あなたは、職場内の近しい方に、強いストレスを感じることがありませんか?
何回注意しても同じミスをされたり、納期を守ってもらえなかったりすると、だんだん職場の雰囲気も悪くなってしまい、気持ちよく仕事ができない環境になってしまいますよね。
特に、その人と近しい関係性で体調不良を感じている方は注意が必要です。もしかしたら、「職場内カサンドラ」になっているかもしれません。
「同じ職場の人にストレスを感じていて、最近体調が悪い…」
「職場内カサンドラが原因で退職を考えているけど、労災っておりるの?」
などの疑問を抱えている方に向けて、
- 職場内カサンドラとは
- 職場内カサンドラになる人を出さないための対策
- 職場内カサンドラになった人への対処法
- 職場内カサンドラが原因で退職する際に労災はおりるのか
以上を解説していきます。
少しでも参考になれば幸いです。
そもそも「カサンドラ症候群」って何?
「カサンドラ症候群」という名称は、2003年に心理学者が名付けたとされています。ただし、正式な疾患ではないので、あくまで「状態」という位置付けです。
カサンドラ症候群とは、主に発達障害やグレーゾーンの方と関係を築くにあたって、意思疎通を図る際の相手の言動などに強いストレスを感じ、うつ病などの精神障害を発症してしまうことを指します。
「発達障害グレーゾーン」については、詳しくはこちらの記事も参考にしてください。
職場内カサンドラの症状
これまで、カサンドラ症候群は家庭内で、特に近親者の方がなりやすいとされていました。ですが、近年では障がい者の雇用数が増えてきたことなどにより、家庭内だけではなく、職場でも同様の現象が起こることが明らかになってきました。
このことを「職場内カサンドラ」と言います。知名度こそ低いですが、苦しみを理解してもらえず悩んでいる方は少なくないでしょう。「職場内カサンドラ」はいつ、誰にでも起こりうる出来事です。強いストレスの影響を受け続けると、アクセルとブレーキの役割を担っている自律神経のバランスが乱れてしまい、さまざまな不調が現れます。
特に、以下のような症状がある方は、注意が必要になります。
肉体的な症状
肉体的な症状には、下記のようなものがあります。
他にも多岐にわたる不調が現れます。
検査をしても、特に異常が見られない体の状態のことを「不定愁訴」と言います。多くの原因は、ストレスからくる自律神経の乱れです。ストレスの根源をなくさなければ、症状を改善することは難しいでしょう。
精神的な症状
精神的な症状には、以下のようなものがあります。
症状は個人差が大きく、日によって症状の波もあるでしょう。また、精神的な不調は長期化すると重症化してしまうことも多いため、早期発見・早期診断がとても大切です。
職場内カサンドラを出さないための対策5選
職場内カサンドラは、工夫次第で防げる可能性があります。
ここでは主に、5つの対策方法を紹介します。
- 職場環境を見直す
- サポート役の人の性格を考慮する
- 発達障害の特性を把握しておく
- 障がいに合った仕事内容を任せる
- 発達障害の話題を出してみる
順に見ていきましょう。
職場環境を見直す
まず、職場環境を見直すことが大切になってきます。
「職場内全体で悩みを共有できる状態になっているか」
など、根本的な見直しひとつで、防げる可能性がぐんと高くなります。
サポート役を任された人も一社員であり、決してサポートをする専門家ではありません。特定の人ばかりに負担がかかると、職場内カサンドラになりやすくなってしまうので、気を付ける必要があります。
サポート役の人の性格を考慮する
カサンドラ症候群は、特に次のような性格の人がなりやすいとされています。
上記の性格に当てはまる人ほど、「自分がなんとかしないと」「任されたんだから、頑張らなきゃ」と、一生懸命サポート役を引き受ける場面が多くなります。決して悪いことではありませんが、こと人間関係においては、「離れる」「逃げる」手段をとることが、身を守る方法としてとても重要になります。詳しくは後述します。
このような性格の人にサポートを任せっきりにしていると、その人が退職してしまう可能性もあるので、注意が必要です。
発達障害の特性を把握しておく
個人差はありますが、発達障害の特性には、ある程度の共通点があると言われています。
具体的な特性は、以下のようなものがあります。
ADHD (注意欠如・多動症) の場合
ASD(自閉スペクトラム症)の場合
発達障害の原因は詳しくは分かっていませんが、最近では、脳機能の偏りによって特性が起こると考えられるようになってきました。
何も知らない状態だと、むやみやたらに怒ってしまったり、対策が取れずに大きなミスなどに繋がってしまったりする可能性もあります。知識として身に付けておくと、対策を立てることができ、双方ともに仕事がしやすくなります。
詳しくは、以下の記事も参考にしてみてください。
障がいに合った仕事内容を任せる
発達障害の特性には、向き不向きがあると言われています。
仕事内容に関しては、特性によって、大きな力を発揮できる場合もあります。その人に任せる仕事内容を見直せば、サポートをする社員の負担を減らすこともできるでしょう。
クリエイティブなことが得意な人に細かい注意が必要な作業を任せる、手順が決まっている作業が得意な人にイレギュラーな対応を求められる仕事を振るなど、適切に仕事が割り振られていない場合、知らず知らずのうちに本人も周りの人も、負担が増えている可能性があります。
業種によっては対応が難しい場合もありますが、障がいの特性を生かせるような仕事内容を任せることも、職場内カサンドラを出さない有効的な対策のひとつです。
発達障害の話題を出してみる
障害者雇用で働いているのか、クローズ就労(企業に障がいを明かさずに働くこと)で働いているのかでも大きく変わってきますが、中には、幼少期から生き辛さを感じながらも、発達障害の診断を受けずに日常生活を送っている人もいます。
近年、「大人の発達障害」と診断される人も増えてきました。社会に出てからより生き辛さを感じ体調を崩す→病院を受診して初めて分かる、という流れです。発達障害の方は、二次障害と言って日々の強いストレスから、うつ病などの精神疾患になる可能性が高くなることが分かっています。
「あなたは発達障害です」と言われてどう感じるかは人それぞれですが、「自分の気持ちの問題じゃなかったんだ」と分かって楽になったり、薬物療法やカウンセリングなどで日常生活が送りやすくなったりして、人生が好転する場合もあります。発達障害は、とてもデリケートな問題なので、話題を出すことはとても覚悟がいるでしょう。相手との関係性も非常に重要になってきます。
ですが、本人もどうしていいか分からないような状態であるならば、一度話し合いの場を設けて、発達障害の話題を出してみるのもいいかもしれません。
職場内カサンドラになった人への対処法3選
ここまでは、職場内カサンドラの症状や予防策について解説してきました。では、実際に職場内カサンドラになってしまった人がいる場合、どのような対処をしていくのが適切でしょうか?
当然、個人によって対処法は変わってきますが、ここでは主に3つの方法を紹介していきます。
- 物理的に距離を置けるようにする
- 話を聞いて悩みを共有する
- 精神科や心療内科への受診を勧める
順に見ていきましょう。
物理的に距離を置けるようにする
ストレスの原因となる人と物理的に距離を置けるようにすることが、一番の対処法と言えるでしょう。一度苦手になってしまうと、その人の一挙手一投足が気になってしまいますよね。また、特に相手に悪意がない場合、イライラして怒ってしまう自分に対しても嫌気がさしてしまいます。
職場環境を少しでも改善するために、できるだけ遠い場所に席替えをしたり、本人の意向を聞きながら部署異動をしたりして、その人との接点を無理矢理にでも無くすことが効果的です。
ストレスは目に見えないものですが、確実にダメージは蓄積していきます。ある日突然、プツンと我慢する気持ちが切れてしまう可能性も十分にあるので、早めに実行させていきましょう。
話を聞いて悩みを共有する
サポート役を担っている人の悩みに対して、耳を傾けることがとても大切です。
その人が周りに相談をした時に、「みんな同じだよ」「あなたの指導のやり方のせいじゃない?」などと言われてしまい、職場内で悩みを共有できないことで、苦しんでいる場合もあります。
「ひとりじゃない」と実感してもらうことがなにより大切です。サポートをする上での苦しみを様々な人に共有できるだけで、孤独感が和らぎます。気軽に相談しやすい環境をつくることも、とても重要になります。悩みを共有できる風通しの良い職場環境を作っていくことは、他の社員にとってもプラスになるでしょう。
精神科や心療内科への受診を勧める
職場内カサンドラが疑われる方が、心身の不調により日常生活に支障をきたしている場合は、すぐに病院の受診を勧めましょう。特に精神疾患は、早期診断・治療がとても重要です。プロのカウンセリングやアドバイスなどを受けて症状が和らぎ、少しでも生活が送りやすくなるかもしれません。
近年では、精神科や心療内科の予約を取ることが難しいとされています。突然ガクンと精神的に落ちる場合もあるので、比較的余裕があるうちに予約しておくことが重要です。
勿論、リハビリを兼ねた通院をすることも可能です。精神科等には「精神科デイケア」というサービスが存在し、就労支援や職場復帰を目指す方や、発達障害や依存症等の精神疾患の方が利用しております。
以下の記事にて詳しく解説しておりますので、あわせて読むことをオススメします。
職場内カサンドラで退職したら労災はおりるの?
職場内カサンドラになり「もう職場で働くのは限界…」となっている方の中で、労災がおりるかどうかが気になる方もいると思います。
結論から言うと、職場のストレスから精神障害になったと診断された場合、労災が認められることがあります。
労災認定のための要件は次のとおりです。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
引用:精神障害の労災認定│厚生労働省
以上の3つの要素があると、労災がおりるとされています。
令和5年から認められる範囲が改定された
ただし、近年の社会情勢の変化によって、令和5年9月1日から精神障害の悪化の起因性が認められる範囲が改定されました。
〇精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める
引用:心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました│厚生労働省
また医学意見の収集方法についても、
〇医学意見の収集方法を効率化
専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き1名の意見で決定できるよう変更
引用:心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました│厚生労働省
といったように、以前よりも労災の認定基準の範囲が広くなり、また、スムーズに申請できるようになりました。
労災の申請を考えている方は一度、主治医などに相談をして、自分が当てはまる状態であるかを確認してみましょう。
まとめ
- カサンドラ症候群とは、正式な病名や疾患ではなく、「状態」の位置づけ。発達障害やグレーゾーンの人と関係を築くにあたり、強いストレスから精神疾患を発症してしまうことを指す。近年、家庭内だけではなく、職場内でも起こることが分かってきた。それを「職場内カサンドラ」と言う
- 職場内カサンドラでは、ストレスの影響を受けて、倦怠感や無気力などの肉体的・精神的な様々な症状が現れる
- 職場内でカサンドラ症候群を出さないための対策として、職場環境を見直したりサポート役の人の性格を考慮したりすることが大事。また、発達障害の特性を把握し、障がいに合った仕事内容を任せることや、本人に発達障害の話題を出してみることで、本人も周りの人も負担が軽くなる可能性がある
- 職場内カサンドラになった人への対処法としては、物理的に距離を置けるようにすることが最も有効的。また、その人の話を聞いて悩みを共有したり、症状が重い場合は、精神科や心療内科を受診することを勧めたりすると良い
- 職場内カサンドラが原因で精神障害になったと認められれば、労災が認められる場合がある。また、令和5年から労災認定の規定が改定され、認められる範囲が広くなった
この記事では、職場内カサンドラで起こる肉体的・精神的な症状、職場内カサンドラを出さないための対策や、なってしまった人への対処法、職場内カサンドラで労災はおりるのか?などを解説してきました。
「これぐらいのストレス、みんな感じてるし大丈夫だろう…」などと思っていると、ある日突然動けなくなることがあります。ストレスを放置し続けることは、百害あって一利なしです。身体的・精神的な全ての病気のリスクが高くなります。特に、毎日顔を合わせる人に対して強烈なストレスを感じている場合は、一刻も早く離れる選択を取りましょう。
また、職場内カサンドラは少しの工夫や対策で防げる可能性があります。気持ちよく仕事ができる環境を、職場全体で考えていけるといいですね。