昨今では、日常的にさまざまな場面で生き辛さを感じていることから「自分はもしかしたら発達障害かもしれない」と思い当たる方も少なくないでしょう。
しかし、そうした方がいざ病院を受診してみたところ、発達障害と診断してもらえなかった、というケースも多く存在します。
ただし、診断されなかったからといって、症状が軽いというわけではありません。人それぞれ日常生活を送る上で困ることがあり、理解してもらえないと精神的なストレスにも直結してしまいます。
生き辛さは確かにあるのに発達障害と診断されないとなると、
「どうすれば少しでも状況が改善されるの?」
「どこに相談すればいい?」
などの疑問や不安を抱く方も多いと思います。
- 「発達障害じゃない」と言われた要因
- 症状を緩和させるための方法
- 発達障害の診断をされなくても相談できる場所
以上を紹介していきます。
少しでも参考になれば幸いです。
そもそも大人の発達障害って何?
発達障害は、脳機能の偏りによってさまざまな特性が起こるとされていますが、未だに詳しい原因は分かっていません。先天的なものなので、根本的に「治す」というよりも、薬物療法やカウンセリングなどで「より良い状態」になるようにアプローチしていくことが、現実的な対応になります。
発達障害には主に、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などの種類があります。
また、特性は個人差が大きく、専門医でも診断が難しいとされていたり、複数の発達障害が併発していたりする場合もあるので、ネット上の簡易的な診断よりも複雑であると言えるでしょう。
ADHD (注意欠如・多動症)について
ADHD (注意欠如・多動症) の特性には、下記のようなものがあります。
ADHDは
の特性が目立つ発達障害です。
ASD (自閉スペクトラム症)について
ASD (自閉スペクトラム症) の特性には、下記のようなものがあります。
ASDは自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などの総称です。特に、他者とのコミュニケーションを取ることが苦手な傾向にあります。
LD(学習障害)について
LD(学習障害)の特性には、下記のようなものがあります。
LDは知的能力には問題がないものの、読む・書く・計算する能力に困難が生じる発達障害です。
- 読字障害(ディスレクシア)
- 書字障害(ディスグラフィア)
- 算数障害(ディスカリキュリア)
の主に3つのタイプがあり、1つのタイプの特性だけ出ることもあれば、ADHDやASDと併発して特性が出る場合もあります。
発達障害の診断には絶対的な数値の基準がない
発達障害には、実は確定診断を決定付けるような特別な検査がありません。
よく用いられる国際的な診断基準のある検査は確かにありますが、病気のように絶対的な数値の基準は存在しないとされています。よって発達障害の診断は、医師の問診とクリニックごとに行っているさまざまな検査をもとに進められていきます。
複数の観点から診断は下されるので、たとえネット上で自己診断をして当てはまる特性が多くても、いざ受診をしたら発達障害と診断されなかった、というパターンも多いようです。
「発達障害じゃない」と言われた要因
発達障害を疑って病院を受診したのに「発達障害ではありません」と言われてしまい、いわゆる「グレーゾーン」や「傾向がある」といった状態になってしまった方もいると思います。
自分では特性を満たしていると思っていたにもかかわらず、なぜ発達障害と診断されなかったのでしょうか?
ここでは、確定診断が出なかった理由として考えられる、主に3つの要因について解説していきます。
- 別の病気や障がいが隠れていた
- 医師の判断に違いがある
- 情報不足で診断が下せない
順に見ていきましょう。
別の病気や障がいが隠れていた
実は特性が「発達障害ではなく、別の病気や障がいの影響だった」というパターンがあります。
発達障害と間違えられやすい病気や障がいには、下記のようなものがあります。
集中力が続かない、極端にコミュニケーションを取ることが難しい等の特性と似た症状が、別の病気や障がいにもあります。 逆に「○○病(障がい)と診断されていたけど、本当は発達障害だった」というパターンも多くあり、治療方法を変えたらすぐに良くなった、ということもあるようです。
病院の対応に疑問をもっていたり、1つの病院しか受診していなかったりする場合、セカンドオピニオンを視野に入れておくのもいいでしょう。
医師の判断に違いがある
医師にも得意な分野と苦手な分野があり、判断に違いが出ることがあります。「A病院では診断されなかったけど、セカンドオピニオンのB病院では診断された」といったケースもあるようです。
先述しましたが、発達障害には病気のように確定診断を裏付ける絶対的な数値などがあるわけではありません。よって、医師によって判断に違いが出てしまうのは、ある種当然であるとも言えます。
そもそもにはなりますが、人間の特性や性格は多種多様です。精神的な障がいや病気について明確な線引きをして白黒つけることは、とても複雑な作業になります。
「この特性には凄く当てはまるけど、こっちの特性はあまり当てはまらない」などの状況もある中で、発達障害の診断を下すことは専門の医師でも難しい面があるでしょう。
情報不足で診断が下せない
発達障害の診断では、幼少期の様子を聞いて特性の傾向を知る場合があります。
その時に、自分でも幼少期の記憶が曖昧であったり、両親に聞いてもあまり覚えていなかったりすると、情報不足で診断が下せないことがあります。
特に、大人の発達障害の診断をする場合、幼少期~現在の多面的な情報が重要な判断材料になります。具体的な出来事を医師に伝えることができないと、診断に影響が出てきてしまうでしょう。
このパターンに心当たりがある方は、次に病院を受診する時には母子手帳を用意しておくなどして、幼少期の出来事をできるだけ具体的に伝えられるようにしておきましょう。
症状を緩和させるための方法
発達障害の確定診断を受けていなくても、生活を送る上で不便に感じることは多くあるでしょう。
たとえ発達障害の診断を受けていなくても、対策や工夫次第で症状を緩和させることができるかもしれません。不便を感じている方はまず一度、身の回りを見直してみることが大切になります。
もちろん個人差があるので一概に効果があるとは言えませんが、少しでも気になる項目があれば参考にしてみてください。
- 睡眠時間を見直す
- 適度な休憩を挟む
- 自分を変える努力をする
- 完璧主義をやめてみる
順に見ていきましょう。
睡眠時間を見直す
慢性的な睡眠不足からさまざまな負債が身体に蓄積されて、支障をきたしている状態のことを「睡眠負債」と言います。
睡眠負債の具体的な症状には、下記のようなものがあります。
年齢や個人差もありますが、適切な睡眠時間はおおよそ6.5~7時間とされています。
慢性的に短い睡眠時間が続いてしまうと、脳のパフォーマンスが徹夜した後と同等の状態になってしまい、日常的に本来の力を発揮できない状態になってしまいます。
仕事も家庭も忙しく、自分の睡眠時間を犠牲にしている方が多い現代において、知らず知らずのうちに睡眠負債になっている方も多いでしょう。
上記の症状は、発達障害の特性に当てはまるものもあります。
心当たりがある方は、まず自分の睡眠時間を見直してみることが改善の一歩になるかもしれません。日々当たり前すぎて疎かにしがちな「睡眠」は、人間の体にとって、実はとても重要な役割を担っているのです。
適度な休憩を挟む
「自分には集中力がないんだ…」と悩んでいる方は、そもそも人間はそんなに集中できない、ということを知っておくと気が楽になるかもしれません。
人間には集中力の限界があります。机に向かった状態で、しっかりと集中できるのは15分とも言われており、とても短い時間であることが分かります。よって、長時間集中できないことは至極当たり前であり、適度な休憩を挟むことが何よりの対策になるでしょう。
また、明確な目標やゴールがあると集中が続きやすいとされています。
まずは最終的な目標を明確にしておいて、それを達成するために短時間でできる小さな目標を定めると、短時間の集中を繰り返す癖ができて、結果的に作業効率が上がります。
他にも、休憩中には目を閉じて脳に情報を入れない時間を作ったり、軽いストレッチや運動をしたりすることも効果的です。自分なりの集中しやすい方法・休憩できる方法を探してみるのもいいですね。
自分を変える努力をする
さまざまな自覚症状があり、生活を送り辛いことが当たり前の状況になってしまうと、改善しようとする気力もなくなってしまいますよね。
ですが、他者からのアドバイスを素直に受け取らなかったり、「自分は発達障害だから仕方がないんだ…」と思い込みすぎたりしてしまうと、症状がより悪化してしまう可能性もあります。
ご自身の中で「諦めている症状」と「もう少し改善したいと思う症状」を整理して、後者の方から目を向けていくと、少しずつでも症状が改善していくかもしれません。
特に仕事術やコミュニケーション術、整理整頓のやり方などについては、分かりやすく実践しやすい書籍が多く出版されています。口コミなどを参考にして読んでみると、自分に合った方法を身に付けられるかもしれません。
他にも、SST(ソーシャルスキルトレーニング)を取り入れてみることもオススメです。
完璧主義をやめてみる
自分に対して厳しい完璧主義の方は、何事もハードルを高く設定してしまい、「自分はできないことが多い…」と思い込んでしまっている可能性があります。
完璧主義の方の特徴には、下記のようなものがあります。
特に、責任感が強く周囲からの期待に応えようとする方は、キャパオーバーの作業を抱えてしまい、ミスをしやすくなったり疲れやすくなったりしてしまいます。
自分の性格や気質を変えることは、とても難しいことです。ですが、物事は0か100かの成功と失敗だけではないことや、自分の抱えられる範囲で目標を立てることなどを意識すると、少しずつでも気が休まるようになるかもしれません。
いきなり180度変えようとストレスになってしまうので、徐々に無理なく自分に合ったペースで試してみるといいでしょう。
発達障害と診断されていなくても相談できる場所
発達障害の確定診断を受けていなくても、相談できる場所は多くあります。
ここでは、下記4つの場所を紹介していきます。
- 発達障害者支援センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 精神保健福祉センター
- カウンセリングを受けてみる
順に見ていきましょう。
発達障害者支援センター
発達障害支援センターとは、発達障害の方の支援を総合的に行っている専門的な機関です。発達障害の診断を受けていなくても、利用することができます。
各都道府県に設置されていますが、自治体によって支援内容は変わってくるので、まずはお近くの機関を探してみましょう。
発達障害者支援センター・一覧|国立障害者リハビリテーションセンター
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターでは、障がい者の職業生活の自立を図るために地域全体でさまざまな機関と連携し、就職や生活などの支援を行っています。
発達障害の診断が無くても医師の診断書があれば利用できる場合があるので、興味のある方はご自身が利用できるかどうか、問い合わせをしてみましょう。
全国に337か所あり、比較的アクセスしやすいことが特徴です。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターでは、専門家の方に対して生活面の困りごとなどを相談できます。心の健康相談もできるので、生き辛さを感じている方は利用を考えてみてもいいでしょう。
下記は設置場所の一覧表です。
カウンセリングを受けてみる
「いきなり○○センターに行くのはハードルが高い……」と思う方は、カウンセリングを受けてみるのもオススメです。カウンセリングは、主に心療内科や精神科で行われています。時間をかけて自分のことを話すことで自己理解が深まって、解決の糸口が掴めるかもしれません。
一人で長期間悩めば悩むほど、悩みの糸は雁字搦めになってしまいます。「何に一番困っていて、どうなりたいか」のイメージを明確にできると生活が送りやすくなる可能性があるので、選択肢の一つとして頭に入れておくといいでしょう。
まとめ
- >発達障害には絶対的な数値の判断基準がなく、診断が難しい。そのため、自己診断とは違った結果になるケースも多い。
- 発達障害と診断されなかった要因として、別の病気や障がいが隠れていることがある。また、医師の判断に違いがあったり、情報不足で診断が下せなかったりする場合もある。
- 症状を緩和させる方法として、睡眠時間を見直す、適度な休憩を挟むなどがある。他にも、自分を変える努力をしてみたり、完璧主義をやめてみたりして、意識を変えることも大切。
- 発達障害の診断を受けていなくても、相談できる場所はある。具体的には、発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター、精神保健福祉センターなどがある。カウンセリングを受けてみるもの選択肢の一つ。
この記事では、発達障害と診断されなかった要因、症状を緩和させる方法、発達障害の診断を受けていなくても相談できる場所などを紹介してきました。
目に見えない症状は、他者に理解してもらうことがとても大変です。自分自身では確実に生き辛さを感じているのに、発達障害と診断されない状態は、今後のことも含めて不安になってしまいますよね。
ですが本来、発達障害に関わらず、物事には名前が付くものばかりではありません。
特に発達障害は”グラデーション”とも言われており、診断に当てはまる方もいれば当てはまらない方もいるのが現状です。「白黒はっきりできないこともある」と思っておくと、気持ちの面で少し楽になるかもしれません。
また、何より大事なのは、一人で抱え込まずに周りの方や適切な機関に相談することです。発達障害の確定診断を受けていなくても、相談できる場所はたくさんあります。生き辛さを感じている方は、積極的に利用していきましょう。
発達障害グレーゾーンについては、下記の記事も参考にしてみてください。