「面接のとき、言葉で上手く自分を表現できなくて、いつもうまくいかない…」
そんな悩みを抱えている発達障害の方は少なくないでしょう。
発達障害を抱えながら就職をすることは、確かに難しいです。
しかし、自身の特性や能力をしっかりと把握して対策を練ったり、困ったときはさまざまな支援を受けたりすることで円滑に就職活動を行うことができます。
- 発達障害者を取り巻く就職活動の状況
- 「発達障害者は就活が難しい」と言われる理由
- 発達障害者でも円滑に就活を進めるためのポイント
- 一般就労の際に、発達障害であることを隠すべきか
- 一人で就活を続けることが難しいときに利用できる支援制度
を解説しています。
この記事が、あなたの就職活動の一助となれましたなら幸いです。
発達障害者を取り巻く就職活動の環境
「発達障害がある方の就職は難しい」と言われていますが、実態はどうなっているのでしょうか。
まずは、厚生労働省が発表しているデータを元に、実際の雇用状況を確認していきましょう。
厳しい状況の続く就職率
厚生労働省の統計調査によれば、令和5年の就職率は健常者の98%に比べて、発達障害者を含む精神障害者は43.9%と少ないです。
コロナが明けて求人数が前年から1割増えていますが、その分求職者数も増えており、就職率は横ばいを続けています。
やはり、発達障害者の就職活動における状況は厳しいと言って良いでしょう。
発達障害者の雇用数は増加しつつある
しかし、民間で働く発達障害者は増加傾向にあります。
2018年の障害者雇用促進法の改正によって、一定以上の規模を持つ企業は発達障害者を含む精神障害者の雇用が義務化されたからです。
実際に「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」では、精神障害者の雇用数は前年度比で18.7%増加しています。発達障害者のみの記録はありませんが、増加したとみて良いでしょう。
また、「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、年齢階級別にみた発達障害者の雇用数は20~30代が高くなっていることがわかります。今後も、一般企業が障がい者を雇用しなければならない割合(法定雇用率)は引き上げられていくので、若手の発達障害者を受け入れてくれる企業も徐々に増えていくことでしょう。
就職率ではまだ厳しい状況は続きますが、望みを持って就職活動を続けていくことが大切です。
発達障害者がなかなか就職できない理由
では、なぜ発達障害者の就職は難しいと言われているのでしょうか。
ここでは、下記の3つを理由として挙げていきたいと思います。
- 自己分析が苦手なため、自分の能力や特性を上手く伝えられない
- コミュニケーションが苦手なため、トラブルを起こしかねないと判断される
- 障がいが見た目で分かりづらいため、配慮のイメージがわかない
順番に見ていきましょう。
自己分析が苦手なため、自分の能力や特性をうまく伝えられない
発達障害者の中には、自己分析が苦手な方が少なくありません。
「何を分析すればいいの?」
「自分にどんな特徴があるのかがわからない」
「どれだけ考えても悪いところしか出てこない」
そう感じている方もいるのではないでしょうか。
しかし、自己分析ができないと自分のことを客観的にアピールすることは難しいです。
障がいの特性ついても自分の中で整理できていないのでうまく伝えられず、企業側もどう配慮していいのかわからないという状況に陥ってしまうことがあるでしょう。
コミュニケーションが苦手なため、トラブルを起こしかねないと判断される
発達障害の方には、臨機応変に対応をしたり、その場に合わせて自分を演技したりすることが苦手な方が多くいます。
そのため、企業の面接でもうまく自分を表現できず、面接官とうまくコミュニケーションがとれなかったケースが多いのではないでしょうか。
そういったコミュニケーションに難がある方は、周囲とトラブルを起こしかねないと判断されてしまいます。トラブルを起きたら、上司である管理職が責任をもって対処しなければいけません。場合によっては、企業側も配慮を迫られることになるでしょう。
結果的に企業側の負担が大きくなってしまうので、コミュニケーションが苦手な方は採用されづらいのです。
障がいが見た目でわかりづらいため、配慮のイメージが湧かない
発達障害は行動や思考に現れるものであるため、見た目ではわかりづらいです。
特性自体も個人差が大きく、それぞれに合った配慮が必要となります。
特に、必要となるコミュニケーションにおいての配慮は、明確な正解がありません。
障がい者に対応するためのノウハウや経験が少ない企業であれば、配慮のイメージができず、多くの時間や労力を割かれてしまうでしょう。
そのため、企業は配慮に気を遣わなければならない方の採用に消極的になってしまいがちです。
発達障害者が就職するためのポイント3選
このように、発達障害がある方が何も対策せずに就活に臨むと、なかなか採用に至らないことがあります。
では、発達障害の方が就職するにはどのような点に注意すれば良いのでしょうか。
ここからは、具体的な就活のポイントを3つ解説していきます。
- 自己分析をしっかり行い、自分の能力や障がい特性を把握する
- 「ストレスを回避する」ための仕事選び、企業研究を行う
- 無理をせず、自分の体調に合った就労形態を選ぶ
ぜひ参考にしてください。
1. 自己分析をしっかり行い、自分の能力や障がい特性を把握する
まず、自己分析はしっかりと行うようにしましょう。
「発達障害」と一つにくくっても、実際にはASDやADHDなどさまざまな種類があり、さらにその特性や得意不得意の激しさも人それぞれです。
企業にしっかりと伝えられるように、自身の特性や能力を把握しておきましょう。
また、自分の能力や障がい特性を理解しておくことでどんな仕事が合うのか、企業にどんな配慮をしてもらう必要があるのかわかるようになります。
もしも、どうしても考えるのが難しいと感じる場合は、転職サイトの自己分析ツールを使ってみると良いでしょう。
自己分析ツールを使うことで客観的な診断を得ることができます。弱みだと思っていた部分への認識が変化したり、自分の能力や障がい特性のヒントを得られたりするかもしれません。
2. 「ストレスを回避する」ための仕事選び、企業研究を行う
できるだけストレスを感じづらい企業を選択するためにも、企業研究はしっかりと行う必要があります。
自己分析で把握した自分の特徴と合っていないと思った仕事は、極力選ばないようにしましょう。
たとえ憧れの仕事だったとしても、だんだんとできないことばかりの現実にぶつかってしまい、苦痛を感じてしまう可能性もあります。
また、職種や業種だけでなく、社内の雰囲気や社風が自分と合っているかどうかも重要なポイントになります。
社内の雰囲気に馴染めなかった場合、大きなストレスを感じてしまい、うつなどの二次障害を引き起こしてしまうこともあるからです。
最近ではリモートワークや短時間勤務を取り入れるなど、多様な働き方を推進している企業も少なくありません。企業によっては、一般枠でも障がいに対するサポート体制がしっかりとしている場合もあります。
得意不得意がはっきりしているからこそ、念入りに自己分析と企業研究を擦り合わせ、自分に合った仕事選びをしていきましょう。
3. 無理をせず、自分の体調に合った就労形態を選ぶ
仕事を探すときは、無理のない就労形態で探すようにしましょう。
発達障害の方は体調が不安定になりやすく、重度であればいきなりフルタイムの勤務を行うことは難しいです。
うつなどの精神疾患を抱えていたり、長期間仕事から離れていたりした場合は、医師と「週当たりの勤務時間をどれくらいにするか」を相談しておきましょう。
障害者雇用を選ぶ
もしも一般就労で働きづらいのであれば、障害者雇用を選ぶのも一つの方法です。
障害者雇用とは、障がい者向けの雇用枠のことです。
障害者手帳を申請していれば障害者雇用で働くことができます。
一般就労よりも合理的な配慮やサポートを受けやすく、働きやすさを確保できるでしょう。
求職者数も一般就労より少ないので、採用率が上がります。
ただし、デメリットとして、
- 月収が10~20万円と低く、昇給や昇格も少ない
- 仕事がデータ入力や事務職など、単調で限られたものになりやすい
- 企業から配慮を受けられない場合もある
などが挙げられます。
一般就労と障害者雇用に優劣はありません。障害者雇用からまた一般就労へ、一般就労から障害者雇用へと自由に動くことも可能です。
どちらがより、今の自分にメリットがあるか、よく考えてから選択すると良いでしょう。
一般就労で就活をするときは、障がいを隠すべき?
一般就労で就活をする際、「明かしたら落とされるかもしれない」という思いから発達障害を隠そうかと考えている方も少なくないでしょう。
発達障害を隠して、一般就労の就活を受けることは可能です。
見た目ではわからないので、自分から口に出さない限りは企業にばれることはないでしょう。
しかしながら、発達障害を隠して就活を行うことは、あまりおすすめできません。
令和2年に発表された「障害者雇用の促進について 関係資料」によると、発達障害を隠して就職した場合、1年後の職場定着率はわずか30.8%です。
なぜ、7割の方が最終的に退職を選んだのでしょうか。
それは、発達障害を隠すことで必要な配慮が受けられないからだと考えられます。
発達障害の方が配慮を受けずに働く場合、次のような問題が起こりうるのです。
配慮が受けられないとどうなるか
薬の副作用に理解を得られない
発達障害がある方の中には、医者から薬を処方されている方もいるでしょう。その薬の多くは、眠気を誘うなどの副作用があることが多いです。
しかしながら、障がいを隠しているため薬のことが言えず、副作用についても相談することができません。結果、副作用を我慢する必要があるので、思うように仕事ができない場合が出てくるでしょう。
特性上苦手な仕事もこなさなければならない
発達障害者の中には、ケアレスミスが多い、マルチタスクが苦手といった特性を持っている方が多いです。そのため、健常者と同じ仕事を割り振られても、うまく仕事を進めることができない場合があります。
しかし発達障害を隠している場合、業務量の調整や業務内容の見直しなど、合理的な配慮を受けることができません。
結果的に仕事がどんどん溜まっていき、疲労で頭が働かなくなってさらに仕事が溜まる…という悪循環に陥る可能性があります。
ストレスが溜まりやすい環境で離職する確率が上がる
こうした働きづらさによって疲弊し、さらに仕事に身が入らなくなる悪循環に陥った場合、ストレスがどんどん溜まっていってしまいます。
そして、溜まったストレスはうつなどの精神障害を引き起こす原因となりえます。
うつになってしまうと、多くの場合仕事が続けられなくなり、仕事を辞めざるを得ない状況まで追い込まれてしまいます。
長く働きたいなら、一般就労でも発達障害を明かした方が良い
以上の点から、働きやすさを求める場合は、一般就労でも自分の特性についてしっかりと説明しておく方が良いでしょう。
事実、先述の「障者者雇用の促進について 関係資料」では、発達障害を隠さず一般就労した場合の定着率は49.9%と、約2割も多く職場に定着しています。
特に、面接の場で説明しておけば、採用後のギャップを減らすことができます。
自分の特性を説明するときは具体的なエピソードも交えましょう。説得力が増しますし、想像もしやすくなります。
企業側としても事前に説明を受けておくことで、どんな配慮が必要なのか前もってイメージすることができます。
面接で説明された内容をもとに、問題ないと判断されれば採用される可能性はあります。
発達障害の方が就活に利用できる制度
一人で就活を進めることが難しい場合は、支援制度を利用するのも一つの方法です。
- 就労移行支援事業所
- ハローワーク
- 転職エージェント
- 発達障害者支援センター
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
ここでは、上記6つの支援機関を紹介します。
1. 就労移行支援事業所
就労移行支援事業所では、障がいのある方が一般企業に就職し、長く仕事を続けられるようになるための訓練をおこなっています。
24か月という利用期間の制限はありますが、
- 応募書類の作成
- 面接練習
- コミュニケーション訓練
- 障がい理解
などの就職活動全般における支援を受けることができます。
なかでも、「障がい理解」では、支援員が自分の障がい特性・得意不得意の整理を一緒に行ってくれるので、自己分析の助けとなるでしょう。
ただし、就労移行支援事業所は就職先を紹介する機関ではない事に注意してください。
あくまで求人探しは利用者自身で行い、スタッフはそのサポートを行うという位置づけで支援を行う形です。
また、就職してからも、就職先と利用者の間に入って現在の状況や必要なサポートを話し合う、「就職定着支援」を行ってくれます。
見学や体験ができるところがほとんどなので、まずは見学に行って自分に合っているかどうか確認しておくと良いでしょう。
2. ハローワーク
ハローワークは、職業紹介や雇用保険、雇用対策などの業務を一体的に行う公的な機関です。
一般就労と障害者雇用、どちらの求人も探すことができます。
発達障害などの障がいのある方向けに専門の窓口が設けられており、専門の職員や相談員にそれぞれの特性に応じた職業相談をすることができます。
相談以外にも、福祉・教育等関係機関と連携して、就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援を実施しており、面接に同行してくれるサービスを行っている場合もあります。
さらに、相談を通じて、就労に必要なスキルを身に着けるための職業訓練(ハロートレーニング)を受けることもできます。
ただし、ハローワークを利用する際は、後述の転職エージェントとの併用をオススメします。
ハローワークには求人を出していない企業や団体も多く存在するためです。
3. 転職エージェント
転職エージェントとは、キャリアアドバイザーなどの専門家が相談者の希望を聞いた上で、相談者にマッチする求人を紹介するサービスです。
特徴として、求人検索サイトとは違い、担当者が面談や手続き代行を行うなど、手厚いサービスを受けられることが挙げられます。
近年では、障がいがある方向けのサービスを提供している転職エージェントもあり、カウンセリングを通して自己分析することも可能です。
下記がその例になります。
- LITALICO仕事ナビ
- dodaチャレンジ
- ランスタッドチャレンジド
- DIエージェント
- マイナビパートナーズ紹介
実際に発達障害の方が働いている事例を聞けることもあるので、自身の働き方の参考となるでしょう。
発達障害で悩んでいる方は自分の特性をエージェントにしっかり話しておくと、より自分に合った仕事を見つけやすくなります。
4. 発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、医療・福祉・労働といった関係機関と連携して、地域における日常生活と社会生活の総合的な支援を提供している機関です。
すべての発達障害者の方を対象にしており、年齢を問わず利用することが可能です。
受けられる支援の内容は、大きく分けて下記の3種類です。
- 相談支援
- 発達支援
- 就労支援
特に「発達支援」では、発達障害に関する相談に対してアドバイスや発達検査を行ってくれるため、自身の特性を把握する手助けとなるでしょう。
5. 地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、障がいのある方を対象として、専門的な職業リハビリテーション、就職に関する相談支援、仕事選びや継続就労を実現するための就労支援カリキュラムを行っています。
職業リハビリテーションとは、障がいのある方が適した職場に雇用され、働き続けることや能力を向上させることをとおして社会参加することを目的とした取り組みのことです。
この取り組みでは、「職業評価」や「職業準備支援」、「職場適応援助者支援事業」が行われています。
ハローワークとも提携しており、障がいのある方の就職や就労継続に関して、職業リハビリテーションの観点から専門的な支援を受けることができます。
6. 障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、「なかぽつ」、「就ポツ」とも呼ばれており、就業面と日常面を一体的にとらえた支援を行っています。
そのため、職業訓練や職場定着支援などの仕事に関することだけでなく、発達障害に関する専門的なことから、金銭管理や住居のことなど、相談できる内容は多岐に渡ります。
就職活動を一人で行うことが難しいと感じた際は、ぜひこれらのサービスの利用を検討してみて下さい。
まとめ|発達障害者が就職できない理由と対策
- 発達障害がある方の就職率は低いが、雇用数は徐々に伸びてきている。
- 発達障害者の就活が難しい主な原因には、自己分析やコミュニケーションが苦手であること、企業が発達障が者に対する配慮のイメージしづらいことが挙げられる。
- 就活を円滑に進めるには、自己分析と企業研究をしっかり行い、ストレスを回避するための仕事・就労形態を選ぶ必要がある。場合によっては障害者雇用で働くことも選択肢に。
- 一般就労を選択する場合も、発達障害であることを明かした方が必要な配慮を受けやすく、職場定着率も高まる。
- 一人で就職活動を行うことに難しさを感じたら、就労移行支援事業所、ハローワーク、転職エージェントといったサービスを利用すると良い。
いかがでしたでしょうか。
まず、就職活動に大切なのは、自身の発達障害の特性と能力を把握することです。一人で自己分析をすることが難しい場合は、この記事で紹介した支援やサポートも利用していきましょう。
あなたの就職活動がうまくいきますことを、心より願っております。