「発達障害のグレーゾーン」という言葉を聞いたことはありますか?
発達障害グレーゾーンとは、精神科やメンタルクリニックなどで発達障害の検査やテスト・カウンセリングを受け、結果的に発達障害の診断は降りなかったけれども、部分的に発達障害の特性があり、さまざまな生きづらさを感じている方々のことをいいます。
発達障害グレーゾーンと言っても、学生生活を送る中で違和感を覚えるケースや、学力不足・人間関係などが原因で不登校になるケース、学生時代までは目立った問題が無く、発達障害の傾向があっても社会に出るまで見落とされてきたケースなど、人によって異なります。
社会に出るまで見落とされてきたケースでは、就職活動が始まる頃から徐々に障害特性が目立ちはじめ、活動に支障がでてくることがあります。
「面接やグループディスカッションで言葉が出てこない……。」
など、マルチタスクや人とのコミュニケーションが必要な場合に苦手意識を感じ、不得意としていることが多く、就職活動に関する物事をすべて一人で準備し、時に仲間と共同で活動する必要もある就職活動では行き詰まってしまうことがあります。
そのため、就職するために苦手な部分をサポートしてほしいと感じる方も多いでしょう。
障害グレーゾーンの方でも利用できる、就労支援制度や施設をご紹介します。
- 発達障害グレーゾーンの方が利用できる就労支援制度について
- 発達障害グレーゾーンの方が就活・転職する際のポイント
- 発達障害グレーゾーンの方が相談したい時に頼れる窓口
について解説します。
グレーゾーンの方向けに就職・転職活動のポイントも解説していますので、就職活動を始める前にぜひご一読ください。
発達障害グレーゾーンの方が利用できる就労支援制度
就労支援とは、就職前のトレーニングから就職後の相談まで、就職に関する一貫したサポートを受けられる支援のことです。
通常は障害者手帳のある方や難病の方が利用できる制度ですが、精神科やメンタルクリニックに半年以上通院し、医師から診断書をもらって「障害福祉サービス受給者証」を得ることができればグレーゾーンの方でも支援を利用できる場合があります。
通院している場合はかかりつけの病院でご相談ください。
かかりつけがない場合は、各地の保健センターや相談センターなどでも相談を受け付けています。施設の名称は自治体によって異なります。
就労支援は、主に事業所で職業訓練や講習、面接指導などを受け、就職活動はハローワークなどを利用して行います。
また、就職後は職場へ定着して長く働けるように、職員に職場へ訪問してもらい、仕事の相談をすることができる支援制度もあります。
グレーゾーンの方が利用できる「就労支援」には以下のような施設があります。
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 地域若者サポートステーション
- 障害者就業・生活支援センター
それぞれの支援機関について順に見ていきましょう。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、主にうつ病などの精神疾患や障がいがある方の就職や復職をサポートする施設で、企業への就職を目標に、職業訓練やグループワークを行い、就職活動を行います。
なお、「就労“移行”支援」は、「就労“継続”支援」と間違いやすい名前ですが、異なる制度です。
就労移行支援では就職や復職に向けたサポート、トレーニングを受けられますが、工賃や時給は発生しません。
一方、就労継続支援は、一般企業で就労し続けられるスキルを身に付けるために事業所で実際に働きながらトレーニングができます。サポートを受けながら就労し、賃金を得られる場所です。
どちらの支援を受けるとしても、自分に合った事業所を選ぶことが重要です。
気になった事業所をいくつか見学してみるといいでしょう。
支援対象者
障害者手帳を持っている方や、難病の方が対象ですが、医師の診断書があれば利用できる場合があります。
18歳から64歳までの方が対象です。
利用期間
原則2年間の定めがありますが、場合により1年間の延長が可能です。
利用料
前年度の収入によっては料金が発生する場合があります。
支援の流れ
事業所によって訓練の内容には違いがありますが、主にPCスキルやビジネスマナー、コミュニケーションスキルを習得します。
コミュニケーションスキルでは、グループディスカッションやSST(ソーシャルスキルトレーニング)を行います。
※SSTは、社会性を身につけるためのトレーニングです。グループでロールプレイなどを行いながらコミュニケーションの取り方を学びます。
就労移行支援事業所では直接仕事を紹介をされることはありません。
職員からアドバイスをもらいながら就職活動を進めていきます。
支援は最長6か月です。その後も定着支援が必要な場合は障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)や就労定着支援事業所が支援を行います。
就労移行支援事業所の就職率と定着率については以下の記事をご覧ください。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、「職業リハビリテーション」という職業訓練を行います。
訓練の中で自分の適性を見つけ、自分の持っているスキルを活かして就職できるようにトレーニングしていきます。
支援対象者
障害者手帳を持っている方や難病の方、障がいの可能性がある方で、就職、職場適応、復職等に支援が必要な方が対象です。
利用期間
8週間程度が標準ですが、最長12週間まで利用できます。
利用料
利用料は無料です。ただし、交通費や昼食代は自己負担となります。
支援の流れ
必要な支援を明確にしてから「職業リハビリテーション計画」という職業訓練の計画が作成されます。
業務で困っていることや、人間関係のトラブルを相談できます。ジョブコーチ支援の期間は、およそ2~4か月です。
全国の地域障害者職業センターの所在地はこちらから確認できます。
地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーション(サポステ)では、個別の支援計画に基づき、各講座やセミナーを受講し、就職につなげていくことができます。
支援対象者
就業・就学中ではない15~49歳までの方が対象です。
利用期間
原則6か月ですが、延長できる場合もあります。
利用料
原則無料ですが、臨床心理士によるカウンセリング等、一部有料のサービスがあります。
支援の流れ
- コミュニケーション講座
フリートークやアサーション(相手を尊重しながら意見を伝える訓練)を行います。 - ビジネスマナー講座
職場でのマナーや電話応対などを学びます。 - 就活セミナー
履歴書の添削、面接の練習と指導などを行います。 - ジョブトレ就業体験
協力企業にて職場体験実習を行います。 - 集中訓練プログラム
宿泊研修でコミュニケーション能力を磨きます。また、Word、Excelの技術習得も目指します。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)では、職業訓練機関の紹介や、応募先の企業へ職場実習の斡旋をしてもらえます。
支援対象者
障害者手帳を持っている方や、難病の方が対象ですが、医師の診断書があれば利用できる場合があります。
18歳から64歳までの方が対象です。
利用期間
利用期間の定めはありません。
利用料
利用料は無料です。
支援の流れ
自身の障がいの状態、現在の生活状況、職歴について話します。
- 「就職に向けての職業訓練が必要」と判断された場合「就労移行支援事業所」や「地域障害者職業センター」を紹介されます。紹介された機関で職業訓練を行い、就職を目指しましょう。
- 「すぐに就職活動を開始できる」と判断された場合支援担当員にハローワークに同行してもらい、相談しながら求人を探すことができます。また、応募先の企業へ職場実習の斡旋をしてもらうことも可能です。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)についての詳細は以下の記事をご覧ください。
発達障害グレーゾーンの方がハローワークで受けられる就労支援
ハローワークでも、障害グレーゾーンの方が受けられる支援があります。
発達障害者雇用トータルサポーター
発達障害の方や障害グレーゾーンの方を対象として、それぞれの障害特性に応じた専門的支援を、就職準備から職場定着支援まで行います。
トータルサポーターが求職者にカウンセリングを行い、連携している支援機関(地域障害者職業センターや、就労移行支援事業所)と組んで、プログラムを作成します。
求職者は支援機関でプログラムを受けて、就職活動を進めます。
トータルサポーターには職場見学や面接に同行してもらうことが可能で、職場定着支援として就職後も相談することもできます。
発達障害グレーゾーンの方の「就活」ポイント
グレーゾーンの方が就職活動で気を付けるポイントを特性ごとにご紹介します。
同じ障害でも特性は人によって程度が異なるため、当てはまらない場合もあると思いますが、当てはまるものがある場合は参考にしてみてください。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
ADHDの方は、応募書類の記入漏れや面接の遅刻など、ケアレスミスをしやすい傾向にあります。
また、就職活動は複数の企業に応募する、担当者に連絡する、予定や時間を管理するなど、さまざまなマルチタスクが求められます。
予定は忘れないように一つひとつスケジュールに記入し、定期的に見直すか、時計やスマホなどでアラームをセットしておいたり、電話での話し方の練習をしたり、話す内容や書き取り用にメモを準備しておいたり、メールの書き方を勉強したりなど、自分が使える方法や道具を活用していきましょう。
ひとりで管理することが不安な場合、家族や信頼できる方に物事を共有し、確認してもらうのもよいでしょう。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
ASDの方はコミュニケーションが苦手なことが多く、面接の際に反応が遅れたり、返答がまとまらなかったりと、受け答えに戸惑うことがあります。
焦らずに冷静に話を聞き、動揺しないようにしましょう
集団面接やかしこまったやりとりが苦手な場合、募集要項を吟味し、リモート面接可のところや一対一で面接してくれる会社を選ぶ、カジュアルな話し合いをしてくれる企業を選ぶなど、背伸びをせず、自分に合った就職先を選んでいくとよいでしょう。
挨拶や姿勢、身だしなみにも気を配り、自分らしく、堂々とした態度で臨めば大丈夫です。
学習障害(LD)
LDの方は適性検査が苦手な方が多い傾向があります。
適性検査は基礎学力や、一般常識があるかを測る検査ですが、時間内に効率的に回答を進めていく必要があり、難しく感じる方も多いでしょう。
適性検査はWeb上で模擬試験ができるので、出題される内容を把握しておきましょう。
また、適性検査の必要がなく、人柄を見てくれる企業を選ぶという方法もあります。
発達障害グレーゾーンの方の「転職」ポイント
それぞれの障害特性をグラデーションで持っているグレーゾーンの方が転職する際のポイントをご紹介します。
同じ障害でも特性は人によって程度が異なるため、当てはまらない場合もあると思いますが、一つの参考としてご覧ください。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
ADHDの方は「マルチタスク(複数の業務を同時進行すること)」と「反復作業」が苦手な傾向にありますが、「行動・決断を早く行うこと」や「新しいアイディアを発想すること」は得意です。
そのため、自発的に行動し開拓していくことが得意なら営業職、一つの物事に没頭できる人はその能力を生かせる職業を探すとよいでしょう。開発や企画が得意であれば発想力を発揮できる仕事を探してみましょう。
自分の得意・不得意を知り、分析ができるとよいですね。
自閉症スペクトラム障害
ASDの方は、「仕事の段取りを考えて進めること」や「臨機応変な対応をすること」が苦手な傾向にあります。
しかし、作業の手順のマニュアルがあれば、コツコツと進めていく根気強さがありますし、同じ作業を繰り返し行う集中力もあります。
記憶力も良いため、資格を取って専門的な仕事に就くことで能力を発揮できる可能性があります。
自己分析を進め、転職までに必要なスキルや必要な道具を準備万端に整えておくことや、失敗したときに意識を切り替えられるような安心材料をいくつかそろえておくのも一つの方法です。
学習障害(LD)
LDの方は、「文字の読み書き」や「計算」が苦手な方が多く、仕事をするには支障が出る場合があります。
ただし、苦手の度合いは個人差があります。ICレコーダーやPCを使用すれば苦手なことを補える場合、それらのツールを活かしてみましょう。
また、職場への配慮を求めることも重要です。就職する際は、自分にできることは何か、配慮してほしいことは何かを企業へ説明できるように、自己理解を深めておきましょう。
発達障害グレーゾーンの方の相談窓口
ここまでは就労について説明してきましたが、日常生活の困りごとや、仕事の悩みを相談したいと思われる方もいるかもしれませんね。
日常的に発達障害で支障を感じている場合、心を病んでしまい、うつ病などの二次障害を発症してしまう方もいます。
自分を守るためには一人で悩まず、相談をすることも大切です。
主な相談窓口は、
- 発達障害者支援センター
- 医療機関(精神科・心療内科・メンタルクリニックなど)
- 各都道府県の障害福祉課
などがあります。
今回は、上記のうち、「発達障害者支援センター」と「医療機関」について、それぞれ説明していきます。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターでは、各都道府県に1か所以上配置されており、各種自治体や支援機関と連携を取り、相談支援や就労支援、普及啓発活動など、間接的な支援を行っています。
日常生活や職場での悩みなどの相談に対応していて、本人だけでなく家族への助言も行います。
社会福祉士や臨床心理士などの職員がいるため、障がいについて専門的な相談をすることができます。
医療機関など、地域の支援機関と連携しているので、相談者に応じた支援機関を紹介してもらうことも可能です。
精神科、心療内科
精神科や心療内科では、相談だけでなく、発達障害の診断をするための検査を受けることができます。
しかし、発達障害の診療を行っていない医療機関もあります。診療を行っている医療機関でも、受診前に予約が必要な場合や、受診まで待機がある場合、紹介状や母子手帳など、特別な持ち物が必要な場合があるため、事前に電話等で確認してから受診しましょう。
精神科や心療内科のカウンセリングでは、幼少期からの困りごとの相談や二次障害(※)の治療を行います。
うつ病、睡眠障害、適応障害、心身症(精神的・心理的要因から起こる身体的症状や疾患。胃潰瘍や高血圧、蕁麻疹、頭痛等。)など、人によって症状は異なる。
カウンセリングで自分のことを話すのは勇気がいるかもしれませんが、話すことで客観的に自分を見つめ直すことができます。
また、認知行動療法などを受けることで、自分の考えの偏りを直しバランスの取れた行動ができるようになり、心の安定につながります。
今の自分に相談や治療が必要だと感じる方は、受診してみるのも一つの方法でしょう。
まとめ|発達障害グレーゾーンの方でも受けられる就労支援制度がある
- 就労支援制度は通常、障害者手帳を持つ方や難病の方が利用できる制度だが、「障害福祉サービス受給者証」を取得できれば、発達障害グレーゾーンの方でも支援を利用できる場合がある。
- グレーゾーンの方が利用できる就労支援として、「就労移行支援事業所」「地域障害者職業センター」「地域若者サポートステーション」「障害者就業・生活支援センター」「発達障害者トータルサポーター」などがある。
- 人によって特性が異なるため、自己分析を行い、得意・不得意の把握や職場へ求めたい配慮を説明できるようにしておくといい。
- 「発達障害支援センター」「精神科・心療内科・メンタルクリニックなどの医療機関」「各都道府県の障害福祉課」などで相談できる。
- 日常的に発達障害による支障を感じている場合、うつ病や睡眠障害など、二次障害を起こす場合もあるため、一人で悩まず相談しよう。
自分は今、何に困っているのか。どんなことが得意で、何が不得意なのか。このように、少しずつ自己を紐解いていくと、よりよい対策も取りやすくなり、自分に合った支援も受けやすくなります。
グレーゾーンの方に限らず、人間は時に誰かに支えてもらったり、相談できる場所が必要です。
また、就職活動や日常生活で困ったとき、「今の自分にはどんなサポートが必要だろう」と、自分を楽にする方法や助けてくれる場所を探すことも大切です。
困ったときは一人で悩まず、相談してみませんか。