患や障がいの状態によって、3つの等級に分かれます。
手帳を持つことで、公共交通機関や公共料金の割引、税金の控除、博物館・美術館など、文化・娯楽施設の利用費が無料もしくは割引される、などのサービスが受けられます。また、都道府県によっては医療費の助成もしくは減免が受けられる場合もあります。
自治体によってサービス内容は異なるので、まずは医療機関や自治体に相談してみましょう。
障害年金
国民年金・厚生年金・共済年金に加入している場合、病気やケガによって働けなくなったときに受け取れる年金です。
生活保護
病気や障がい、ケガによって働けなくなり、生活が困難になった方のために、国や自治体が最低限の生活を保証してくれる制度です。
就労の支援
ハローワーク
健常者だけでなく、病気や障がいがある方に向けた相談窓口も設けられています。また、障がい者枠の求人検索や、就職に関する相談、カウンセリングを受けることも可能です。
地域障害者職業センター
障がいを持つ方が仕事探しをする前に役立つ施設です。
職業リハビリテーションとして専門的な支援が受けられ、復職に向けた準備ができます。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
地域と連携し、障がいのある方の生活と就業についての相談と支援を行います。
就職の準備支援から、就職後の支援まで行っており、自己管理や健康維持について、アドバイスをしてもらえます。
就労移行支援事業所・就労継続支援事業所
一般企業で働くことを目標に、通所しながら対人・就労に関するスキルを身につけられます。
就労移行支援では、個別の支援計画をもとに、ビジネスマナーやコミュニケーションなどを学び、足りないスキルを補い、職場見学や実習を行うことで、働くための準備を行います。また、就職活動の支援も行っています。
就労継続支援では、形式は異なりますが、個別の支援計画の下、実際に就労しながら企業に就職するために必要な知識・スキルを身につける訓練を行います。雇用契約を結び、賃金をもらって働く「A型」と、雇用契約は結ばず、やった仕事分の工賃をもらう「B型」があります。
詳しくは、下記の記事をご覧ください。
就労継続支援A型事業所で働くという選択肢
心と体を安定させ、焦らずに少しずつ生活の範囲を広げていくためにも、まずは就労継続支援A型事業所で働くという選択肢があります。
「就労継続支援A型」は、障がいや病気によって一般企業で働くことが難しい方が雇用契約を結び支援を受けながら働ける福祉サービスです。事業所でサポートを受けながら働き、いくつかの段階を経て、一般企業への就労を目指します。
就労継続支援A型では雇用契約を結ぶので、最低賃金以上の給料(時給)がもらえます。
また、就労移行支援の利用期間は原則2年なのに対し、就労継続支援には期限はありません。利用料は世帯所得によって変わります。
A型事業所で働くには、事業所にて面接などの選考を受けた後、市区町村の障害福祉担当窓口での利用申請が必要になります。また、A型事業所の雰囲気や仕事内容はさまざまなので、事前に見学や利用体験に行き、自分に合う場所を見つけましょう。
まとめ|統合失調症の方が働き続けるためには
- 統合失調症の方の仕事が続かない原因は、陽性症状である「幻覚」や「幻聴」、陰性症状である「疲れやすさ」や「意欲の低下」、認知機能障害による「集中力・判断力の低下」によるもの。
- 仕事を続けるためには、負担の少ない業務を選び、焦らず少しずつ慣らすことを大切にすると良い。
- 周囲と会社から適切な配慮を受けよう。
- 医療、生活、就労などさまざまな面で受けられる支援・サービスを活用しよう。
統合失調症は治療を継続することで回復していきます。
症状と付き合いながら働くことは難しいと感じるかもしれませんが、周囲の助けも借りて、自分のペースで少しずつ慣らしていきましょう。
自分自身の症状をよく理解し、自分に合った働き方や環境は何か、じっくり考えてみてください。