「書類の文章がうまく読めない…」
「数字に弱くて、仕事に影響が出ている…」
「学習障害の悩みごとは、どこに相談すればいいの?」
など、困りごとや疑問がある方もいらっしゃると思います。
大人の学習障害は、周囲から誤解されやすく本人も苦しむことがあります。学習障害は、決して本人の努力不足ではありません。適切な理解と支援があれば、仕事でも十分に活躍できます。
学習障害について正しく理解し、周囲のサポートを受けながら、仕事をしていけるようにしましょう。
- 学習障害(LD)とは
- 学習障害の特徴
- 大人が学習障害に気づくきっかけ
- 仕事での困りごとと対処方法
- 大人の学習障害の方が受けられる支援制度
を解説していきます。
大人の学習障害(LD)とは
学習障害(LD)とは、発達障害の一つです。LD(Learning Disablity)と呼ばれています。
知的障害とは異なり、全体的に理解力は遅れていないものの、「読み・書き・算数」の特定の学習に困難を抱える状態です。
近年では、この性質をより正確に表すために「特定学習障害」SLD(Specific Learning Disorder)と呼ばれることもあります。
※本記事では「学習障害」と記載を統一しています。
人によって特性の現れ方は違うので、学習障害があっても文章が得意な方もいれば、数学が得意な方もいます。
では、学習障害の具体的な特徴をみていきましょう。
大人の学習障害(LD)の特徴
大人の学習障害では主に「読み」「書き」「算数」の3つの特徴があります。
- 読字障害(ディスレクシア)
- 書字表出障害(ディスグラフィア)
- 算数障害(ディスカリキュア)
- 他の発達障害との合併
順番に解説をしていきます。
読字障害(ディスレクシア)
読字障害とは、文章などを「読むこと」が困難な状態のことを指します。学習障害の中で最も割合が多く、欧米では10人に1人がこの特性を持つと言われています。
「読字障害」の特徴には、下記のようなものがあります。
- 文字や文を読み飛ばしてしまう
- 文章を読んでいると、どこを読んでいるかわからなくなる
- 一文字ずつ区切ってしまうため、読むスピードが遅い
- 形が似ている文字を区別するのが難しい (例:「ね」と「わ」、「シ」と「ツ」など)
- 小さい文字が認識できない (例:「っ」、「ゃ」、「ょ」など)
読字障害を持つ方は、文字が全く読めないわけではありませんが、スムーズに読むことが困難です。
文章を読み込む時間が長かったり、理解をすることが難しかったりするので、仕事にとりかかるまでの時間が長くなってしまう場合もあるでしょう。
書字表出障害(ディスグラフィア)
書字表出障害とは、文字や文章を「書くこと」が困難な状態のことを指します。文字が読めるにも関わらず、書けない場合もあります。
書字表出障害の特徴には、下記のようなものがあります。
- 鏡文字を書いてしまう(左右反転する)
- 誤字脱字が多い
- 書き文字の字のバランスがとれない
- 書き写すことが苦手、遅い
- 漢字を書くのが苦手
また、「読字障害」と「書字表出障害」はそれぞれ独立したものではありません。
「読む」ことが苦手な場合は、「書く」ことも苦手な方が多いので、別名「読み書き障害」とも言われています。
算数障害(ディスカリキュア)
算数障害とは、数字の概念や、数量の大小を理解するのが困難な状態のことを指します。また、図形や推論が苦手な場合もあります。
算数障害の特徴には、下記のようなものがあります。
- 数の大きい、小さいがわからない
- お釣りや割り勘の計算ができない
- 図形やグラフが理解できない
- 時計が読めない
- 計算の繰り上げや繰り下げができない
算数障害を持つ方は計算ができなかったり、グラフを読み取るのが難しかったりするので、職場で数字を使う業務が難しくなる場合もあるでしょう。
他の発達障害との合併
学習障害の方は、ASD・ADHDなど、他の発達障害と合併している場合もあります。
例えば、長文を読むのが苦手な場合、その原因が学習障害によるものなのか、ASDやADHDによるものなのかの判断が難しくなります。
特に、ADHDは周囲の刺激を受けやすい特性があるので、その影響で長文が読めない可能性もあります。よって、診断の判断がつきにくいのです。
また、学習障害の特性は、単独で現れることもあれば、複数組み合わさって現れることもあります。複雑な状態の場合もあるので、しっかり診断してもらうことが重要になります。
大人の学習障害(LD)に気づくきっかけ
学習障害は、子どもの頃であれば「学校の授業についていけない」ことがきっかけで気づく可能性があります。
しかし、「障がいではなく、単に苦手な分野」とみなされ、子どもの頃に学習障害と診断されない可能性もあるのです。
そのため、社会人になってから文章の理解が遅かったり、仕事中の計算が極端に苦手だったりといった不便さを感じて病院に行き、初めて自分が学習障害だと気づく方も多いとされています。
学習障害は、医療機関や発達障害者支援センターで相談することが可能です。利用可能な支援制度については後述しておりますので、そちらも参照してください。
学習障害(LD)診断基準「DSM-5」
学習障害の診断は、世界共通で用いられている「DSM-5」をもとに行われます。
DSM-5では
「書字表出障害」
「算数障害」
の3つの特性について
のであれば、学習障害と診断されます。
先述のように、学習障害は複数の性質が出たり、発達障害と合併して特性が出ていたりする場合があります。
ご自身で学習障害を疑っている場合は、ネット上の自己診断ではなく、病院等で診断してもらうことがとても重要になるでしょう。
学習障害(LD)の治療方法について
学習障害を根本的に治す治療は、現在見つかっていません。
しかし、学習障害の診断を受けることによって苦手分野を理解し、カウンセリング受けたり仕事内容を工夫したりすることで、日常の困りごとを軽減できる可能性があります。
学習障害は、本人の努力だけでは克服することが難しい障がいです。周囲の理解とサポートが必要なので、積極的に医師や信頼できる方に頼っていきましょう。
大人の学習障害(LD)の方が仕事で困ることと対処法
大人の学習障害の方が困りごとを克服するには、自分に合った対象方法を見つけることが大切です。
ここでは、学習障害の影響で起こる仕事での困りごとや、その対処方法について紹介していきます。
- 「読字障害」の場合
- 「書字表出障害」の場合
- 「算数障害」の場合
- 周囲の理解とサポートが重要
順に見ていきましょう。
「識字障害」の場合
- 例
- 文章の指示を理解できず、同じミスを繰り返してしまう
「読字障害」がある方は、書類やメールなどで仕事の指示があったときに、文章を正確に読むことが難しく、ミスを繰り返してしまいます。
- 対処方法
- 最初から文章ではなく口頭で指示してもらう。
- 図や写真を入れて説明してもらう。
ご自身が理解しやすい方法を、あらかじめ同じ職場の方に共有しておくと、仕事のミスを減らせる可能性があります。また、視覚からの方が情報を得やすい場合、図や写真などを取り入れることも効果的です。
「書字表出障害」の場合
- 例
- メモを書くことが苦手で、会議の内容が記録できなかった
「書字表出障害」がある方は、文字を書くことが苦手です。そのため、仕事で見たことや聞いたことをすぐにメモすることができず、記録を取れない場合があります。
- 対処方法
- ボイスレコーダーを利用する
- 事前にスマホやPCの利用を許可してもらう
とにかく「書く」ことが苦手だということを、知ってもらう必要があります。
仕事内容によっては、どうしても難しいことがあると思います。無理をして「できなかった」では、双方にとってストレスになってしまうので、事前に周りの方を頼ることがとても大切になってきます。
また、現代では「手書き」以外にも文字を記す方法は多くあるので、ご自身に合った方法を探していきましょう。
「算数障害」の場合
- 例
- 発注書や見積書などの数字が多い書類が苦手
算数障害がある方は、数字が苦手です。そのため、予算や見積もりなどの数字が多い書類の理解がうまくできずに、仕事が困難になる場合があります。
- 対処方法
- 電卓などの電子機器を利用する
- エクセルの場合は関数で自動計算する
学習障害の影響で仕事が滞る場合、積極的に便利な商品やシステムを取り入れていきましょう。
視力の悪い方が眼鏡やコンタクトを利用するように、不便な状態を我慢する必要はありません。周りの方が利用していない場合は、事情を説明して使用を許可してもらえるか、まずは一度職場に相談してみましょう。
周囲の理解とサポートが重要
そもそもにはなりますが、学習障害の方が仕事をしていくうえで、上司や同僚のサポートは不可欠になります。自分から積極的に協力を求めることが大切になるでしょう。
ですが、必ずしも学習障害を「職場の方に伝えなければならない」というわけではありません。
学習障害は知的発達に問題はなく、認知度もまだまだ低いので、周囲から気づかれにくい障がいです。ご自身で「学習障害のことを伝えると、デメリットの方が大きい」と判断して職場に言っていない場合、知られない可能性は十分にあります。
ただし、周囲に理解してもらうために、カミングアウトは大きなメリットになることも事実です。
職場の方が、学習障害であることを知らない場合、「ただ仕事を怠けているだけだ」「なんで簡単なこともできないの?」などと思われてしまうかもしれません。
また、ご自身の中でも無理をしてストレスを溜めてしまい、精神的に仕事をすることが辛くなってしまう可能性もあります。
よって、さまざまなトラブルを防ぐためにも、カミングアウトをすることは、学習障害の性質を知ってもらうと同時に周囲の理解を得ることもできるので、効果的な手段になります。
他にも、自分が「何が苦手でどんな対処をして欲しい」かを伝えることができるので、仕事の困りごとが減ることも期待されます。
職場に伝える場合は、医師から診断書などを書いてもらい、できるだけ分かりやすく説明をしていきましょう。
学習障害(LD)のある方が利用できる支援制度
上記では、学習障害の影響で起こる、仕事上でのさまざまな困りごとを紹介してきました。
学習障害を抱えながら就職や転職するにあたって、「どのような仕事に就けばいいのかな…」などの不安がある方も多いと思います。
この項目では、学習障害のある方が利用できる支援制度を紹介していきます。興味のある方は、ぜひ利用してみてください。
- 就労移行支援を利用する
- ハローワークを利用する
- 障害者就業・生活支援センターを利用する
- その他の支援制度
順に見ていきましょう。
就労移行支援を利用する
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づくサービスのひとつです。一般企業の就労を目指すプログラムがあり、学習障害の方がサポートを受けられます。
就労移行支援では、下記のような支援が受けることができます。
- 職業訓練:必要な知識やスキルを習得
- 職場実習:実際の職場環境で仕事体験
- 就職活動支援:履歴書の作成、面接対策
- 職場適応支援:入社後の職場環境への適応
こちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
ハローワークを利用する
ハローワークでは、障がいを持つ方を対象とした窓口があり、就労に関する支援を受けることができます。学習障害の方も、就職活動に関する相談をすることが可能です。
学習障害の方は、医師の診断書など、自分の特性がわかるものを持っていくとスムーズに対応してもらえます。
ハローワークで受けられる支援には、下記のようなものがあります。
- 求人情報の提供
- 職業紹介
- 就職活動支援:履歴書・職務経歴書の書き方、面接対策
- 就労支援プログラムの紹介
- 各種助成金の案内
ハローワークは全国500か所以上に設置されています。
障がいに対して専門的な知識があるので、就職や転職で悩んでいる方は、まずは相談してみましょう。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)を利用する
障害者就業・生活支援センターでは、障がいのある方の就労と生活について、両方の面で相談することができます。
障害者手帳がない場合でも利用できるので、不安や悩みがある方は、まずは頼ってみてください。
障害者就業・生活支援センターでは、下記のような支援を受けることができます。
- 就労相談:仕事探し、履歴書・職務経歴書の書き方、面接対策
- 生活相談:住居、生活費、福祉サービス
- 権利擁護:虐待や不当な扱いを受けた場合の相談
- 情報提供:障害に関する情報提供
また、全国に337か所設置されているので、比較的利用しやすいことも特徴です。興味のある方は、まずはお近くの障害者就業・生活支援センターを探してみましょう。
その他の支援制度
上記以外でも、学習障害を持つ方が利用できる制度があります。
- 発達障害者支援センター:学習障害に関する相談や情報提供
- 民間事業者による支援サービス:個別指導、就労支援、生活支援
- NPO法人による支援活動:情報発信、交流イベント
学習障害の方でも利用できる支援制度は多くありますので、自分に合う制度を利用してみましょう。
まとめ|学習障害(LD)の特徴と支援制度
- 学習障害とは、知的障害とは異なり「読み」、「書き」、「算数」の特定の学習に困難がある発達障害。大人になると、学習障害の特性から仕事に影響が出てしまうことがある。
- 学習障害は、「読字障害」「書字表出障害」「算数障害」の主に3つの特性がある。人によっては、特性は個々に現れるだけでなく、同時に複数現れる場合もある。
- 学習障害は、大人になってから初めて診断される方も多い。3つの主な特性のいずれかが「1つ以上当てはまり、少なくとも6か月以上継続している」ことで学習障害と診断される。
- 学習障害の方が仕事上での困りごとがある場合は、自分に合う対処方法を見つけることが大切。また、周囲の理解とサポートが不可欠になるので、職場で学習障害を隠している場合は、オープンにすることも視野に入れておくといい。
- 学習障害の方は、就労移行支援やハローワーク、障害者就業・生活支援センターなど利用できるさまざまなサポートがある。自分に合うサポートを見つけて、相談することが大切。
大人の学習障害の特性や、仕事に関する悩み・対策方法を解説してきました。
学習障害は、まだまだ知名度が低く、特性の個人差も大きい障がいです。
日常生活や仕事に影響が出ている場合は、一人で悩まず、専門的な知識をもつ方や身近な方に相談することが、とても重要になるでしょう。
学習障害の方が受けられる支援はたくさんあるので、ぜひ気軽に利用してみてください。
この記事が参考になりましたら幸いです。