「私も今の仕事が大変で引きこもりになりたいと思ってしまうことがある…」
この記事にたどり着いたあなたは、このような疑問や気持ちを抱えてはいませんか?
2023年に発表された内閣府の調査によると、15歳~64歳で引きこもり状態にある方は、推計で146万人いるとされています。退職や人間関係のトラブルなどがきっかけで、あなたの身近にいる家族や友人が引きこもりになることも珍しくありません。
引きこもりの方は鍵をかけた部屋に閉じこもり、人目を避けて行動することが増えるため、周囲の方が生活の実態を把握するのは難しい場合がありますよね。
- 引きこもりの実際の姿について
- 引きこもりの1日の過ごし方や実際の心境とは
- 引きこもりの方のために家族や友人が相談できる場所
について解説します。
引きこもり経験者からは、様々な状況や心情を知ることができます。そこで、引きこもり経験者の視点を交えながら、あなたの引きこもりに対する疑問にお答えしていきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです。
まずは引きこもりを正しく理解するところから
「引きこもり」という言葉を聞くと、「怠けている」「ただの甘え」というネガティブな印象を持ってしまうことがありますよね。
さらに、これまで引きこもりは、「若い男性」のイメージを持たれることが多くありました。しかし実際には、引きこもりは性別や年齢を問わず誰にでも起こる可能性があるものです。
つまり、引きこもりの方の実際の姿は、メディアなどで取り上げられている「部屋の隅で膝を抱えてうずくまっている若い男性」のような、ステレオタイプ的な引きこもりの姿と大きく異なることが近年明らかになっています。
次の項目では、引きこもりとなる主な原因や生活の実態について解説していきます。
引きこもりの原因とは?
社会生活を営む中で、私たちは学校・仕事・人間関係など、さまざまな要因によってストレスを受けることがあります。そのストレスが蓄積されて心の消耗が限界を迎えることで、ストレスの原因から遠ざかるために引きこもりが起こると考えられています。
つまり、引きこもりとは自分の心を守るための防衛本能が働いている状態であると言えるのです。
引きこもりの原因はさまざまありますが、代表的な原因は下記の通りです。
- 学校でのいじめ
- 職場でのパワハラや大変な労働
- 環境の変化や社会生活になじめなかった
- 人間関係の構築やコミュニケーションがうまくできない
- 学業や仕事の失敗による挫折の経験
- 障がいや病気の影響
このように、過去の何らかの経験がトラウマとなり、社会生活を拒んでいる引きこもりの方は珍しくありません。そのため、引きこもりは本人の「甘え」や「怠け」が原因となって起こるものではないのです。
また、ストレスへの耐性にも個人差があります。「真面目」「繊細」「不器用」「内向的」などの性格によって、人目を気にしやすかったり傷つきやすかったりする人は、引きこもりになりやすい傾向があります。
外出することもある引きこもりの定義
厚生労働省による引きこもりの定義は下記の通りです。
様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。
ひきこもりの評価・支援に関するガイドラインp6「2-1引きこもりの定義」
実は、引きこもりの方の9割近くは「趣味の用事やコンビニ・スーパーへの買い物」のために外出していることがわかっています。この点が、しばしば「引きこもり」と「ニート」が混同されてしまう原因の1つでもあります。
つまり、多くの引きこもりの方は、最低限の外出はできていても人と繋がることができず、社会から隔離されている「社会的引きこもり」の状態であり、家や部屋から外へ出られない「物理的引きこもり」は少数派なのです。
引きこもりに対する偏見は大体が間違っている
引きこもりが社会問題として認識されるようになった昨今では、引きこもりの方に対する支援の拡大や、正しい理解を促進する取り組みが行われるようになりました。一方で、依然として引きこもりに対する世間的なイメージは悪く、風当たりが強い現状は残り続けています。
「できることならもう一度社会復帰をして働きたい」
多くの引きこもりの方は、このような本音を持っているにも関わらず、
「引きこもりのような怠け者とは一緒に働きたくないから社会に出てこないで欲しい」
「引きこもりが家庭にいると、世間体が悪くて恥ずかしい」
第三者のみではなく家族や友人までもが、引きこもりの方に対してこのような誤解を持っていることは珍しくありません。
そのため、周囲とのすれ違いに苦しみ続ける引きこもりの方は、「自分は誰からも理解されず、受け入れられない存在である」と感じてしまい、さらに心を閉ざして孤立する原因になるのです。
スケジュールのない引きこもり、普段は何をしてるのか
引きこもり状態になると、日中に学校や仕事などの予定が入らないため、基本的に全ての時間が自由時間となります。好きな時間に好きなことをすればいいので、そのような状況ではそもそもスケジュールを立てる意味はありませんよね。
むしろ、引きこもりの方にとっては予定がある日の方がイレギュラーであるため、スケジュールに縛られる生活はストレスを感じる原因にもなりかねません。
そのため、引きこもりの方は生活リズムが激しく乱れていることが多く、昼夜逆転の状況に陥ってしまうことも珍しくないのです。ですが、昼夜逆転になっていてもスケジュールが存在しないため、引きこもりの方の多くが問題なく生活が送れているという現状だと考えられます。
もっとも、引きこもりとなった原因や置かれている状況は人によってさまざまであるため、このような特徴が全ての引きこもりの方に当てはまるわけではない点は注意が必要です。
次の項目では、引きこもりの方は普段何をしているのかについて、私の経験も交えながらお話していきます。
引きこもりは「家で完結するお金がかからないこと」で暇をつぶす
引きこもりの方の多くが、「時間はあるがお金の余裕はなく満足に外出できない」という状態に置かれています。そのため、「家の中で完結するお金がかからないこと」で暇をつぶすようになるのは、多くの引きこもりが経験することでしょう。
引きこもりの方は下記のようなことで暇を潰す場合が多いです。
- 映画、ドラマ、アニメなどの視聴
- ゲーム(無料でできるオンラインゲームやソーシャルゲーム)
- YouTubeなどでの動画視聴
- SNS(引きこもり向けのSNSもある)
- 雑誌、漫画、小説などを読む
- 日中でも寝ている、ぼーっとしている
このように、引きこもりだからと言って、何か特別なことをしているわけではありません。
大量のコンテンツで溢れかえっているネットの世界で暇をつぶすのは、簡単なことです。むしろ、社会的に隔離されている引きこもりの方にとって、ネット上での人との繋がりが唯一の社会との接点であることは珍しくありません。
映像作品の視聴やゲーム、読書といった暇つぶしも、作品への没入感があるため現実からの逃避先として依存してしまう場合があります。
私自身もそうでしたが、引きこもりの方は現実の世界に居場所がなく孤独であるからこそ、ネットの世界や創作物の非日常的な体験に魅力を感じて、依存しやすいと考えられています。
引きこもり初期は「やることがなくても楽しい」
学生や社会人としての生活が忙しく大変だった方ほど、「予定が何もない暇な時間」をありがたく感じるものです。そのため、引きこもり初期の頃は何もしていないけれど楽しいと感じることがあります。
引きこもり初期では本人の意識が前を向いている限り、「今は充電期間だから、少しゆっくりしてからまた社会復帰しよう」と考えられるため、リフレッシュの期間として良い方向に働くでしょう。
また、引きこもり初期の頃では1日中自宅にいても、「少しは休む時間も必要だろう」と親や周囲が寛容に受け入れてくれる時期でもあります。
実際、私はうつ病を理由に退職して引きこもりとなりましたが、この頃は昼寝をしているだけで幸せを感じていました。退職して間もない頃だったため経済的にも余裕があり、2か月かけて車で北海道を一周して釣りや観光を楽しんだことは、薬による治療やカウンセリングを受けること以上にうつ病に効果的だったと感じています。
そして、この引きこもり初期の段階(おおむね1年以内)で社会復帰へのきっかけをつかめるかどうかが、今後の分かれ目にもなるのです。
引きこもりが長期化すると「何をやっても楽しめない」
引きこもりが3年以上継続するケースは若年層で約33%、40歳以上の中高年で約75%となっており、全体の半数近くが引きこもりの長期化の問題を抱えています。
長期引きこもりの方の多くは、
「社会復帰ができず親や周囲に迷惑をかけていることに対する罪悪感」
を訴えています。
引きこもり初期の頃の「まだ社会に戻れる時期だ」という感覚が失われ始めることで、自分の経歴の空白期間について焦りを感じ始めるのです。「面接を受けても採用されない」「社会に出たらまた辛い経験を繰り返す」ということばかりを考えてしまい、社会復帰の機会を失い続ける方は珍しくありません。
先述したような暇つぶしをしていても「こんなことばかり続けて自分は何をやっているのだろうか?」という感情に支配されることで、現実逃避の手段としての機能も失います。
私自身が引きこもりのこの段階に入った時は、食事・入浴などの必要最低限の生活行動が面倒になり、パソコンの電源を入れることすら億劫に感じて、布団の中から1歩も動かずに1日を終える生活を送っていました。
引きこもりを解決する方法、家族や友人が引きこもりになったら
引きこもりは、本人の高齢化や期間の長期化にともない、自力での解決が難しくなります。家族や友人など、周囲のサポートだけでは解決が望めないケースは多いのです。
引きこもりは今や社会問題となっています。
そのため、引きこもりとは「家庭の問題」ではなく「相談するもの」という考え方が主流になっており、引きこもりの方やその家族・友人を支援している公的機関や民間団体が増えてきました。
実際に、93.4%の相談が身近に引きこもりの方がいる家族・友人・学校・福祉事務所などから寄せられています。引きこもりの長期化が進行すると、「本人の社会復帰の選択肢が減る可能性」や「8050問題」などの危機に直面することは避けられません。
そのため、引きこもりの方の周囲にいる方だけでも相談・支援を受けることは、いざという時の備えになるのです。
では、引きこもりを解決するためのアプローチには何があるのか、次の項目で解説していきます。
引きこもりを「外に出さなきゃ」と考えてはいけない
「外に出て働くべきだ」という結論ありきの会話では、引きこもりの方とのすれ違いを生むばかりで問題の解決には至りません。引きこもりの方の否定や「こうあるべき」という価値観の押し付けになってはいけないのです。
引きこもりの方を無理やり外へ連れ出そうとした結果、余計に強い反発が生まれて引きこもりが悪化するケースが多いのはこのためです。引きこもりの方に過度に干渉したり、「助けなきゃ」と思い過ぎたりすることは、家族や友人にとっても大きな負担となり、共倒れになるリスクがあることを理解しておきましょう。
これは元引きこもりの私の考えになりますが、いつか引きこもりの方が外に出た時に、自分を再び受け入れてくれる家族や友人がいるだけで十分に心強いものです。
その上で、引きこもりの解決に向けて家族や友人でも頼れる機関を利用していくことが大切になります。
家族や友人による精神科・心療内科への相談
医療や支援の現場からは、引きこもりと精神疾患の因果関係が指摘されることが多く、
- 精神疾患(うつ病、統合失調症など)の発症をきっかけに、引きこもりとなるケース
- 引きこもりが長期化したことをきっかけに、精神疾患を発症しているケース
大きく分けてこの2パターンがあると考えられています。
「社会と関わることへの不安や恐怖心がある」
「そもそも一歩も外へ出られない」
このような状態が継続しているのであれば、それは何らかの精神疾患が原因である可能性が高いとの見解を示している医師は数多くいます。そのため、引きこもりは精神保健福祉の対象になっており、精神科・心療内科には引きこもり専門外来が設置されている病院もあるのです。
引きこもりの方が治療の必要がある精神疾患を抱えている場合、自力での引きこもりの解決は難しくなります。家族や友人による精神科・心療内科への相談は、引きこもりの方を医療と繋ぐきっかけになることもあるため、解決に向けて有効な手段の1つになります。
引きこもり地域支援センター
厚生労働省が運営している「ひきこもり地域支援センター」は、引きこもりに関わるあらゆる問題の相談先として全国の都道府県に設置されている機関です。
引きこもりの方本人・家族・友人など、誰からでも無料で相談することができるため、相談先がわからない場合は、ひきこもり地域支援センターに相談すれば間違いないでしょう。
引きこもり地域支援センターは国の機関であるため、最大の特徴は福祉・行政関係と連携した支援が受けられる点にあります。相談相手となるスタッフは、社会福祉士や公認心理士などの有資格者が中心となるため、引きこもりの方1人ひとりの状況に応じて利用できる制度や精神科・心療内科の受診をするべきかなど、的確なアドバイスが期待できます。
一方で、支援の内容は社会復帰に向けたものが多いため、全ての引きこもりの方に合う支援ではないという声があります。引きこもりの方の状況に応じては訪問支援なども展開されていますが、最終的には本人が外出できるようにならなければ満足な支援には繋がらない可能性がある点には注意が必要です。
民間団体による引きこもり支援
引きこもり支援の中には、NPO法人などの民間団体によって運営されているものもあります。引きこもりの方の状況に応じて、
- スタッフが利用者の自宅を訪問してくれる「訪問型」
- 利用者が施設に通って訓練を受ける「通所型」
- 施設に入所して集団生活を行う「宿泊型」
などのさまざまな形態での支援が行われています。
民間団体の引きこもり支援は、運営する団体によって支援内容や掲げる目標が異なっている点に特徴があります。
そのため、利用する支援団体を適切に選ぶことで、引きこもりの方1人ひとりに合った効果的な支援を受けられる可能性が高いのです。
一方で、民間団体による支援を依頼する場合はほとんどが有料になります。また、支援の実態が悪質な「引き出し屋」と呼ばれる業者も一定数存在している点は気を付けなくてはいけません。
利用にあたっては、引きこもりの方本人と相談して同意を得るとともに、しっかりと情報収集を行う必要はありますが、信頼できる団体に出会えれば問題解決に役立つでしょう。
まとめ|引きこもりの生活
- 引きこもりには、趣味の用事や日用品の買い物などであれば外出できる「社会的引きこもり」の状態にある方が多数を占めている
- 挫折や辛い過去がトラウマとなり引きこもりの原因となることが多く、「甘え」や「怠け」から引きこもりとなるケースは少ない
- スケジュールを管理している引きこもりは少なく、「自室で完結するお金がかからないこと」で1日の時間をつぶしていることが多い
- 引きこもり初期の頃は心のリフレッシュとして前向きに働くのに対し、引きこもりが長期化してしまうと社会復帰へのきっかけを失うことにも繋がる
- 家族や友人などの大切な方が引きこもりになったからと言って、必要以上に「何かしなくては」「助けなくては」と思うのではなく、そのまま家族や友達で居てくれるだけでも心強い
- 家族や友人が引きこもりの方に対してサポートをしたいと考えた時は、「精神科や心療内科」「ひきこもり地域支援センター」などに相談することが効果的
精神疾患などに起因して引きこもりが起こるケースは多くありますが、引きこもり自体は病気ではなく、置かれている状況も1人ひとり異なります。そのため、長期化している引きこもりを解決するのは非常に難しく、時間もかかるのです。
しかし、引きこもりの方自身が、自分のことを考えてくれている家族や友人がいることに気付ければ、それは再び外の世界に目を向けるための活力ともなるでしょう。