
「ADHDの人に向いている仕事って何があるの?長く続けられる仕事がしたい」
この記事にたどり着いたあなたは、このような悩みや疑問を抱えてはいませんか?
発達障害の一つであるADHDは生まれつきの障がいであるため、子供の頃に診断されるのが一般的です。一方、ADHDが広く認知されるようになった昨今では、社会人になってから「仕事で失敗ばかりしてしまう」「人間関係が上手くいかない」などの困難に直面し、自身の違和感に気付いて診断を受ける「大人のADHD」のケースも増加しています。
- ADHDとは?仕事で直面しやすい困りごと
- ADHDの方に向いている仕事がないと言われる理由
- ADHDの方の仕事探しのポイント
- ADHDの方に向いている仕事一覧
について解説していきます。
この記事を通して、ADHDの方にはどのような仕事が向いているのか考えていきましょう。
ADHDとは?仕事で直面しやすい困りごとについて
ADHDとは「注意欠如・多動症」とも呼ばれており、「不注意」「多動性(落ち着きがない)」「衝動性」の3つの特性が現れやすい発達障害です。日本においてADHDの特性を持つ方は10人に1人とも言われており、非常に身近な障がいなのです。
ADHDは現在の医療では完治させることはできませんが、認知行動療法などの治療が有効であり、特性を緩和させる薬も開発されています。また、生活・仕事環境を調整することで特性の改善が見込める場合もあります。
一方で、ADHDの特性を理解できていなかったり仕事の内容や働く環境が合っていなかったりすれば、仕事で困りごとに直面してしまうことも珍しくありません。
ADHDの方が仕事で困ることには個人差がありますが、
- 仕事の手順や優先順位を見失いやすく、マルチタスクが苦手
- 些細な刺激でも注意が逸れやすく、集中力が続かない
- 誤字脱字や計算ミスなどのケアレスミスが頻発しやすい
- 物の紛失や忘れ物が多い
- 時間や予定の管理が苦手であり、締め切りや納期に遅れやすい
などのミスを繰り返してしまったという声が多く挙がっています。一見すると、これらの困りごとは「本人が気を付ければ防げるもの」と思われがちですが、実際には本人の努力や意識によって改善させることが難しいため、ADHDは障がいとして扱われているのです。
ADHDの方が「向いている仕事がない」と言われるのはなぜ?
障がい者の教育や就労支援に焦点を当てた研究を行っている東京大学の近藤武夫教授は、日本型雇用が抱える下記のような問題点がADHDの方の就労を難しくしていると指摘しています。
- 企業は広いスキルを持ち社内で発生するさまざまな業務に対応できる社員を求めている
- 社員のスキルアップの一環として苦手な仕事を業務を通して克服することが求められる
- 障がいの有無を問わず全ての社員に長時間労働を長期間こなすことが求められる
このような点から企業は「何でもできる万能型の社員」を好む傾向が強く、それに付随して仕事ではマルチタスクやチームワークが要求されます。一方で、障がいの特性から得意・不得意が明確になりやすいADHDの方は「特定の業務で高い専門性を発揮する特化型の社員」としての適性を持ちやすい特徴があります。
つまり、現在の日本型雇用では「企業が求める理想の社員像」と「ADHDの方が得意とする働き方」の間に大きなミスマッチがあるのです。このミスマッチがADHDの方にとっては大きな負担となり、仕事のパフォーマンスが低下してストレスを増加させます。
その結果、ADHDの方は「この仕事は自分には向いていない」と感じて短期離職しやすく、同時にADHDの方には「向いている仕事がない」という誤解を生んでしまうことに繋がっているのです。
ADHDの方に向いている仕事の探し方、2つのポイント
ADHDの方の仕事探しはこれまでの就職活動と勝手が違う点も出てきます。次の項目では、ADHDの方が向いている仕事を探すためのポイントを2つ紹介していきます。
過集中になることを探そう
過集中とは、特定の物事に対して非常に高い集中力を発揮している状態のことであり、「ゾーン(フロー状態)」に近い概念であると言われています。過集中の状態に入ると、仕事の効率や学習能力が向上して、通常よりも高いパフォーマンスが発揮できるのです。
過集中は誰にでも起こり得る現象ですが、脳の機能や発達の違いからADHDの方に発生しやすいことで知られています。
あなたは子供の頃に「ゲームに夢中になりすぎて時間を忘れる」というような経験をしたことはありませんか?このように「好きなこと」「興味のあること」に取り組む際、特に過集中の状態に入りやすい特徴があります。
ADHDの方がこれまでの自分の経験から過集中になったエピソードを見つけ出し、「好きなこと」「興味のあること」を明確にできれば、それは仕事をする上での大きな強みなると同時に新しい業界を目指す決め手となります。また、就職・転職活動の際のアピールポイントともなるでしょう。
障害者雇用枠を検討する
障害者雇用枠とは、法定雇用率に基づき民間企業や国・地方公共団体が設置している、障がい者を採用するための特別な雇用枠のことです。2024年現在で法定雇用率は民間企業で2.5%、国・地方公共団体で2.8%と設定されており、40人に1人以上は障がい者を雇用することが義務付けられています。
ADHDの方も、障害者手帳を取得していれば障害者雇用枠での就職活動が可能になります。
障害者雇用枠では、
- 障がいの特性によって苦手となる業務を免除する
- 障がいの特性を補うためのツールの導入や職場環境の調整を実施する
- フレックスタイム制などの柔軟な働き方を導入する
など、障がい者が働きやすいように合理的な配慮が実施される特徴があります。
そのため、
「ADHDの特性によって仕事が上手くいかず、短期離職してしまった」
などの経験がありこれからの仕事に不安を抱えている方は、障害者雇用枠での就職活動も検討すると良いでしょう。
業種別に見る、ADHDの方に向いている仕事一覧【9選】
次の項目では、ADHDの方に向いている仕事について紹介していきます。
もっとも、本記事で紹介する仕事はあくまでも一般論としてADHDに向いていると言われている仕事になります。あなた自身のADHDの特性だけでなく、業界に多い働き方の傾向や応募する企業の職場環境などによっても、向き・不向きが大きく変化する点に注意が必要です。
プログラマー
プログラマーはADHDの弱みがハンデとなりにくく、障がいの特性を生かして働きやすい特徴がある仕事です。そのため、昨今では障がい者を対象とした就労支援の現場でプログラマーへの就職サポートが盛んに行われるようになり、実際にプログラマーとして活躍しているADHDの方も増加しています。
プログラマーの仕事には、下記のような特徴があります。
- 仕事のゴールが明確なため、具体的な指示が多くタスク管理がしやすい
- 成果物での評価が中心となるため、評価基準が明確で仕事のモチベーションを維持しやすい
- リモートワークやフレックスタイムなど、柔軟な働き方に対応しやすい
- 個人作業が多いため、対人ストレスが少ない環境で働ける職場が多い
プログラミングは、「作成したコードを動かしてみる→ミスの修正や改善策を検討する」という試行錯誤の繰り返しが求められる作業です。最初から完璧な結果を求めずに「ミスがあるのは当たり前」「ミスは修正すればいい」というプログラマー特有の価値観は、ADHDの方にマッチングしやすいと言えるでしょう。
また、一つのタスクに没頭する時間が長く「論理的思考力」や「自由な創造力」が求められる仕事であるため、先述しているADHDの「過集中」の特性を生かせるとより高い成果を生み出せる可能性があるのがプログラマーという仕事です。
ADHDとプログラマーについては、下記の記事で詳しく解説しています。
エンジニア
先述しているプログラマーは「ソフトウェアエンジニア」に分類されますが、エンジニアの仕事にはさまざまな種類があります。そのため、「プログラミングには興味がない」というADHDの方でも技術職に魅力を感じている場合は、下記のようなエンジニア職種に向いている可能性があります。
- メンテナンスエンジニア
社内に常駐して、自社に設置されている機械の定期的な点検や修理を行うエンジニア - フィールドエンジニア
現場に出向して、顧客が保有している機械の定期的な点検や修理を行うエンジニア - 生産機械エンジニア
工業製品などを生産する機械の設計や設置を行い、生産効率を向上させるエンジニア
これらのエンジニアの仕事は、機械に発生したトラブルの原因や改良の余地を推測して、実物の機械に触れながら手を動かす職種です。理論に基づいて機械を扱うエンジニアの仕事は、自身が積み上げた知識や経験が成果に直結しやすい特徴があります。
- プラモデル制作やパソコンの自作などの「ものづくり」が好きな方
- 機械が動作する仕組みや構造に興味を持ちやすい方
- デスクワークよりも実際に手を動かす実践的な作業が好きな方
このような特徴を持っているADHDの方にオススメの仕事です。
営業
営業は、顧客の悩みやニーズを聞き出して、商材の売り込みやサービスの提案を行う仕事です。一般的な接客業よりも顧客との距離が近いため、より親密な関係を長期的に構築することが求められます。
営業は向き・不向きがはっきりと分かれやすい仕事ですが、ADHDの方が「営業職で才能が開花した」という話があるのも一つの事実です。
ADHDの方に営業が向いていると言われる理由には、下記のようなものがあります。
- 思いついたらすぐに行動できるため、チャンスを掴みやすい
- 話題が豊富で顧客に飽きられにくいため、リピーター客を掴みやすい
- 興味や関心がある商材を扱う時に専門知識を発揮しやすい
- 多彩な創造力や発想力からサービスの提案力が高い
営業は「ノルマが厳しく激務である」というネガティブなイメージを持たれやすい仕事である一方で、企業の利益を生み出す中心的な役割の立場であり顧客の感謝の声を直接聞けることにやりがいを感じられる仕事でもあります。
結果を追求することに貪欲になれるADHDの方であれば、天職となる可能性を秘めているのが営業という仕事です。
事務職
事務職は、社内で発生する「書類の作成・管理」「データ入力」「電話対応・来客対応」などの業務を担当して、会社の運営や他の社員のサポートを行う仕事です。体力的な負担が少なく未経験でも働きやすいため、ホワイトカラーの中でも特に人気がある仕事ですね。
事務職がADHDの方に向いていると言われる理由には、下記のようなものがあります。
- マニュアルに沿って行うルーチンワークが中心であるため、仕事に慣れやすい
- オフィス内業務が中心であるため、静かな環境で仕事に集中しやすい
- タスク管理ツールやリマインダーアプリなどを使い、ADHDの特性を補いながら働きやすい
事務職は社内業務が中心となるため、会社に業務内容や職場環境の調整などの障がいへの配慮を求めやすい特徴があります。また、先述している障害者雇用枠での求人数が多いため、雇用形態によらず就職先の選択肢が多い点もADHDの方が働きやすいポイントとなるでしょう。
デザイナー
デザイナーは、アパレル・広告・製品開発などのあらゆる分野において、機能性・独創性・美的要素などを取り入れて目的に沿ったデザインを制作する仕事です。
デザインの分野は多岐に渡りますが、ADHDの方には下記のようなデザイナー職種が向いていると言われています。
- グラフィックデザイナー
イラストや文字を組み合わせて、広告や商品パッケージなどを作成するデザイナー - プロダクトデザイナー
日用品や家電などの製品の形状や機能を考えるデザイナー - Webデザイナー
雰囲気やイメージに合ったWebサイトのページレイアウトを作成するデザイナー - UI/UNデザイナー
Webサイトの視認性や製品の使用感など、ユーザーの利便性を追求するデザイナー
ADHDの方は、目から入ってくる情報の処理能力が高い「視覚優位」の特性を持ちやすい傾向があります。視覚優位の方は物事を考える時に言葉ではなく映像や絵をイメージしながら思考しやすい特徴があるため、言語化しにくい抽象的なアイデアをビジュアル化させやすいのです。
個性が求められるクリエイティブな業界では他人と異なることをプラスとして評価されやすいため、ADHDの独自性を生かして働きやすいのがデザイナーという仕事です。
イラストレーター
イラストレーターは、依頼人の要望に応じて書籍・Webサイト・製品パッケージなどの様々なメディアに掲載するイラストを作成する仕事です。昨今ではインターネットメディアやSNSの普及に伴い、さまざまなイラストレーターが活躍するようになりましたよね。
イラストレーターがADHDの方に向いていると言われる理由には、下記のようなものがあります。
- 好きなことを一途に極める能力が高いため、過集中を発揮しやすい
- 物事の独特な捉え方から、自身の作品のオリジナリティを確立しやすい
- 視覚優位などの特性が仕事で有利に働きやすい
イラストレーターとして活動するには、「専門学校を卒業しなくてはいけない」「有名にならなければいけない」などと言われることもありますが、実際には特別な学歴や経歴は求められない仕事です。そのため、独学で技術を身に着けてイラストレーターになることも可能ではあります。
イラストレーターは多くの場合フリーランスとして働きます。「クラウドワークス」「ココナラ」などのクラウドソーシングサイトから仕事を請け負うことができるため、まずは副業としても活動できる仕事です。
作家
作家は、文章を執筆することで読者に物語やメッセージを伝える仕事です。作家には「小説家」「脚本家」「エッセイスト」「ジャーナリスト」などのさまざまな種類がありますよね。
作家がADHDの方に向いていると言われる理由には、下記のようなものがあります。
- 五感が敏感であることが多く、日常生活などの風景を多彩な言葉で表現しやすい
- 自己分析や内省が得意であることが多く、自分の経験や感情を他人と共有しやすい
- 共感力が高いことが多く、読者を惹きつける文章に繋がる
- 多様な視点を持ちやすいため、物語やテーマへのアプローチが豊富である
「自分の考えを伝えたい」「自分の見えている世界を表現したい」という欲求は、誰しもが少なからず抱えているものです。一方で、作家になるには「知識」「文章力」「作品を完成させるための忍耐力」など、さまざまな能力や資質が求められる厳しい世界でもあります。
そのため、ADHDの方が作家になりたいと思った場合は、
- ネット記事やブログ記事を作成するWebライター
- 広告のキャッチフレーズなどを作成するコピーライター
など、「物書き」としての仕事にも目を向けてみると良いでしょう。
研究職
研究職は、大学や民間企業に所属して新たな知識や技術の発見・データの解析・実験の実施など、さまざまな研究を行う仕事です。
研究職がADHDの方に向いていると言われる理由には、下記のようなものがあります。
- 好奇心が強く、興味を引かれた事柄について深く知りたいという欲求が強い
- 探求心が強く、興味を引かれた事柄について深く掘り下げる能力が高い
- 常に新しい知識や情報を求める傾向があり、学び続ける能力が高い
- 「とりあえず試してみる」という行動力の高さが、仮設や理論の実証に繋がりやすい
研究職は非常に専門性の高い仕事であるため、興味のある事柄に没頭しやすいADHDの強みを最大限に発揮しやすい仕事と言えるでしょう。一方で、研究職に就くには学歴が求められたり、大学や専門学校での学び直しが必要になったりする場合があります。
そのため、ADHDの方が研究職を目指したいと思った場合は、
- プロジェクトのデータ管理や書類作成などを行う研究支援職
- 学問的な知識を生かして働けるなどの教育職
などの比較的門戸が広い職業分類にも目を向けてみると良いでしょう。
弁護士
弁護士は、法律の専門家として依頼人の法律問題を解決するための助言をしたり、法廷で訴訟活動を行ったりする仕事です。
弁護士がADHDの方に向いていると言われる理由には、下記のようなものがあります。
- 共感力の高さが、依頼人に寄り添い法律問題を解決するために役立つ
- 多角的な視点から問題を考察する能力が、法律問題の解決に繋がりやすい
- 事実関係を明らかにして理論を組み立てる能力が、主張を反証するために役立つ
弁護士は法律の知識以外にも、論理的思考力や交渉力などさまざまな能力が求められる仕事です。また、最難関資格の一つである通り、法科大学院で2~3年のプログラムを修了するか司法予備試験を突破した上で、司法試験に合格しなければ弁護士になることはできません。
いきなり弁護士を目指すためには相当な努力が必要で、経済的な負担も大きくなります。そのため、ADHDの方が弁護士を目指そうと思った場合は、「司法書士」「社会保険労務士」「行政書士」などの比較的目指しやすい法律系の資格取得から始めるのが現実的な選択肢となるでしょう。
まとめ|ADHDの方に向いている仕事
- ADHDの方は仕事で「マルチタスクが苦手」「ケアレスミスが多い」「予定や時間の管理が苦手」などの困りごとに直面しやすい。
- ADHDの方は、過去のエピソードから過集中になれる物事を見つけることが、向いている仕事を見つけるための近道になる。
- ADHDの方には、一般的に「プログラマー」「エンジニア」などの技術職への適性が高いと言われている他、「事務職」なども障がいの特性がハンデとなりにくい。
- 特性によっては「デザイナー」「イラストレーター」「作家」などの芸術系やクリエイター系の仕事に適性がある場合も。
- 「研究職」を始めとする専門職への適性が高い場合もあるが、目指すには相当の努力が必要。
今回の記事では、ADHDの方に向いている仕事を一覧形式で紹介しました。
今の仕事が「自分には向いていないかも…」と思う原因は、ADHDの特性とミスマッチを起こしている可能性があります。そのため、あなたに合った仕事を見つけるためには、ADHDの特性を理解することが何よりも大切です。